第六十九術 魔術協会ダンジョン 制覇!!
「ど……どうだ?」
大爆発によって辺り一面が煙に包まれる。
やがて煙が晴れると――そこには、マルバスが立っていた。
だがその全身には無数の亀裂が走り、その隙間から眩い魔力が漏れ出している。
「うわっ……!ヒビが……」
『魔力が漏れ出している……少し経てば、消滅するな』
銀瓏が静かに告げる。
……ということは、勝ったって……こと?
『……くくっ、見事だ。冒険者たちよ……!この我を倒すとは――実に見事だ』
「お、おう」
全身はボロボロだというのに、マルバスは威厳を失わず、俺たちを称賛する。
……敵であるはずなのに、不思議と自然に頭が下がる。
最後まで戦士としての誇りを失わなかった姿は、敵味方という言葉だけでは語れないほど立派だった。
『攻め、守り、技……その全てにおいて、お前たちは己の役割を果たした』
マルバスはゆっくりと俺を見据える。
『特に――お前だ。我へ勝機を作った勇気ある若者よ』
「えっ?俺?」
そう言うと、マルバスは俺に指を指した。
『お前の勇気ある行動で勝利をもぎ取った―――賞賛に値する』
「あ、はい……」
その言葉に胸が熱くなる……
自分では無謀な賭けをしただけだと思っていた。
それを、S+ランクの魔物に認めてもらえるなんて思ってもいなかった。
『して、その勇気に報いるため、褒美をやろう……!前へ』
「えっ……」
『案ずるな。不意打ちなどという無粋な真似はせん』
「は、はぁ……」
恐る恐る近づくと、マルバスは自ら王冠を外し――俺の頭に力強く載せる。
「おうっ!?」
『受け取れ。お前にはその資格がある』
ずっしりとした重み。
それは王冠の重さではなく、王として戦い抜いた者の誇り、そのものだった。
「こ、これって……マルバスの……」
『此度の勇気、しかと目に焼き付けた―――誇れ。そして、その力を恥じるな。これはお前が、お前たちが勝ち取った勲章なのだ』
「……」
崩れ落ちそうな姿でありながら、その背中はまるで覇王そのものだった。
『さぁ!行け、冒険者諸君!!我の屍を越えて、見て、感じて、そして強く心に刻め!!まだ旅は終わりではない!これは始まりだ!!己の限界を超える旅の始まりだ!!』
その声は玉座の間いっぱいに響き渡る。
『いつの日か、この世界のすべてを巡った時、今よりさらに成長したお前たちの勇姿を、この目で見せてもらおう!―――では、これにてさらばだ!!はーっはっはっ!!』
豪快な笑い声を響かせながら、マルバスの身体は静かに崩れ去り、光となって消えていった。
――なんか、敵ながら凄い奴だった。
「マルバス……」
静まり返った玉座の間に、俺の呟きだけが小さく響いた。
そして、頭から王冠を外し、静かに見つめる。
「……幸、一応『鑑定』する?」
「……ん」
ガーネットさんに頼み、王冠を鑑定してもらう。
『裁王の王冠 『裁王』マルバスがランクの最頂点に君臨した時に授かった王冠。これを被れば誰もが認める王になれる。 装着時、属性魔法・物理耐性50%UP』
お、おお……凄いな。魔法と物理を半分カットできるのか……ゼパルの時もそうだったけど、やっぱりS+ランクの武器・防具は凄いな……
『さて、そろそろ脱出してもいいが―――ここいらで討伐の祝いをしたらどうだ?』
「え?」
「あっそれいいわね!ゼパルの時もそうだったし!」
『むっ……それはいいですね』
「おいおい……それお前達が食べたいだけだろ……しょうがないな~!」
思わず苦笑する。
まあ、皆のおかげでS+ランクを倒せたんだ。今日は思い切り豪華にしよう。
「今日はS+の討伐祝いだからな~奮発するぞ!!」
そう言い、俺は『等価交換』を展開し、項目を探す。
「……おっ!あったあった……『黒毛和牛』!!『国産』のものもあるし、別のブランド牛もある!今日はこれに決定だな!」
――ズォォォッ!
俺は、色んな牛肉を購入、錬金して、魔法陣から出る。
どれも見るからに美しい霜降り肉だった。
「よーし!今日はステーキ祭りだ!!」
『うっひょーい!!』
「ひゃっほーい!!」
『んっ……!』
色んな肉を塩胡椒で味付けして焼く!!そして、そこに色んなソースで食べまくる!!
今回はミディアムだな。よーし、焼くぞー!!
――ジュワァァァッ……!
香ばしい音と共に、肉汁が踊る。
そうして、数分かけて、色んな肉を全部焼いて、みんなの前に出した。
「みんなお待たせ!俺の地元で育った『牛肉の色々ステーキ』だ!」
『『おお!!』』
目の前に肉、肉、肉……!山のように積み上げられたステーキを見て、皆の目が輝く。
『『いただきまーす!!』』
俺たちはさっそく山盛りのステーキをいただいた。
――ガブッ!!
「んー!!うめー!!」
やっぱり国産牛うめー!値段……もとい消費は高いが、それが気にしないぐらいうめー!
