第六十四術 第三階層 墓場
『魔術協会ダンジョン 三階層』
転送された先は、薄暗くて不気味な空気が漂う場所だった。
「ここ……墓場か?ずいぶんと気味の悪い場所だな……」
「気をつけてね。こういうのは大抵『アンデット系』の魔物がうろついているわ」
『アンデットですか……なら、問題はありませんね──私の『聖属性』なら一撃です』
「わぁ頼もしい……」
こんなに心強い言葉もないな……
そう思った矢先――
――ズズズッ……
地面を割るように、人型の魔物たちが姿を現した。
「って来た!?」
「『ゾンビ』に『マミー』に『ゴースト』……どれもC、Bランクの魔物ばかりね」
『たとえ耐久力が高かろうと――私には敵いません』
麒麟の角から神々しい雷光が集まってくる。
『聖なる雷よ!悪しき魂を浄化せよ!―――『聖光砲』!』
――ズドォォンッ!!
角から放たれた眩い光の奔流がアンデッドの群れを飲み込み、一瞬で消し飛ばした。
『ふっ――ざっと、こんなものです』
「うわ……すげぇ……」
一発であれだけいたアンデット軍を消し炭にしたぞ。
『さてと、先を急ぎましょう』
「そうだな」
俺たちは再び銀瓏と麒麟の背へ乗り、墓場の奥へと進んでいく。
◆
道中、現れるアンデッドはすべて麒麟が浄化していく。
そんな中、銀瓏が少し不満そうに口を開いた。
『むぅ……俺も暴れたいのだがな……アンデットとなると高火力で押し切るしかないから勝手が悪い……』
「確かに、いくら麒麟さんでも、あれだけの数を相手にしてたら疲れるんじゃ?」
『ここの階層の魔物はそれほど強くはないですが……力は温存できるなら、その方が得策です』
そう言うと、麒麟の身体から淡い光が広がり、俺たち全員を包み込んだ。
「麒麟さん、今のは?」
『私の『聖属性』を一時的に付与しました。これで皆さんの攻撃にも浄化の力が宿ります』
『おお!では早速――』
ちょうどその時、地面からゾンビが這い出してくる。
『ふんっ!』
――ズパパッ!!
銀瓏の鋭い爪がゾンビを一瞬で切り裂き、その身体は光となって消滅した。
す、すげぇ効力……!
『おお!これなら、あのしつこいアンデッドどもも楽に始末できる!』
「はしゃいでるな……銀瓏のやつ」
「この階層じゃ全然戦えなかったもんね~……」
そんな会話を交わしていると、今度は霧のような身体を持つゴーストの群れが現れた。
「来たな!『水連銃』!」
俺は『ウィズ』をアサルトライフルに『錬成』させ、水弾を連射する。
――ドドドドッ!
次々と放たれた水弾がゴーストを撃ち抜き、霧散させた。
「『水弾魔法』!」
――ズゴゴゴッ!
今度はガーネットさんの水弾を連続で放ち、残ったゴーストを撃ち落としていく。
「すごいすごーい!アンデットたちがこうも簡単に倒せる!」
「さすがだぞ、麒麟さん!」
『それほどでも……』
こうして麒麟の加護のおかげで、アンデッドの群れをものともせず奥へ進んでいった。
◆
ようやく、セーフティエリアに着いた俺たち。
ここで腹ごしらえをしようと思ったのだが……
「臭い……」
そう、臭いのだ……
道中アンデッドとの連戦で、その臭いが服や身体へ染み付いてしまっている。
これではせっかくの料理も台無しだ……
「しょうがない、ここで一度身体を洗ってからご飯にしよう」
「賛成!」
『とはいえだ……この腐敗した空気はどうする?俺は別に気にはならんが……』
「そうだな……あっそうだ!」
空間の匂いを消すと言えば……これに限るな!
取り敢えず、俺はガーネットさんの『香水』、木と炎で錬金した『木炭』を取り出す。
「香水と木炭?……何を錬金するの?」
「嫌な匂いを消すには――やっぱこれでしょ!」
俺はこの二つの素材を『合成錬金』で造り始める。
『香水』+『木炭』⇒『消臭剤【炭の香り】』
二つが合わさり、見慣れた置き型の消臭剤が完成した。
「なにこれ?」
「これは嫌な臭いを吸収して、いい匂いを出す道具です。早速試すか……」
俺は完成した消臭剤をその場へ置いた。
すると―――
『ん?』
『おお……』
「おお!」
しばらくすると、辺りを満たしていた腐臭が嘘のように消えていく。
あれ……消臭剤ってこんな効力だったけ?もしかして、魔道具として確立したから性能が上がったのか?
