第二術 サンドイッチと巨大カエル
『冒険者』になると決意した俺は、ガーネットさんとともに出発の準備を進めていた。
「そういえば……これからギルドの人たちと会うけど、あなたのことは“私の弟子”ってことにするわね」
「え?それは別にいいですけど……なんでですか?」
ガーネットさんはさらりと言う。
「召喚の話はしたわよね?」
「ええ。魔物召喚と勇者召喚の二種類があるって話でしたよね」
「そう。そして勇者召喚は“禁術”扱い」
その言葉に、思わず息を呑む。
「勇者召喚で現れる存在は、この世界には存在しない『個体能力』を持っているの。もし悪用されたら、戦争どころじゃないわ。国家がひっくり返る」
「た、確かに……」
納得せざるを得ない話だった。
「で、私がやったのは魔物召喚よ。伝説級のね」
「ですよね……」
「それがちょっとズレて、人間が来ちゃっただけ」
“ちょっと”で済ませるには規模が大きすぎる。
「もし魔法協会にバレたら、最悪――死刑もあり得るわね」
「し、死刑!?」
一気に現実味が増した。
「だから、何か聞かれたら“弟子”って言いなさい」
「……はい」
深く頷くしかなかった。
あっそういえば……
「そういえば、ガーネットさん。さっき俺のステータスを覗いてましたけど、ガーネットさんのはどんな感じなんですか?」
「わたし?……いいわよ、はい」
そう言い、ガーネットさんのステータスを見せた。
どれどれ……
【名前】 フラム・ガーネット
【年齢】 25
【性別】 ♀
【職業】 魔法使い『魔導士』
【レベル】 30
【ステータス】
・体力 500
・魔力 1000
・筋力 300
・俊敏性 200
・耐久性 300
【スキル】
・炎魔法・水魔法・雷魔法・風魔法・土魔法・氷魔法
・解体魔法・状態変化魔法・消費魔力術・鑑定・アイテムボックスLv5
【個体能力】
・結界術
桁が違う。というより、別ゲームのステータスだ。
やっぱり『THE・魔法使い』って感じで色々な魔法があるな……
「俺も魔法とか使えるのかな?」
「魔力の練習すれば、それなりに使えるわ。まぁ、あなたの場合は『錬金術』で応用した方がいいけどね」
「『錬金術』?……ああそっか、鉱物を武器に変化できるからそれもありか……」
「確か宝石を錬金すれば、属性の放てる魔法具も錬金できるからね……」
なるほど。応用範囲はかなり広いらしい。
「……ところで、あなたさっきから何を作っているのよ?」
「あ、遠出になりそうかなと思い、サンドイッチを作っているんですよ」
「おお!もしかしてあのふわっふわの食パンを使った料理か!?それは楽しみね!!」
一気に目の色が変わる。食欲のスイッチが入るのが早い。
「期待しててくださいね……よし、詰め物完了!後は、バックに詰めるだけですど……」
「それなら、私のスキル『アイテムボックス』ね。これを入れれば上限はあるけど、物の自由に出入りできるわ。しかも温度の変化はないから出来立てがいつでも取り出せるし、腐らないわ」
「それ、便利すぎません?」
「でしょ?」
その顔は誇らしげだった。
「そうですか!今回は冷めても美味しく食べれるので行きましたが、今度から熱々の弁当にしますね」
「うむ!!期待してるわ!」
あ、そうだ。ついでに『スープ』も作っておくか……
◆
準備を終えた俺たちはガーネットさんの案内に従い早速町へ出発するのだった。
ちなみに、俺が来ている服は珍しい格好なのでガーネットさんからお古の奴を着ている……靴はそのままだけど、青色の軽装に黒色のズボンをはいている。
「歩きながら説明するが、今私達がいる国はここ『パシフィスト』。基本的に平和な地域で、せいぜいF~Dランクの魔物しか出ない偏狭な場所よ」
「へー……」
俺はガーネットさんから貰った地図を広げてみると、『パシフィスト』の部分に草原の先に森、鉱山、街が点在していた。
――思ったより“世界”だな、これ。
「この森を抜けた先に、城下街『ファースト』があるからそこのギルドで『冒険者登録』しましょう」
「わかりました」
『冒険者』か……ちょっとゲームみたいでワクワクするな!
心の中で期待やワクワクを詰め込んでいた時……
――地面が、揺れる。
ドン……ドン……
「なんか少し地響きが聞こえるような……って!?」
視線の先にいたのは――巨大なカエルだった。
2メートル級の。
「いやデカッ!!ガーネットさん!?あれ何!?」
「ああ、あれは『ギガフロッグ』よ。主に『乳家畜』とかを喰らう『Fランク』の魔物ね」
「あの巨大でFランクなの!?」
「ええ。あれで食う唐揚げは美味しいのよ?淡白な味わいで結構いけるわ」
噓だろ、蛙食うの!?この世界の食文化、怖い……いや確かに前にネットで見たことあるけど、蛙って鶏肉みたいな味ってあったな……
『……』ドドドドドッ
「ってこっち来た!?」
「そこから動ないでね……っ!」
こっちに来る『ギガフロッグ』にガーネットさんが杖を取り出すと、その魔物に目掛けて魔法を放つ。
「『雷剣魔法』!!」
―――バリリリッ!!
