第百九術 ウエストタウン
翌朝。
昨日の一件があったものの、心地よい朝日を浴びながら目を覚ました俺は、朝ごはんを作ることにした。
「ふい……昨日は散々だった……」
「おはよ~幸」
「あっガーネットさん」
料理をしていると、ガーネットさんが起きてきて、挨拶を交わした。
「昨日は眠れた?」
「あはは……何とかね……蜘蛛糸に絡まれるなんて思ってもいなかったよ……」
「あはは……」
昨日の出来事を思い出し、俺たちは苦笑いを浮かべる。
「ところで、今日の朝ごはんは何かな?」
「『ハッシュドポテト』と『目玉焼き』と『トースト』です」
「『ハッシュドポテト』……?」
「まぁ、簡単に言うと、細かくしたジャガイモを一つにまとめて、油で揚げた料理ですよ」
「へー……」
作るのが面倒なので、ハッシュドポテトは『等価交換』で成形済みのものを取り寄せるけどな。
慣れた手つきで朝飯を作っていると、みんなが次々と起きてきた
『んむ……今日の飯はなんだ?』
「おお、おはよ銀瓏。今日は『ハッシュドポテト』だぜ」
『なんだ?聞いたことの無い料理だが……』
「ジャガイモをあれこれして形を整え、油で揚げた料理だよ。ほら」
『ほぉ……これが『ハッシュドポテト』とやらですか……奇妙な形をしてますね』
「わぁ……!昔、コンビニで食べた奴……!」
「美味しいですよね。コンビニのハッシュドポテト」
そんな会話を交わしながら、みんなで朝食を食べ始める。
「……っ! サクサクしてて美味しい!フライドポテトに近い食感かも!」
「まぁ、どちらも原料はジャガイモですからね」
『うむ!やはり、油で揚げた料理はどれも旨いな!』
『あーし、このお芋大好き~!』
『脂っぽさも気にならず、いくらでも食べられますね……!』
「へー……!ジャガイモってこんなサクサクでできるのね!面白いわ~!」
初めて食べる料理に、みんな大喜びだ。
朝食を食べ終えた俺たちは、出かける準備を始めた。
「えっと……次はどこへ行きますか?」
「次は……そうね、『ウエストタウン』へ行きましょうか。あそこは『リンリン』って言う『小鬼族』が統治しているわ」
「『小鬼』……また聞いたことない名前ですね」
「『小鬼族』はゴブリンに知能を発達させた種族ね。ドワーフ並みに手先が器用で、色々なものを作っているのよ」
「へー……」
「『ウエストタウン』は、色々な国から品物を仕入れて販売する商人たちが盛んな街なの。魔道具やアイテムの取引も活発よ」
成程、『ウエストタウン』は商売が盛んな街なんだな……同じ国の中でも、街によって特色が違うんだな。
出発の準備を終えた俺たちは、ダーパイスたちに見送られながら屋敷を後にしようとした。
「ありがとうね、あなた達。またいつでも来ていいわよ?あなた達なら大歓迎だわ♪」
「あはは……そ、それは後ほどで……」
俺は苦笑いを浮かべながら、早々にウエストタウンへ向かうことにした。
◆
『ウエストタウン』
銀瓏たちに乗って大地を駆け続けていると、木々が生い茂る森林地帯の向こうに街が見えてきた。
他の街と同じく、活気に満ちた場所のようだ。
「ここが『ウエストタウン』ですか……結構木が多い場所だな」
「ここは結構森林が盛んだからね……木で造られた道具が多いのよ」
「へー……」
街に到着した俺たちは、さっそく中を歩いてみることにした。
――数時間後。
「いや~……結構な品物がありましたね」
「ええ。さっきも言ったけど、色々な国から取り寄せた品物が集まっているのよ。いい掘り出し物もあるわ」
「そうですね~」
俺も、色々とアイテムを買ったからな~……結構、高いのもあったけど。
「それよりも……着いたわ。ここが『リンリン』がいる屋敷よ」
「ここが……」
そこには、イールビやダーパイスの屋敷にも引けを取らない、豪華な建物がそびえ立っていた。
「やっぱ四天王ってこういう屋敷に住んでいるのね」
「ええ。――一人は除いてね」
「ん?」
葵さんの言葉が気になったものの、彼女はそれ以上説明することなく、屋敷へと歩き出した。
「さっ、行きましょう」