「んっま!!なにこれうっっま!?レッド・ブルといい勝負するよこれ!?」
『んん!これが主の世界の肉だ!今まで食べた肉と同等のおいしさだ!!』
「これが幸の地元で育てられた肉……なんと味わい深い……!」
どうやら、皆好評のようだ。
「これも食べてみてくれ。こっちは国産よりも高い『黒毛和牛』だ!」
『……随分と小さいな』
「そう言うなよ。こっちじゃ、100gで2、3000Gするんだ」
「うへー……!そんなにするの!?」
そう言って、皆は恐る恐る口へ運ぶ。
――ハグッ
『『んっっっっまっ!!』』
「何この肉!?柔らかさが桁違い!?」
『なんと旨い肉なのだ!レット・ブルよりもこんな柔らかな肉は初めてだ!!』
『これは……美味!』
だろだろ?なんたって黒毛和牛だからな。旨さは日本一だぜ。
「その肉はこっちの世界で育てた牛で、食べるように育ててるんだ」
「へー……!幸の世界は魔物を食べるために育ててるのね」
「うーん……まぁ概ねそんな感じかな」
「こっちも動物の乳を取るために育てているけど、なるほどね……こういうのもあるのか――んー!旨い!」
『『おかわり!!』』
皆は満足そうにおかわりを強請る。
「はいはい」
俺は応えるように、皆に肉を焼くのだった。
数分後、大量の肉を平らげた皆は、満足そうにお腹をさする。
『んー……旨かったぞ』
「本当……お腹いっぱい……」
『今日も美味な食事でした』
「それは良かった」
さて、腹いっぱいに飯を食ったし、ダンジョンから帰るとするか。
「よし!みんな、片付けが終わったから、ここから脱出するぞ」
『うむ』
「分かった~」
俺たちは転送石へ集まり、ダンジョンを後にした。
◆
「で、出れた~!」
外へ出た瞬間、大きく背伸びをする。
S+との激戦だっただけに、一気に疲れが押し寄せてきたな……
すると――。
「おお、お帰りなさい」
聞き覚えのある声がした。
「ガリレオさん!何故ここに?」
「偶々通りかかったら、ちょうど出口付近で強い魔力を感じましてね。来てみたら皆さんでした」
「そうなんですね」
「――で、ここから出られたというと、最下層まで行ったのですか?」
ガリレオさんがそう言うと、ガーネットさんが笑顔で頷く。
「はい、そうです!このダンジョンを制覇することに成功したんですよ!」
「なんと、そうですか……!我が国のダンジョンを踏破・制覇したのはごく僅か。本当におめでとうございます」
「はい!」
「それはそうと、このダンジョンは少し変わった性質をしてましてね」
「ん?変わった性質?」
「ええ。奥へ進むほど、パーティー全体の実力に合わせてボスの強さが変動するのです」
「え?」
「Cランクの冒険者ならB~Aランク。Bランクの冒険者ならAランク。つまり挑戦者に合わせて難易度が変化する特殊なダンジョンなのですよ」
「「……」」
ガリレオさんの説明で俺とガーネットさんは沈黙する。
……だから制覇、踏破してるのにも関わらずS+ランクが来たのか……納得はしたけど、納得したくない。
「それで、サチさんは一体どんなランクのボスを?やはり、ギンロウさんやキリンさんがいますから、Sランクだとは思いますが……」
どうしよう、これ正直に言っていいのか……ガリレオさんの胃が死ぬんじゃねぇのこれ?
と、取り敢えず伝えないと……
「えーと、Sランクでしたね」
「ほうほう、やはり――」
「ただ、SはSでも……『S+』でしたね」
「―――っ」
その言葉にガリレオさんの動きが完全に止まった。
が、ガリレオさんが動かなくなった……
「……あの、失礼ですが。ボスのドロップ品は……」
「あ、これです」
俺は『裁王の王冠』を渡すと、ガリレオさんがじっくりと見渡した。
「……」
や、やべぇ、ガリレオさんが終始無言だ……めっちゃ真剣に見てる……
すると、終わったのか、ガリレオさんがこめかみを抑えながら口を開く。
「……ふぅ」
深く息を吐き、額を押さえる。
「これは……校長へ報告すべき案件ですね」
「こ、校長に、ですか?」
「ええ。S+ランクの討伐は前例がありません。討伐したとなれば、校長直々の評価対象になります。そうすれば、ガーネットさんは魔法士に、サチさんはSランクに昇格すると思います」
「「マジですか!?」」
俺はともかく、ガーネットさんも魔法使いのランクが上がるのか……!
「はい。ですので、証拠のためにこれは少し与らせていただきます」
「わ、分かりました」
「ご安心ください。手続きが終われば必ず返却いたします」
そう言い、ガリレオさんは去っていった。
「「……」」
情報量が多すぎて、俺たちはしばらく呆然とその背中を見送るしかなかった。
◆
夜。
俺はいつものように、ガーシュとソトールへの供え物を準備する。
「えーっと、ガーシュは洋菓子……ケーキのホール、3つぐらいでいいか。ソトールは今回は日本酒2瓶で、つまみとしてイカせんべい、柿ピーにしてと……よし」
準備を終え、静かに祈りを捧げる。
「ガーシュ様、ソトール様、お供え物の準備ができました。ガーシュ様はケーキのホール、ソトール様は日本酒とそれに合いそうなつまみを準備しました。どうぞお納めください」
その瞬間、供え物は光となり、天へと吸い込まれていった。
『うむ!今日もご苦労なのだ!サチ!――むほー!ケーキがデカいのだ!旨そうなのだ!!』
『……毎度そこまでしなくてもよいのだがな。感謝する、サチ』
二人の声が頭の中へ響く。
……やっぱりソトールはマジメだな……少しはガーシュもその真面目さを分けてほしいけど……まぁ、ソトールがストッパーになってくれるし、大丈夫か。
苦笑しながらベッドへ倒れ込む。
S+ランクとの死闘、そしてダンジョン完全制覇。
ようやく終わったけど……
マルバスの最後の言葉が頭の中で静かに響く。
『――まだ旅は終わりではない!これは始まりだ!!』
その言葉を胸に刻みながら、俺は静かに眠りへ落ちていった。




