第六十五術 第四階層 雪山
『魔術協会ダンジョン 四階層』
次の階層へ着いた俺たち、そこは―――
――ビュォォォォッ!
猛烈な吹雪が俺たちを襲った。
「「寒いっ!!」」
辺り一面は雪と氷の世界。
視界は吹雪で白く霞み、立っているだけでも体温を奪われていく。
「さ、寒い!!薄着できたから余計に寒い!!」
「ちょちょちょちょっと待ってて!!――『火炎結界』!」
ガーネットさんは慌てて杖を掲げ、淡い赤色の結界が俺たちを包み込んだ。
途端に吹きつける冷気が和らぎ、身体が少しずつ温まっていく。
「……おお、少し肌寒い所まで抑えられてる……」
「ふぅ……でも、この結界をずっと維持するのは厳しいかな」
『ふん、軟弱な体だな』
「銀瓏は『シルバードラゴン』だから寒さに強いんだろ」
『とはいえ、この吹雪はさすがに厄介ですね』
そうだな……もうだいぶ時間が経ってきたし、休めるところを探しておかないと……
「銀瓏、近くに休める場所は?」
『……ちょうど近くにセーフティエリアがある。そこで休憩してからボスへ向かおう』
「よし、それで行こう。ガーネットさんの魔力が尽きる前に着かないとな」
あと、出発する前に……『等価交換』であれを錬金しておこう……
ある程度準備した俺たちは、吹雪の中を急いで駆け出した。
◆
――パカラパカラッ!
――ビュンッ!
銀瓏と麒麟の背に乗り、雪原を駆け抜ける。
周囲を見渡しても、目に映るのは雪、雪、雪……白銀の世界がどこまでも続いていた。
「ここ、魔物が少ないな……」
『これだけの低温です。この気温に適応できる魔物は限られていますから』
「へー……ちなみにどんな魔物がいるんだ?」
「そうね……『イエティ』とか『スノーマン』とか『スノーラージ』とか……そんな感じの魔物ばっかりよ」
やっぱ、寒冷地ならではの魔物ばかりらしい……
「それより……これいいわね!たしか『カイロ』?だっけ。あったかくて心地いいわ~!」
ガーネットさんが胸元に貼ったカイロを押さえながら笑う。
「『等価交換』に冬用コート載ってて良かったー……本当、便利になったな~この『個体能力』……」
俺とガーネットさんは錬成した防寒コートを羽織り、貼るカイロで身体を温めている。
ちなみに麒麟には貼るカイロだけ。
銀瓏は寒さに強いため何も装備していなかった。
『ふむ……この吹雪を見ると、懐かしく感じるぞ』
「えっ?銀瓏、雪国に住んでいたの?」
『ああ、俺は『スノーランド』生まれだからな』
「そうなの!?」
初めて銀瓏の出所について聞かされた俺は驚く。
だから銀瓏は寒さに強かったのか。
『その国のエリアの一つに、俺たち『シルバードラゴン』の種族がいる場所がある。今度、その国に行く機会があれば、寄ってみるのもいい』
「それはいいけど……大丈夫?襲わない?」
『俺がいるのだ。馬鹿な真似をする奴はいない』
その言葉に、俺はほっと胸をなで下ろした。
その時、ふと気になっていたことを思い出す。
「そういえば、二つ名、二つ名って言われてるけどさ……銀瓏以外にも『二つ名』持ちのドラゴンっているの?」
『いるぞ』
「いるのね……」
銀瓏は歩調を緩めることなく語り始めた。
『そうだな……まずは『レッドドラゴン』。好戦的な種族だ』
「それって、銀瓏みたいな?」
『……あいつらよりは理性的だ』
思わず苦笑する。
自分で言うって事は、相当血気盛んなドラゴンかな……
『奴らは戦うこと自体を好む。同族だろうが他種族だろうが構わず喧嘩を売る』
「へ、へぇー」
『そして『烈火の紅赤龍』は相当暴れん坊将軍で、こいつのせいで滅んだ街も少なくはない』
「ひぇ……!」
それだけで危険度が伝わってくる。
そんなやばいドラゴンが要るのかよ……!
「ちなみに、銀瓏は戦ったことは……」
『あるな。その時はお互い引き分けに終わったがな……』
ひ、引き分け!?
あの銀瓏を引き分けにできるなんて……二つ名はやっぱ伊達じゃないな……
『次に『ブルードラゴン』。こいつらはまぁ……他のドラゴンと比べて温厚だ』
「温厚……」
『ああ、奴らは住処を荒らさない限り攻撃はしないからな……とはいえ、ダンジョンの最下層にいるのだから、滅多に来ないがな』
「ダンジョン?」
「そういえば言っていなかったわね。『ブルードラゴン』の種族が住んでいる『オードブル』はダンジョンそのものが街なのよ」
「ダンジョン自体が街!?」
なんだそれ!?聞いたことないぞ!?
『聞いたことがありますね。このダンジョンと同じで階層が少ない代わりに広さが段違いだと……』
「へー……そうなんですね」
「あそこは魚か豊富で、全ての国の種類の魚が生息しているって言われてるの!」
全ての!?凄いなそれは……
『そして『深海に潜む水蒼龍』は大人しい奴でな。普段は海底で暮らしている』
「ふーん……ん?銀瓏、お前あったことあるの?」
深海の底で暮らしているなら、会う機会無いと思うが……
『ああ、昔な……『二つ名』同士で集まることがたまにある』
「そんなことがあるの!?」
「聞いたことあるわ。確か『混辰会』っていうやつよ」
……懇親会?