杖から雷の刃が空を裂き、カエルを貫く。
―――一撃。黒焦げになった巨体が崩れ落ちた。
『』
「ふぅ……この程度のレベルなら初級でも余裕で倒せるわ」
「お、お見事……」
……ゲームみたいでワクワクするといったけど、やっぱ訂正。めっちゃ帰りたい。
「さてと……これを解体するわね」
「解体……?」
「魔法で」
いや、さらっと言うな。
「『解体魔法』」
パァァ―――
光が走り、魔物は一瞬で“素材”に分解された。
肉、皮、骨。
整然と並ぶそれは、もはや生物の面影がない。
「うわっすごっ!?一瞬にして綺麗に解体できてる!?」
「これぐらいなら簡単に解体できるわ。流石にBランクとなると私でも不可能だけど……」イソイソ……
慣れた手つきで次々に『ギガフロッグ』の肉などをしまう。
「皮とかは後でギルドで換金するとして、肉は今日の晩御飯にするのはいいわね。おすすめはさっき言った唐揚げよ」
「え゛っ゛!?」
あの馬鹿でかい蛙の肉を食うのか……ガーネットさんが言うには美味しいって言ってたけど……
「にしても……もう、そろそろお昼ごろかしら?ねぇねぇ!早速あなたが作ったべんとう?というのを食べましょうよ!!」
「はいはい……じゃあ、お昼にしましょうか」
というわけで、『ギガフロッグ』の解体が終わった俺たち(ガーネットさんしかやってないけど)はお昼ごはんを食べることになった。
ガーネットさんがスキルで木製の網箱と水筒らしきものと木製の茶碗を取り出してもらう。
「あなたが言っていたべんとう?だけど……サンドイッチって言っていたわね。何が入っているの?」
「丁度卵がありましたから、『卵サンド』にしてみたんですよ。食べてみてください」
「どれどれ……っ!?うっまぁぁ!?」
パクりと一口食べたガーネットさんが大声で絶賛する。
「何この卵!?しっかりとした味にほんのり甘みのある感じ……たまらないわ!何をいれたのよ!」
「『マヨネーズ』って言って、卵、酢、油を合わせて作ったソースなんですよ」
「マヨネーズ……そんなものがあるとは……アムッ」
酢はなかったから、『魔力転換』で代用したけど、上手く行ってよかったぜ……
「これもどうぞ。『コンソメスープ』です」
「おお、ありがとう……ん~!!なんて濃厚なうま味、サンドイッチとよく合うわ!」
「これは、野菜や鶏ガラを長時間煮込んで作ったスープなんですよ」
「なんと!……あれ、でもそんなに時間は掛からなかったわよね?」
「それはまぁ……こんな感じでキューブ状に固めているので、お湯に溶かすだけで簡単にできるようになってるんですよ」
「はぁ~……あなたの世界はそんな便利になっているのね……うまっ」
「ふふっ……うん、美味しい!」
初めて食べるサンドイッチとスープに感動しているガーネットさんをみつつ、俺もサンドイッチを食べる。
数分後あっという間に完食し、再び『ファースト』へ向かい始めようとしたその時―――
「っ……?」
「どうした、幸?」
「いや……今一瞬、誰かに見られた感覚が……?」
「気のせいでしょ。ほら、早く行きましょう」
「あ、ああ」
視線を感じたことをガーネットさんが気のせいと言い、俺は進むことにした……
だが――
遥か空、誰かが、確かにこちらを見ていた。
『…………』
◆
『ファースト 冒険者ギルド』
ここはファーストにあるギルド……そこの研究所で、兵士が慌てた様子で現れる。
「た、大変です『バロン』さん!!緊急事態です!!」
「どうしたんですか?そんなに慌てて……」『『元魔賢者』幻惑のバロン・ファースト』
見た目が40代らへんの薄黄色髪をした眼鏡をかけた男性が研究をしている中、慌てていた兵士に報告を聞く。
「パシフィストに“Sランク魔物”が出現しました!」
「……Sランク?」
その瞬間、空気が変わる。
「『光輝なる白銀龍』です!」
「……っ!!」
バロンの表情が強張る。
ドラゴン種の中でも頂点……“突然変異の白銀龍”。
「なぜ辺境にそんなものが……」
その魔物の名を聞いた瞬間、バロンは冷や汗を流れてしまう。
胃が痛む。
嫌な予感しかしない。
「とにかく偵察を。絶対に接触するな」
「はっ!」
兵士が走り去る。
残されたバロンは、深く息を吐いた。
「……厄介な時代になったものだ」
兵士がいなくなったあと、バロンはフラッと椅子に座り、眉間にしわを寄せる。
「どうするべきか……他の『魔賢者』や王に応援を要求するべきか……?だが、闇雲に不確かな情報で伝えるのは良くない……くっ、胃が更に痛くなってきましたよ……」
そう呟き、これからどうするべきか考えながら部下たちの報告を待つのだった。
G ゴールド
この世界の通貨。
価格は1円=1G
『魔法協会』
魔法使いが集う組織。活躍の数に応じて階級が上がる。
『魔賢者』になれば、国王や貴族、研究者など高位な存在にもなれる。それはまた、『冒険者』のSランクもそうである