「すごっ!こんなにコンパクトな魔道具なのに、もう臭いがなくなった!?」
「……まぁこれで、心置きなく料理ができますね」
その後、一度風呂へ入り汗を流すと、改めて調理を始めた。
「今日は手早く済ませたいし……『冷凍ちゃんぽん』にするか!」
これを鍋に入れて、火にかけるだけで作れるからいいよな~それに、野菜もたっぷりだし、温かい!
「ほら、出来たぞ」
『『わーい!』』
完成したちゃんぽんを渡して、食べ始める。
『『いただきます』』
――チュルッ!
んん、うまい!やっぱ冷凍もうまいな……たまに食べたくなる。
「んー!美味しい!スープが濃厚!」
『ふむ……肉が少ないが、これはこれでいいな』
『野菜の甘みがよく出ていますね』
日本の冷凍食品の技術は凄いからな~今では名店のものだって再現できるんだからな。
そうこうして、あっという間に食べ終わる。
もちろん、これだけだと少ないので―――
「じゃーん!デザートに『プリン』や『コーヒーゼリー』を用意しました!」
『『おお!!』』
俺と銀瓏は生クリーム入りプリン、麒麟とガーネットさんはコーヒーゼリーを渡して、食べ始める。
『んむ!このプリンとクリームが一緒に味わうことで一段と濃厚な味が口に広がる!』
『程よい苦みと甘さがこれまたいい……!』
「んー!これ好きかもー!」
「だよな~どれどれ?」
俺も一口プリンを食べ始める。
んー!普通のプリンもいいが、生クリーム入りもいいよな!よく学校の売店に並んでいたもんな~うめー!
デザートも食べ終わり、十分に英気を養った俺たちは、第三階層のボス部屋へ向かった。
◆
「さてさて……今回のボスは?」
部屋へ足を踏み入れた瞬間。
――カチャ……カチャカチャ……
周囲に散らばっていた鎧がひとりでに動き出し、黒い靄を中心に組み上がっていく……
やがて、一体の騎士が姿を現した。
『……』
「うおっ!なんか鎧が勝手に合体したぞ!」
「あれは『ジェイド』ね。Bランクのアンデットよ!」
『ふん!今の俺らには麒麟の力を付与されているのだ――行くぞ!』
そう言って、銀郎は翼を広げ、ジェイドに突撃する。
――ガシャァァァンッ!
すると、ジェイドはあっけなく崩れる。
『むっ?なんだ?もう終わりか?』
「……っ!いや、まだよ!」
その瞬間、砕けた鎧が再び黒い靄へ引き寄せられ、元の姿へ戻っていく。
『っ……!』
「集まった!?」
『……なるほど、本体はあの靄ですか。鎧は器に過ぎませんか』
キリンがこの状況を分析すると、ジェイドは影へ溶け込むように姿を消した。
「っ!?消えた!?」
「気を付けて!ジェイドは下の中を自由に移動する能力があるわ!幸、私の後ろにくっついて!」
「お、おう!」
俺は『フォース』を盾へ錬成し、ガーネットさんと背中合わせになる。
――シュバッ!
その時、柱の影から飛び出したジェイドが、ガーネットさんに襲い掛かる。
「っ!『絶対防御結界』!!」
――ガキィィンッ!
ガーネットさんの結界により、ジェイドの不意打ちを防ぐ。
『っ!』
「『錬金術:風』!」
――ゴォォォッ!
弾かれた反動の隙を突いて、俺は大気中の風を錬金術で操り、竜巻がジェイドを飲み込み、宙へ拘束する。
『グルゥアアッ!!』
『―――『天誅』!』
その隙に二人の高火力の魔法を放つ。
『―――っ!』
――ズドォォンッ!!
轟音とともに爆発が起こり、煙が晴れると――そこには黒い靄はなく、砕け散った鎧だけが転がっていた。
「倒した……のか?」
『……魔力を感じないな。完全に消滅したようだな』
『なかなか厄介な能力を持った魔物でした』
「アンデッドには、こういう特殊能力を持つ個体も少なくないの。低ランクでも油断できない相手よ」
「まぁ、今回は麒麟さん能力のおかげで楽にはなったけどね」
『ぶい』
誇らしげに胸を張る麒麟を見て、思わず笑みがこぼれる。
こうして三階層を無事攻略した俺たちは、四階層へ向けて『転送石』へ足を踏み入れるのだった。