「混辰会っていうのは、二つ名を持つドラゴンだけが参加できる日なの。戦ったり、話し合ったりするとかなんとか……」
『概ね合っているな』
「そ、そんな感じなんだ……」
『まぁ、そいつとは軽く会話した程度だがな……』
そう言うと、銀瓏は次の話へ変える。
『次に『グリーンドラゴン』。人目を避けて生活してる種族だ』
「ここに来てコミュ障?」
『まぁ、ブルードラゴンと同じ大人しい奴だが……動きがなんせ素早い。俺でさえも追いつけないくらいはな』
「マジで!?」
あの銀瓏が言うぐらいだから相当早いのか……!
『その中でも『暴風を生む嵐緑龍』は別格だ。早すぎて残像をうみだす』
「忍者かなんかかな!?」
『それで、あの『烈火の紅赤龍』が全く攻撃を当てられず怒っていたな。今思い出しても……クククっ!』
銀瓏は面白おかしく笑う。
『さて、次に『イエロードラゴン』。金目のものにがめつい種族だ』
「よくRPGで見た設定だな……」
『特に『地壊なる土黄龍』は高飛車な奴で豪華な装備を見に纏って、『オホホ』と笑うぞ』
「うわぁ……お嬢様っぽいな」
『実際にメスだぞ。あいつ』
「うそぉっ!?」
ドラゴンの性別に思わず驚く俺。
『最後に『ゴールドドラゴン』。誰よりもプライドが高い種族だ』
「へー」
『特に『雷光に轟く黄金龍』は、ドラゴン以外の種族を『雑種』だと罵るからなあいつ』
「『雑種』て……それは性格きつそう……」
『そして『雷光に轟く黄金龍』は――』
銀瓏は露骨に嫌そうな顔をした。
『俺に求婚してくる』
「「えぇぇぇっ!?」」
まさかの展開に俺だけじゃなくガーネットさんも驚く。
『『我の夫になれ』『我だけを見ていろ』とうるさくてな』
「ああ……束縛系か」
『だから逃げた』
成程、確かにある程度の自由ができないとなると嫌だわな。
「もしかして……突然『パシフィスト』現れた理由ってそれ?」
『ふむ……そうなるな』
成程……だから比較的ランクが低い場所に現れたわけか……
そんな話をしているうちに、雪山の中へぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきた。
『むっ?そうこう話している内にセーフティエリアに着いたな。あそこで夜ご飯にしようか』
「やっとか……いや長かったな……」
「結構時間がかかったけど、魔物と出会わずに終わったね~」
「だな。まぁ出会わないことがいいことなんだけどね」
俺たちは洞窟へ入り、冷え切った身体を休めることにした。
◆
こんな寒い所で食べるものと言えば―――『鍋』に決まりだな!
今日は……『濃厚味噌鍋の素』を使った味噌鍋だ!
寒い中でシメの麺で食べる『味噌ラーメン』……良い!
野菜、肉を入れて素と一緒に煮込むだけで簡単だからスムーズに行けるな!
まず、キャベルーツを一口大、ギネロを斜め切り、キャーロトを短冊切りに切る。
肉は……ケルベロスの肉が残っているから、この際全部使うか!
肉を一口大に切って……豆腐も食べやすい大きさに切って、しめじは石づきをとって小房に分ける。
鍋に素を振ってから入れ、火にかける。
沸騰したら具材を入れて、火を通す。
――グツグツ……
香ばしい味噌の香りが洞窟いっぱいに広がっていく……
よし、火が通ったら―――完成!『ケルベロスの味噌鍋』!
「できたぞー!」
『『ひゃっほーい!』』
湯気の立つ鍋を囲み、全員で手を合わせる。
『『いただきます!』』
そして、熱々の具材を頬張る。
――ジャクッ……
『『っ!!』』
う、うめぇーーー!!
濃厚な味噌出汁に野菜や肉に染み込んでて、うめー!!ご飯が進む!!
『んん!なんと濃厚な味だ!肉も味が深みを増していい!』
『野菜も丁度いい感じに合わさってどんどん食べれます!』
「ほぁ~温まる~……」
皆もバクバクと食べ進める。
夢中になって鍋をつつき、気付けば具材はほとんどなくなっていた。
「じゃーん!シメのラーメンだぜ!」
『『なぬー!!』』
俺は麺を鍋へ投入し、さらにバターをひとかけ……スープへ溶かし込んでから器へよい、食べ始める。
――ズゾゾ!
「んー!うめー!」
麺がスープに絡んで、マジで味噌ラーメンだ!!バターを入れたからコクが出て、さらにうめ―!
『んん!なんだこれは!コクが段違いだぞ!』
『シメとはいいモノです……』
「はふはふ……ズゾゾ!!」
一心不乱にシメの食いつく皆。
あっという間に鍋も締めも平らげ、全員が満足そうに息をついた。
「ぷはぁー……美味しかったー……」
『んむ!鍋にシメは良い物だ!』
『本当にそうですね』
「はは、だいぶ食べたな~」
やっぱり寒い時に食べる鍋は勝るものはないな!
幸せな余韻に浸りながら、俺たちは翌日のボス戦に備え、暖を取りつつ眠りにつくのだった。
~異世界知識~
ちなみに
レッドドラゴン種は『ボルケーノ』
グリーンドラゴン種は『フローラル』
ブルードラゴン種は『オードブル』
イエロードラゴン種は『エルドラド』
ゴールドドラゴン種は『スカイピア』
な感じで生息地になっている