そう言って、俺たちは屋敷の中へと入っていった。
すると、赤い肌に子供のような顔立ち、大きな丸眼鏡をかけた人物が現れた。
「やあやあ、よく来たね。僕のことは聞いていると思うけど、改めて自己紹介しておくよ。――僕は『リンリン』。こう見えても『四天王』の一人だよ」
「あ、こんにちは……俺は『酒森 幸』です」
「私は『フラム・ガーネット』よ」
「そして、俺の『契約獣』の『銀瓏』、『麒麟』、『大蛇』です」
『ふんっ』
『どうも』
『よろしく~!』
俺たちはリンリンに挨拶を交わした。
「にしても……聞いていた通り、『二つ名』と『聖獣』を『契約獣』にしたなんて……初めて見たよ」
「あはは……そ、それはどうも」
「普通、こういう存在は人間になれ合いはしないんだけどな……どうやって契約したんだい?」
『それはな……旨い飯だ!!』
『旨い酒』
『ご飯~!』
「……ということで、全員、飯目的で契約したんですよ……」
「……それでいいの、君達は……?」
リンリンは目を細め、銀瓏たちを見つめた。
『何を言う。大抵の飯は食べ尽くしたと思っていたが、主の飯は驚きと美味に満ちている!それを知った以上、契約するのは必然!』
(必然……?)
『酒も、今まで飲んだことのない味ですし、ついていって損はないかと……』
『あるじのご飯は美味しいよ~!』
銀瓏たちは、そう言って俺の料理を褒めちぎる。
は、恥ずかしいな……。やっぱり、こういうことを面と向かって言われると……
「そ、そうなんですか……本当においしいですか?」
「ええ、幸が作る料理はどれも、私がいた世界で食べたことのある料理ばかりですよ?」
「へー……」
葵さんの言葉を聞き、リンリンは何やら考え込んだ。
「……じゃあさ、今夜僕にも、ご飯作ってくれないかな?みんなが絶賛するんだし、僕も気になってきた」
「それならいいですよ。台所を使わせていただければ、調味料や食材はこちらで準備しますので……」
「『調味料』?……ねぇ、ご飯を作る前にそれ見せてもらってもいい?」
「え?いいですけど……。晩ご飯まではまだ時間がありますし、料理はそのあとで大丈夫ですよ」
「うん、ありがとう。じゃあ、奥の部屋で見せてもらってもいい?」
そうして俺は、リンリンに調味料を見せるため、屋敷の奥へと向かった。
◆
「……」
リンリンは真剣な表情でルーペを手に取り、塩や胡椒をじっくりと観察していた。
やがて、彼は少し冷や汗を浮かべながら口を開いた。
「……凄い、こんな上質な塩と胡椒、長年の商人人生の中で、出会ったことがない……!」
「そ、そうなんですか?」
「うん、これだけで『1万G』はくだらないかも……」
「うえ!?マジですか!?」
胡椒は確か昔は高値で取引したって言うのは聞いていたけど……まぁ確かに、前に『トランザ』で見た価格は100gで『1000G』はしていたよな……
「それに、これだけじゃない……『シナモン』『ナツメグ』『クローブ』……どれも、高級品の品物ばかり……!このようなものまで錬金できるなんて……素晴らしいです!」
「あ、あはは……どうも」
流石、地球産……まさか、ここまで褒められるなんてな……
「あの……!よろしければ、これらを買い取らせてもらえませんか!?10――いや『1000万G』で買い取らせていいですか!?」
「い、1000万!?」
「ええ! 私の勘では、こういう品物が手に入る機会は滅多にありませんからね……。買い取れるだけ買い取りたいんですよ!」
リンリンは目をキラキラと輝かせながら、俺の手を握ってきた。
す、凄い商売魂……!
「わ、分かりました……それでお願いします」
「ありがとうございます!」
こうして、リンリンとの取引は成立した。
……とはいえ、さすがにあの量で1000万Gは気が引ける……
そのため、俺は大量の塩や胡椒、スパイスを錬金して渡すことにした。
~ちなみに、渡した数はこうなっている
塩(1kg)×10袋
ブラックペッパーホール(100g)×10袋
ナツメグ、シナモン、ローリエなどのスパイス系のホール×10袋ずつ




