第二十三術 二度揚げ唐揚げと友達
あの後、銀瓏がコカトリスを狩ってきてくれたおかげで、明日以降の食材も無事に確保できたので料理を作る。
ならば、今日は遠慮なく腕を振るえる!しかも相手は王女様を含む貴族一行だ。
「よし……今日は張り切って作るか」
せっかくなら、とっておきのやつを出したい……
そうだ――二度揚げだ。
手間はかかるが、その分旨さは段違い!
外はサクサク、中は肉汁たっぷり、きっと貴族の舌にも合うはずだ。
唐揚げ粉は……よし、今日はこれ!『幻の唐揚げ粉』!有名店監修の一品で、味に関しては折り紙付きだ。
まずは粉と水を合わせて溶いておく。
次に色々な肉を一口大に切り、溶いておいた衣に付け込む。
油を170℃まで上げ、付け込んだ肉を3〜4分揚げる……
―――パチパチジュワーッ!
一度取り出し、5分ほど休ませて余熱を通した後、180〜190℃の高温で1分ほど再び揚げる!
―――ジュワワワッ!!
「っ!なんだこの匂い……」
「うわ~これ絶対旨い奴だ……」
さてさて、味は……
―――サクッ!
んーっ!!うめぇ~!
思わず声が漏れる……
外は驚くほど軽く、中からは肉汁が溢れ出す。二度揚げは最高だな!
『むっ……』
背後から不満げな声が聞こえた。
『おい、何先に食っている。ずるいぞ』
「これは味見だよ。もうすぐできるから待ってろ」
『もうできてるじゃねぇか、早く食わせろ』
「まだだめ。これをもう一度高温にあげればサクサクするんだから」
銀瓏がよだれを垂らしながら待っているで、急いで唐揚げを揚げる……そうして、ひとまず出来た唐揚げをテーブルにおいて、みんなの前に出す。
さらに炊き立ての白米も用意した。
「出来ましたよ。『色々なお肉の唐揚げ(ニンニク醤油味)』!」
「こ、これが唐揚げ……」
「ゴクリ……」
「はわわ……こ、これがギンロウ様が唸らせた一品……」
「ついで炊き立ての米もどうぞ。美味しいですよ」
三人とも目を輝かせていた。
するとルーシーさんが咳払いをする。
「で、では私が……ど、毒見をするのが王女様を守る騎士としての使命……」
「って、とかなんとか言って本当は我先に『唐揚げ』が食べたいだけですよね!ルーシー!!」
「めめめめ滅相もありません、王女様!私はただ、王女様の安全のために―――」
「好きアリ!!」
「あっ!」
―――サクッ!
マスカが揚げたての唐揚げを一口食べると、目がキラキラして涙があふれ出す
「お、おいひいです~!これが『唐揚げ』……噛んだ瞬間、肉のお汁が口の中に広がってまるで飲むような感覚……こんな料理は生まれて初めてです……」
「お、王女様……ハムっ―――」
続いてルーシーさんも一口。
「んっ!?旨い!!なんだこの料理は、いくらでも食えるぞ!!」
「ん~前に唐揚げを食べましたけど、それとは天と地ほどの差ですよ!!しかもそれと一緒に食べる米も最高です!!」
レットさんも止まらない。
よしよし、どうやら好評のようだな。
『うむ!!旨い!前の時に食べた唐揚げよりもサクサク感とジューシー差が違う!!』
「二度揚げしたからな、手間はかかるが旨さがダントツで違うだろ?」
「本当、美味しい~!もうそれしか言葉がでなーい!」
ガーネットさんも銀瓏も幸せそうだ。
どれどれ、俺も一口……やっぱりうめ~!たまには二度揚げもいいな!
「ハフっハフっ……お、美味しいです!今までの食べる食事よりも美味しいです!毎日食べたいくらいに!!」
マスカは完全に夢中だった。
「お、王女様、食べ方がはしたないですよ……もうちょっと落ち着いて……」
「無理です!」
即答だった……
よほど気に入ったらしい。
「まぁいいじゃないですか、細かいことは♪ところで、何のお肉を揚げたんですか?」
「え?そうですね……今のは、『グリフォン』と『レッドオーク』ですね」
「「「ん゛ん゛っ!?」」」
三人共の動きがピタッと止まり、固まる。
え?何々どうした?
「す、すまない……まさかそんな高価なものだとは……」
ルーシーさんが引きつった顔を向ける。
「嘘でしょ……こんな高ランクの物をバクバク食べちゃった……」
「ただでさえBランクでも貴族の日常食なのに……Aランク以上は中々出回らないものなのに……」
と、なんか申し訳なさそうな感じになる……ええ……貴族でもAランク以上は滅多にないのかよ……
「ガーネットさん、それ本当?」
俺は思わずガーネットさんを見る。
「あーうん、銀瓏のお陰で感覚麻痺していたけど、本当だよ。貴族のご飯はBランクが当たり前で、Aランク以上は国王でも《《月に数十回》》しか出ないからね……それをアホほど食べられるなんて滅多にないから」
( ゜Д゜)!?
マジかよ……国王でもそんくらいしか食えないレベルなのかよ……
「銀瓏、本当お前と出会って感謝しかないわ」
『ふふん、そうだろう!もっと俺に敬ってもいいぞ!―――それはそれとしてお代わりだ!』
「ちょっと待ってろ、すぐ焼けるから……ということですので、気にせずどんどん飽きるまで食べちゃってくださーい」
「「「あ、はい……」」」
そうして、唐揚げを貴族たちに振舞い続け、ついには銀瓏が満足したレベルまでの所まで上げ終わった。
『ん~もう食べられないぞ!』
「あー美味しかった……」
「まさか、Aランクの魔物の肉をここまで食えるとは……」
「本当、夢見たいです……」
三人とも完全に満足した様子だった。
そしてマスカが頭を下げる。
「あの、今日はありがとうございます、サチ様。私のわがままを聞き入れてくれただけではなく、貴族でも出回らないAランクのお肉を戴いて……」
「あはは、気にしないでください。まだ唐揚げが残っていますし、何なら他の肉もあるので……朝もどうですか?一緒に作りますが……」
「「「ぜ、ぜひお願いします!」」」
見事にハモった。
そこまで言われると、作り甲斐があるってことよ!
