第百七術 ノースタウン
翌朝。
葵さんのカレーがまだ残っていたので、折角だから『カツカレー』にして食べることにした。
銀瓏たちは喜んで食べていたな……勿論、ライトも。
食べ終わった俺たちは、どうしようかなと思っていると、葵さんが提案してくる。
「そうだ。もしよかったら、この国の街へ見て回りませんか?」
「街?それって『イーストタウン』の他の街ですか?」
「そうです。『イーストタウン』の他には、『ノースタウン』、『ウエストタウン』、『サウスタウン』があります。それぞれの街には『四天王』が各地にいるんですよ」
「『四天王』……ああ、そんな話がありましたね――いや待てよ?『イーストタウン』に『四天王』っていましたっけ?会ったことないぞ?」
確か、イールビに自宅を案内されただけで、四天王自体には会ってないぞ?
「え?……ああ、教えられてなかったのですね」
「え?」
葵さんは、少し困ったような顔をする。
「実は先ほど会っていたイールビって言う人なのですが……彼、ああ見えて『四天王』の一人なんですよ」
「え―――ええぇぇぇぇっ!?」
俺は、さらっと告げられた驚愕の新事実に言葉を失う。
「ちょっ、おま、えぇぇっ!?」
「その反応……本当に何も知らされてないんですね」
「私も……ただの大金持ちにしか見えなかった……」
「はぁ……彼、ああ見えても実力は『No.2』なんですけどね……」
「つッ……!?」
嘘だろ……確かに実力は凄かったけど、そこまでの実力だったのか!?
今までの性格からは、まったく想像できねぇ……
※オレちゃん、こう見えても、幾戦の戦いに明け暮れたことあるからね★
「ちょっと待って、あまりのギャップで脳が追い付かねぇ……!」
「あはは……まぁそうなりますね」
取り敢えず落ち着いた俺は、葵さんに内容を聞く。
「あの……他にどんな『四天王』がいるんですか?」
「そうね……『ノースタウン』は『ダーパイス』っていう『蜘蛛人族』が統治しているわ」
「あ、『蜘蛛人』?」
「蜘蛛の一部が備わっている人型の亜人よ。蜘蛛の特徴で、糸を吐いたり、壁に張り付いたりできるの」
「へー……」
「特に、『ダーパイス』は糸も強力だし、彼女の毒も凄いわ。Aランクでも倒せる毒だから」
「怖っ!?」
流石にAランクも殺せる毒は怖い。
……ん?彼女?
「彼女ってことは……女性なんですか?」
「ええ、よく美容について語り合ったわ」
「へ、へー……」
やっぱ異世界でも美容に気を使うか。
「どうせなら、他の四天王達と会いましょうか?」
「え、いいんですか?多分、仕事とかあると思うけど……」
「大丈夫。少し会うぐらいなら、時間はできると思うから」
それならいいが……
そんなことを思いつつも、俺たちは、葵さんと一緒に出掛けることとなった。
まずはここから近い、『ノースタウン』だ。
◆
『ノースタウン』
銀瓏たちに乗り、大地を駆け続けると、街が見えた。
『イーストタウン』と同じく、賑わいのある街だった。
「ここが『ノースタウン』ですか……」
「ここは衣類の生産が盛んな場所よ。よく服とかを買う時にはここに来るの」
「へー……そうだ、折角来たんだから、此処で服とか買おうかな」
「それはいいわ!」
こうして、俺は『ノースタウン』で色々な洋服などを買うことにしたのだった。
銀瓏たちはあまり興味はなかったが……まぁ、こいつらには立派な鱗や毛並みがあるから必要ないとは思うけどな。
数時間後――
「いや~買った買った……」
「たくさん買ったね~!」
「ああ!どれもすごく肌触りもいいし、気に入ったな」
「ふふ、喜んで何より」
葵さんは、嬉しそうに口元を緩める。
「さてと……早速、ダーパイスさんに会いに行ってみましょうか」
「ええ、案内しますわ」
そうして、葵さんの案内と共に、『四天王』の一人――『ダーパイス』に会いに行くのだった。
◆
着くと、そこはイールビと同じ豪華そうな建物だった。
「うわ~イールビと同じぐらい豪華だな……!」
「では、入りますね」
そう言い、俺たちは中へ入る。
中も、豪華で、イールビと同じ作りだ。
他の四天王もそうなのかな?
そう思った瞬間――
――シュルルッ!
「うおっ!?」
突然、蜘蛛の糸が俺の体を縛り上げる。
「さ、幸!?」
『むっ……』
「あーら、ごきげんよう。あなたが葵が言っていた子ね」
「っ!」
目の前にいたのは、黒みを帯びた赤髪の長髪に、整った顔立ちをした女性だった。
目元には左右三個ずつ、丸みを帯びた赤い宝石が並んでいる。
さらに背中からは蜘蛛の四本の脚が伸び、その下半身には巨大な蜘蛛の腹部らしきものがあった。
そんな彼女が、天井から逆さになった状態で俺を見下ろしている。
「うーん……顔は普通ね。だけど……凄い魔力。神の加護があるみたいね」
「はぁ……『ダーパイス』、私のお客さんよ。ちょっと丁重に扱いなさい」
「はーい」
そう言うと、ダーパイスさんは俺を下へ降ろす。
足が床についたところで、ようやく蜘蛛の糸から解放された。
「突然でごめんなさいね……」
「は、はぁ……えっと、葵さん。この人が……」
「そう。彼女が『四天王』の一人――『ダーパイス』よ」
「よろしくね~」
と、なんとも気の抜けた挨拶をする。
「なんとも気だるそうな感じ……」
「ああ見えても、彼女の蜘蛛糸の製作技術は凄いのよ?壁に飾ってあるこの服だって、彼女のデザインなんだから」
「そうなんですか!?」
結構な職人腕だったのか……!
「葵から話は聞いていたけど……へー……葵と同じ世界からね……」
「ええ、まぁ……」
「と・こ・ろ・で~……昨日、葵からきいたけどさぁ~……化粧品、錬金できるんだよね?それもここより数十倍くらい凄いやつ」
「あ~……そうですね」
すると、ダーパイスさんは目をキラキラと光らせる。
「やっぱり……!ねぇねぇ、一体どんなものがあるか見せてよ~!」
「食いつくな……」
グイグイと俺の世界の化粧品に興味を示すダーパイスさん。
やれやれ、俺の世界の商品は、本当に人気だな……
「わ、分かりました。後で、よさげな物をいくつか見繕ってあげますので……」
「本当!やった~!約束だよ?」
その言葉にダーパイスはご機嫌な様子だ。
すると、銀瓏が俺に訴えてくる。
『……おい、そろそろ昼時ではないのか?』
「え?もうそんな時間?」
『あーしも、ご飯食べたい~』
『確かに、昼にはいい頃合いかと』
「私も食べたいかな~……」
皆、昼飯気分かい……まぁ、いいか。
それじゃ昼飯でも作りますか。
「えっと……ダーパイスさん、銀瓏たちが腹空かせてしまっているので、ここのキッチンとか使ってもいいですか?」
「あら?料理を作るの?それならいいわ。葵からも絶賛していたし、私も食べてみたいわ♪」
「ありがとうございます。では、葵さん達の分も作りますね」
そう言い、俺はダーパイスさんに案内され、キッチンへ向かうのだった。




