第六十一術 換金ついでにダンジョンの準備
解体場へ到着した俺たちが中へ入ると、そこには皮や血液の入った瓶、爪や牙、骨など、解体されたケルベロスの素材が整然と並べられていた。
「うわっ!これ全部ケルベロスですか!?」
「ああ、そうとも。驚いたかい?」
「凄い量ですね……」
流石Sランクだというべきか……並べられた素材を見渡しながら感心していると、ヴァンさんが少し遠慮がちに切り出した。
「それで……実は、ケルベロスの一部を買い取らせていただきたいのですが……」
「えっ?ああ、俺は大丈夫ですが……皆は?」
俺自身は素材に特別なこだわりがないため、仲間たちへ視線を向ける。
『俺は肉以外構わん』
『同じく』
「これだけたくさんあるなら大丈夫だよ~」
「……と言うことなので、どうぞ」
「本当かい!!それじゃあ、早速見繕ってくるよ!」
ヴァンさんは目を輝かせながら素材の山へ飛び込んでいった。
……数分後、ヴァンさんが厳選した素材を抱えて戻ってくる。
「悩んだけど、これを買い取らせてもらうよ」
「何にしたんですか?」
「まずはこれ――『ケルベロスの血液』を三本」
真紅の血液が詰まった瓶が三つ並べられる。
「次に――『ケルベロスの腰椎』だ」
ドン、と太く長い骨が机へ置かれた。
「最後に――『ケルベロスの牙』を数本だ」
鋭く輝く牙が大小いくつも並ぶ。
「以上ですね」
「へぇ……思ったより控えめなんですね」
「これだけでも何百万Gしますからね」
「ええっ!?」
さらっととんでもないこと言ったぞ!?
これだけで何百万Gもするのか!?
驚いている俺に、ガリレオさんが苦笑しながら補足してくれた。
「Sランクの魔物は非常に希少ですからね。それだけ価値が高いんですよ。この価格でも妥当なくらいです」
「そ、そうなんですか……」
ひぇ~……改めて、Sランクという存在の凄さを思い知らされるな~……
すると、ガリレオさんが話題を変えた。
「ところで、このあと何か予定がありますか?」
「えっと……ケルベロスの解体が終わりましたし、特には……」
「でしたら、せっかくです。我が国のダンジョンへ挑戦してみてはいかがでしょう?」
その一言に、銀瓏が勢いよく反応した。
『ダンジョン!それはいいな!丁度腹ごしらえの運動がしたいところだったのだ!』
「銀瓏……またお前は……」
『それは賛成ですね』
「麒麟さん!?」
意外にも、麒麟まで乗り気だった。
『私もちょうど体を動かしたいと思っていたところです。一度、この国のダンジョンを見てみたいですし』
「えー……」
思わず苦笑いが漏れる。
「あはは……こうなったらもう、止まらないね」
「はぁー……しょうがねぇ、まぁSランク以上の実力者がいるし、何とかなるか……?」
そう呟きながら、俺はダンジョン探索用の食事を準備することにした。
◆
「さて、作るとしても――ガーネットさん、ここのダンジョンってどれくらいの規模なんですか?」
二十階とか三十階とか平気でありそうなんだよなこのダンジョン。
「うーんとね……ここのダンジョンは、所謂経験値稼ぎやG集め、魔法研究の資材とかの為に頻繁に通っているの」
「ふむふむ……なるほど。それだけ利用されてるなら、結構な階層数があるんですね」
「いや?たったの六階層しかないよ」
「『短ぇ!?』」
たった六階層という少なさに、思わず銀瓏と声を揃えてしまった。
「ただ、一階層の広さはダントツで桁違いよ。国ぐらい広いのがこのダンジョンの特徴よ」
「それは果たして、ダンジョンと言うのか???」
国ぐらいの広さを持つダンジョンってなんだよ……不思議なダンジョンでも見たことないスケールだぞ……!
そんなことを考えながら、調理を始める。
「広いとなると……作りだめは多くなるな――そうだ!こういう時は、時短の味方――『冷凍食品』のでばんだな!」
これさえあれば、炒めるか焼くだけだし、何より旨い!休みの日や手間を掛けたくない時には本当に便利だ!
――本当、『等価交換』様々だ……!
そうだ……そうえば、俺もLVが上がったおかげで品物に変化があったような……おっあったあった。
そこには新たに『唐揚げ』や『コロッケ』などの惣菜が追加されている。
以前は並んでいなかった商品だ。
「惣菜もいいけど……少し、アレンジしてみるか!」
『唐揚げの親子丼』
まずネギオンを5mm幅に切り、鍋に親子丼の素と水を加え、ネギオンを入れて、柔らかくなるまで煮込む。
次に唐揚げを入れ、たっぷりと吸わせて……溶き卵の半量を加えて蓋をし、弱火で1分加熱する。
半熟になったら残りの溶き卵を加えて10秒ほど中火にかけ、火から下ろして、ご飯に盛りつけたら―――完成!
『簡単コロッケグラタン』
耐熱の容器に、コロッケを食べやすい大きさに崩しておく。
そこに市販のホワイトソース、野菜を入れる。
チーズをかけて、オーブンで10分ぐらい表面をこんがり焼いたら――完成!
「ほら~みんなできたぞ~!」
『わーい!!』
出来立ての料理を机に置くと、みんな一斉に食べだす。
『いただきまーす!』
――ハムッ。
「んん!旨い!」
唐揚げにしっかり染み込んだ出汁が旨味をさらに引き立て、ご飯との相性も抜群だ……うめぇ~!!
「んーふふっ!この熱々の料理、チーズがとろけて、中の具材が合わさって美味しい~!」
『んん!この肉は唐揚げか?ジューシーな味に汁が染み込んでご飯との相性抜群だな!』
『このホクホク感……野菜とチーズというとろっとしたものが合わさって美味です……!』
おおっ。どうやらアレンジ料理は皆好評のようだな……よしよし。
『『おかわり~!!』』
「はいはい」
元気よくおかわりを求める二人に笑みがこぼれる。
初めて作った料理だったが、喜んでもらえたようで何よりだ。
あ、そうだ。明日ダンジョンに行くし、神様に供え物してとくか……
そう思った俺は大量のお菓子を用意し、ガーシュへ祈りを捧げた。
「ガーシュ様、お納めください」
『おお、来たのだ!』
供えたお菓子は光へと変わり、一瞬でガーシュのもとへ届けられる。
『うーん……これこれ!この菓子がいっちばん美味しいのだ!』
「そんなにお菓子ばかり食べていたら体に悪いですよ~?」
『大丈夫なのだ!!我輩は神なのだから、そういう心配はないのだ!』
へー、そうなのか……神ってやつは便利なものだな~
――その時だった。
『――随分と景気がいいな』
『ふふーん、当然なのだ!こんな旨い菓子がたらふく食えるのだ。これ以上の幸せは―――ん?』
ガーシュとは違う、低く重々しい男の声が響いた。
「……?」
誰だ?
『なっ!ななな……』
途端に、ガーシュの声が震え始める。
なんだなんだ?一体誰がいるんだ?
『ガーシュ、貴様……こんなところで隠れて人間にたかるとは――いつからそんな腑抜けになった……?』
『ピッ……ピェェッ!!そ、そ、そ……ソトール!?』
ガーシュが悲鳴にも似た声で叫ぶ。
その男の正体は、ガーシュの夫にして、破壊神と恐れられる存在……
―――『ソトール』だった。