「さて、ここまでもてなしてくれたのだ……サチ殿たちは先にゆっくり寝ててくれ。私とレットはこの俗共の見張りをする……妙な真似はするなよ?」
「こ、この野郎!今に見てろよ、ここから出たら―――」
「あの~」
「?」
「俺たちは先に寝るが……もし、何かあったらルーシーさんが手を出すもなく、俺の『契約獣』が先に八つ裂きにしますからね?」
『グルルルっ……』
「「「ひ、ひぇぇぇぇっ!?」」」
俺は銀瓏の威嚇で山賊たちを脅す。これでひとまずは安心だな……
「あの、サチ様すこしいいですか?」
「ん?どうしたんですか、マスカ?」
「寝る前に少し話し相手になってもいいですか?」
「えっ?あー……うん、いいですよ?」
「本当ですか!ではちょっと離れたところでいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
少し離れた場所にある平らな岩へ腰掛ける。
夜風が心地よい……月明かりの下で、マスカは静かに口を開いた。
「先ほどはありがとうございます。あんな料理は初めて食べましたので」
「王女様が喜んでもらえて光栄です」
「それでもう一つ……ワガママを言っていいですか?」
「?……それは?」
「私と……」
一呼吸置いて―――
「『お友達』になっていいですか?」
「え?友達?」
「はい」
マスカは少し寂しそうに笑った。
「私は王族です」
「はい」
「だから近付いてくる人たちは皆、権力や血筋を見ています」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
マジか!こんな小さい子にそんな面倒なことを背負ってんのかよ……
「ですので、純粋に笑い合える友達がいないんです」
小さな肩が、少しだけ震えて見えた。
ヤバい泣きそう……こんな小さな子供なのに、人生を楽しめないなんて!
「なら、俺でよければ『友達』になっていいですよ。」
俺は――即答した。
「それに俺だけじゃなく、ガーネットさんや多分銀瓏もなってくれるはずです」
「本当ですか!!……では、友達の証として、これをどうぞ」
そう言い、マスカから綺麗なブローチを渡される。
中に美しい宝石が付いている。
「えっと……これは?」
「これは我が貴族の鍛冶屋が施した宝石のブローチです。友達の証にどうぞ受け取ってください♪」
「ええ!?いやいや、こんな高価なものは受け取れませんよ!」
「いいんです。こんな美味しい物を食べさせてもらったお礼として受け取ってください。それにAランクの魔物をこんなに食べたのは生まれて初めてなので」
「えーと……」
うーん、俺としてはAランクとかは銀瓏が取ってくるから大丈夫なんだけど……
その時、ふと思いつく。いっそあれと交換するか。どうせ持ってたって宝の持ち腐れだし……
「分かりました。だけど、タダで貰うのはちょっとあれなので、トレードしませんか?友達の初めての物々交換ということで」
「トレード……より友達らしさが出て いいですね!では、何を交換するんですか?」
そう言って取り出したのは――
「俺はそうですね……さっきダンジョンでゲットした剣ですね」
「剣!凄そうな剣ですね……これは何ですか?」
「確か……『神剣エクスカリバー』ですね」
「そうですか……えっ『神剣』?」
「はい」
「『神剣』?」
「はい」
「えっ……『神剣』?」
「はい」
「……本当に『神剣』?」
「はい」
目が点になっているマスカが剣と俺を交互に見つめて、会話が進まない。
あ、あれ~そんな感じの反応なのか?やばい代物って聞いてたけど……そんなに?
「……あの、さっきダンジョンって言ってましたけど、何処の?」
「えっと、ここから先の所に『はぐれダンジョン』がありまして、そこの最深部でボスを倒したら、剣が生えて……」
「剣が生えて」
「あの時、銀瓏がいてくれたからSランクの『ムーンビースト』を倒せましたけど、俺たちには使うにも宝の持ち腐れだったので……」
「Sランク、宝の持ち腐れ」
な、なんかマスカが明後日の方向に向いている気がするが、大丈夫か?
「あの……マスカ?大丈夫?」
「はっ!?ちょ、ちょっと情報がデカすぎて軽く放心していました……」
「そ、そうですか……」
「それにしても、お、お強いんですね。ムーンビーストと言えば、魔賢者とSランク冒険者が数人でかかってやっと倒したと言われます……それをたったの三人で……」
「まぁ、活躍したの銀瓏だったので、俺たちはサポートという形で……」
「それでも凄いです。実力ならSランク以上と言っても過言ではないです」
「そ、そんなに……」
なんかスッと簡単に終わっちゃたから今一パッとしないんだよな……
「ふぅ……なんだか、数分しか話していませんのに、なんだかちょっとだけ世界観が壊れました……」
「なんか、ごめん」
「でも……ふふっ、楽しかったです。また今度話し相手になってくださいね?」
「え、えっと……俺でよければ」
「うふふ……ではそろそろ寝ましょうか。明日の朝食楽しみにしてますね♪」
手を振りながら戻っていくマスカ。
俺は受け取ったブローチをアイテムボックスへしまう……そして空を見上げた。
明日の朝は何を作ろうか……
サンドイッチとコンソメスープ、その辺りがちょうどいいかな?
そんなことを考えながら、俺も静かに眠りについたのだった。




