第六十二術 破壊神ソトール
破壊神『ソトール』……
それは、『秩序』を重んじる神であり、この世の万物を破壊できると語り継がれる神……
そんな神が、まさかガーシュの前へ姿を現すとは――!
『ガーシュ、貴様……最近はやけに静かだとは思っていたが……こんなところで人間にたかっていたとは……!』
『ままま待つのだ!早まるなぁ!?』
……なんだ、この威圧感。
声だけなのに、空気が震えるような怒気を感じる。
しかも、あのガーシュがここまで怯えるなんて……相当な存在なのは間違いない。
『こ、こいつが我輩へ祈りを捧げる者に加護を与えておるのだ! 前にソトールが言っていたことなのだ!』
『……だが、それは貴様が供え物をもらうための免罪符に過ぎんだろう?』
『ぎ、ギクゥ……!』
……ガーシュ、完全に追い詰められてるな。
『だ、だがしかしソトール! 人間どもが我輩へ供え物をすること自体は、何ら不思議ではないだろう?』
『そうだな。だが、今の会話を聞く限りでは、貴様が人間にたかっているようにしか聞こえなかったが?』
『ギクク……!き、聞こえてたのだ』
『ふぅ――』
深いため息が聞こえた。
そして次の瞬間――
『ガーシュ!神である貴様が!自分勝手の都合で人間にたかるとは何事だ!!』
――ゴッチィィンッ!!
『ピギャァァァッ!?』
鈍い音が響き、ガーシュの悲鳴が辺りへこだました。
な、何をしたんだ?声しか聞こえないから何したか分からん……
※ソトールがガーシュの頭に拳骨を喰らわしています。
『ぷきゅ……』
『たく……んんっ!あー……そこの人間』
「あ、はい」
一つ咳払いをすると、ソトールは俺へ声を掛けてきた。
『たしか貴様は『サチ』と言う名だったな』
「は、はい……そうです」
『うむ……まずは謝罪しよう。今までガーシュのわがままに付き合わせてしまい、すまなかった』
「え?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
まさか、神様から謝られるなんて思ってもみなかった。
「ああ、別に大丈夫です。ガーシュ様の加護には、本当に助けられていますし」
『……そうか。それならよい』
少しだけ声音が和らぐ。
――だが次の瞬間、再び真面目な口調へ戻った。
『では聞くが……実際、ガーシュへ供え物はどれくらい渡している?』
……これ、嘘言わない方がいいよな?
「えっと……週一かそんくらいに……」
『あの量でか……っ~』
ソトールは低く唸り、しばらく黙り込む。
あー、相当怒ってそうだな……
『……はぁ。仕方あるまい』
一つ息を吐き、静かに告げた。
『サチよ――我の加護も受け取れ』
「――え?」
今なんつった?えっ加護?
ソトールの加護??
それを受け取れって言ったの???
「いやいや!大丈夫です!もうガーシュ様の加護もありますから」
『そうはいかん。これだけ世話になっておいて、それでは釣り合わん。本来、一人の人間へ複数の神が加護を授けることは推奨されん……だが、貴様なら問題ないだろう』
「いやいや本当!大丈夫ですって!そもそも二柱の神から加護を受けてる人なんていないでしょう!?」
『いや……いるぞ』
「えっ!?」
いるの!?そんなチートみたいな!?
※おまいう。
『俺が見た限り、二人はいたな――と言うわけだ、受け取れ』
そう言った直後――
俺の全身が淡く光を帯び始めた。
「のわぁぁぁっ!!」
『安心しろ、流石に加護は【小】だ……それでも、加護が二つもあるのだ。並大抵は問題ないだろう』
「そ、そういう問題じゃないのですが……」
やべぇやべぇよ……これが周囲へ知られたら、面倒どころの話じゃ済まない気がする……
『さて、そろそろ通信を切るが……ひとつ、頼みごとをいいか?』
「え?何ですか?」
珍しく、ソトールは少しためらうように言葉を選んだ。
『その……なんだ。サチが取り寄せる商品には、少々興味深くてな……できれば――』
そこで言葉を切る。
『……いや、忘れてくれ』
そう言って話を終えようとする。
……本当に真面目な神様なんだな。
――しょうがない。
「あの……ご迷惑でなければ、ガーシュ様と一緒にソトール様の分も供えますよ?」
『っ!……いいのか?』
「はい、なんせ魔力残高も沢山ありますし、1人増えても大丈夫ですから」
『そ、そうか……』
短く答えた後、ソトールは少し考えるような間を置いてから口を開く。
『では……酒を頼みたい』
「お酒ですか?」
『以前、バイコーンに少し分けてもらったことがあるのだが……実に美味だった。できれば、サチの世界で造られた酒を飲んでみたい。種類は任せる。貴様が良いと思うものを選んでくれ』
酒か……なんというか、神様らしいお願いだな。
「分かりました。じゃあ次に供える時、俺のおすすめを見繕っておきます」
『ああ。本数は二本ほどで十分だ。それに毎月でなくても構わん。半年に一度でもいい。サチの都合の良い時で問題ない。ガーシュには私から言い聞かせておく』
「あ、はい」
……本当に律儀な神様だ。
『ではさらばだ』
その言葉を最後に、通信は途切れた。
な、なんかどっと疲れたな……
思わずベッドへ倒れ込む。
「破壊神の加護、か……」
ガーシュの加護に続いて、今度はソトールの加護まで。
「なんかもう……勝手に強くなっていくなぁ……」
そう呟くと、俺はそのまま深い眠りへ落ちていった。
◆
次の日、朝食を囲みながら、昨日あった出来事をガーネットさんたちへ話した。
「えええっ!?破壊神の加護を貰ったの!?」
「はい、そうなんですよ……ガーシュ様への供え物の件で、その流れになりまして……」
『ふーん……』
『ソトール様は非常に真面目なお方ですからね。その理由なら納得できます』
加護を授かっている麒麟が静かに頷く。
やっぱり麒麟たちから見ても、ソトールは堅物という印象なんだな。
「いいな……二つの加護持ちにしかもSランクの契約獣までいるなんて……。うぅ……どんどん私の立場が狭くなっていく……」
「が、ガーネットさんは、この世界の常識担当ですから! まだまだ重要な役割がありますよ!」
『……それ、余計に追い打ちを掛けてないか?』
ええい、やめやめ!
取り合ず話題をそらそう!!
「『破壊神の加護』は創造神の加護と違って攻撃寄りの加護なんでしたっけ?」
「そうよ。ほら、これを見て」
ガーネットさんが俺のステータスを表示する。
【加護】
・創造神の加護【小】
・破壊神の加護【小】
・魔力節約【小】 ・魔力威力最大値20%UP ・魔力威力成長値UP【小】 ・魔法発動速度【小】 ・無詠唱術
こんな感じだった。
創造と破壊……対となる神だけあって、こちらは完全に魔法戦闘向けの加護らしい。
『ふむ……さて、朝飯も食べたし──早速ダンジョンへ行こうではないか!』
『そうですね』
銀瓏と麒麟はやる気十分のようだ。
「それじゃあ、私たちも行こうか」
「そうですね」
こうして俺たちは、この国が誇る巨大ダンジョンの入口へ向かうのだった。




