第六十術 ケルベロスパーティー
多少の面倒事はあったものの、何とかガリレオさんのもとへ辿り着くことができた。
俺は部屋の扉の前で一度ノックをし、声を掛ける。
「ガリレオさん。入りますよ」
「おお、来たか。待っていたよ」
椅子に腰掛けていたガリレオさんが立ち上がり、こちらへ歩み寄ってきた。
「えっと、ケルベロスの解体がどうなったのか様子を見に来たんですが……」
「ああ、それなら──」
ガリレオさんが言い終えるより早く――
バンッ!
勢いよく扉が開かれ、ヴァンさんが興奮した様子で飛び込んできた。
「サチくん!!」
「うおっ!?……ヴァンさん?」
荒い息をつきながら一直線に駆け寄ってきたヴァンさんは、そのまま俺の両手を勢いよく掴む。
……いや、怖っ!?
「ありがとうございます!!お陰で、ケルベロスのありとあらゆる所を調べあげることが出来ました!それはもう!一睡も出来ないくらいに!」
「そ、それはそうですか……ははっ……」
よく見ると、ヴァンさんの目の下には濃いクマが浮かんでいる。
……本当に寝てないんだ、この人。
「えっと………それで、解体のほうは?」
「あぁ、安心したまえ!バッチリと解体済みさ!」
ヴァンさんは自信満々に親指を立てた。
『おぉ!ということはついに、ケルベロスの肉が食えるのだな!!』
「えっ?食うって──ケルベロスをですか?」
銀瓏の言葉に、ガリレオさんが目を丸くする。
まあ、普通はケルベロスを食べようなんて発想にはならないよな。
「えぇ、まぁ」
「何だって!?」
今度はヴァンさんがさらに目を輝かせながら迫ってきた。
「あのSランクのケルベロスを食うんですか!なら是非………是非!私にもケルベロスを試食させてくれ!!Gなら払おう!冒険者時代に結構あるから!お願いします!!」
「お、おう……」
「ヴァン……」
肩を掴まれたまま必死に懇願される。
……迫力がすごい。
とりあえず、銀瓏たちにも確認しておくか。
「どうする?」
『むぅ……俺としては肉が減るのはなぁ……』
『──ここは素直に食べさせたほうがよろしいかと』
意外にも、麒麟が賛成した。
「えっ意外……麒麟さんがOKするなんて」
『あの人は何が何でも押し切ってくるタイプですから。後々面倒になるくらいなら、最初から分けたほうが得策です』
『……』
さ、流石経験者、説得力が違う……銀瓏まで黙っちゃったよ。
「じゃあ許可も出たことですし、早速肉のある場所へ案内してもらえますか。……あ、ガリレオさんも一緒にどうです?」
「え?いいんですか?」
「はい、ぜひ。折角の機会なので」
ガリレオさんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら頷いた。
「では、お言葉に甘えましょう。それにしても……ケルベロスの肉を食べるなんて、生まれて初めての経験ですよ」
「あはは……それは俺もです……」
こうして俺たちは、ヴァンさんに案内されながらケルベロスの肉が保管されている場所へ向かった。
◆
「ここが肉の保管場所さ!」
案内された先は、肌を刺すような冷気が漂う部屋だった。布で包まれた大きな塊がいくつも並んでいる……
見るからにここは冷凍室か?
「ここって?」
「ここは生ものなどを保管するための『魔法式冷房室』さ。ケルベロスの肉以外にもさまざまななものが保管しているのさ」
『そんなことより、そのケルベロスの肉はどこだ?』
「ああ、それはここだよ銀瓏ちゃん」
ヴァンさんが指差した先には、大きな包みが山のように積まれていた……結構デカくて多いな。ざっと十個ぐらいか?
「結構取れましたね」
「ああ。牙に血液、毛皮なんかも無事に回収できたよ。それらは後で渡すとして……さあ! 早速食べてみようじゃないか!」
『うむ!そうだな!随分と待たされたからな!』
ヴァンさんと銀瓏が揃って食欲を爆発させる。
さて……作るとして、今回はステーキだけじゃなくて、ローストビーフにも挑戦してみるか。
「この協会の裏に広いリビングがあります。そこで食事するのはどうでしょう」
「いいですね!そうしましょう!」
俺たちはガリレオさんの案内でリビングへ移動し、肉を運び込んだ。
「わくわく……」
『そわそわ……』
ヴァンさんと銀瓏が期待に満ちた視線を向けてくる。
やりずらいなちょっと……
『落ち着きがないですね……』
「そう言う人ですから……あの人……」
『大変ですね、お互い』
「ええ……」
一方で麒麟とガリレオさんは、問題児二人について妙に意気投合していた……
俺は苦笑しながら調理を始める。
さて、ステーキは簡単に作れるから、ローストビーフを先にするか。
ケルベロスの肉に塩をすり込ませ、10分置く。
フライパンを中火で熱してオリーブオイルを入れ、肉を入れて表面全体に軽く焼き目をつける。
オーブンシートを敷いた鉄板に軽く焼いた肉とスライスしたガーリンクを乗せ、140℃くらいで30〜35分焼く。
その間に米を焚いて……
焼きあがったらアルミホイルで包んで粗熱が取れるまでそのまま室温におく。
粗熱が取れるまで、ステーキを作っておいて……
最後に、肉を切り分けたら……
―――完成!!『ケルベロステーキとケルべロースト』!!
『おおおおっ!!』
料理がテーブルへ並んだ瞬間、歓声が一斉に上がる。
「よし……じゃあ、早速――」
『いただきます!!』
まずはローストビーフを一切れ、タレへくぐらせ、そのまま口へ運ぶ。
――パクッ
「……っ!旨ァァッ!!」
噛んだ瞬間、驚くほど柔らかな食感、そこから濃厚な肉の旨味が一気に口いっぱいへ広がっていく―――流石Sランク……今まで食べてきた肉とは違う……味も鶏、豚、牛、それぞれの長所だけを詰め込んだような極上の味わいだ。
続いてステーキを頬張る。噛んだ途端、熱々の肉汁があふれ出し、口の中を幸福で満たしていく。
……たまらない。
『んん!これがケルベロスの肉か!前に食べた物と断然違うぞ!!』
『このワサビ醤油と結構合いますね……ワサビとやらが脂の甘さを程よく引き締めてくれます』
「ん~……まぁい!Sランクの肉ってこんなにも美味しいのね!!」
「こ、これは……三つ星、いや五つ星級と言っても過言ではありませんぞ!」
各自、様々な反応をみせる。
どうやらご満悦のようだな……っあれ?ヴァンさんは?
「ぐすっ……ぐすっ……」
わ、わぁ……泣いちゃった……
「このヴァンパイア人生で初めてSランクの肉を実食して……それがこんなにも……こんなにも美味なものなんて……私は―――今、猛烈に感動してる!!」
「……」
涙を流しながら天を仰ぐヴァンさん……怖っ。
そんな一幕もありつつ、料理はあっという間に平らげられた。
「今回はありがとうございます。こんな美味たる食事を振舞わせていただいて……」
「いえいえ。皆さんのお口に合ってよかったです」
「そういえば、サチさん。他のケルベロスの素材の確認がまだだったね。一旦解体場に向かって、素材の確認をしようか」
あーそうだった……肉のインパクトが強すぎて、すっかり忘れていた
「わかりました。じゃあ、ここを片付けたら行きましょうか」
「ああ!」
食器を片付け終えた俺たちは、そのまま解体場へと向かうのだった。




