第百三術 イライラした時には、旨い飯食べて落ち着こう
ソー・サリーを撃退した俺たちは、取り敢えず少し気分を落ち着かせる。
「ふぅ……」
「幸……いつまで大蛇を吸ってるの?」
「もう少し、いまかなり精神が落ち着くから」
『にしても……『魔術皇 ソー・サリー』ですか……聞いたことない名ですね』
「『魔術』……そう言うのは校長辺りが知ってそうだけどね……」
皆が会話している中、ようやく気持ちを落ち着かせることができた。
「ふぅ……うん、よし、飯にしよう」
『それはいいが。急だな』
「やっぱりこういうのは旨いもの食べて、嫌なことを忘れるに限る――今日は俺の好物で埋めるか」
俺が好きなのは『チキン南蛮』に『油淋鶏』だよな……
南蛮の甘酸っぱいソースとタルタルに油淋鶏の爽やかなソースと揚げたサクサクが相まってお気に入りの食べ物だ。
今回はその二つを作るぞ。
まず、油淋鶏用のコカトリスを『素の粉』と一緒に袋に入れまんべんなくまぶす。
次に、チキン南蛮用のロック鳥をカットし、『素の粉』と卵と一緒にかき混ぜ、肉と合わせる。
揚げる前にソースを作っておくか。
長ネギをみじん切りして、『素のソース』と合わせる。
これで、油淋鶏のソースは完成。
次に、ゆで卵を潰して、マヨネーズと合わせて、素を混ぜたら――今タルタルソースの完成だ。
後は揚げるだけ。
コカトリスとロック鳥を170℃ぐらいで揚げる。
揚げたら、コカトリスは油淋鶏のソース。
ロック鳥は甘酢ダレを合えて、タルタルソースをかければ―――
完成!!『コカトリスの油淋鶏』と『ロック鳥のチキン南蛮』!!
「ほら、出来たぞ!」
『『おおっ!!』』
出来立ての料理をみんなの前に持ってきて、早速食べ始める。
『『いただきます!』』
――サクッ!
「んんっ!旨い!!」
やっぱり好物を食べるのはいいな!
さっきまでの嫌な気分が、スーッと消えていく!
油淋鶏はサクサクの食感に衣がソースを吸って、味の深みが増してる!
チキン南蛮は、甘酢とタルタルの相性が最高だ!自分で作るのもありだが、これもいいな。
『んむっ!何という香り高い料理だ!唐揚げと同じ食感だが、このソースがこの揚げ物に深みを増している!』
『この白いソースがかかっているのもいいです……酸味のある衣に、白いソースが合わさり、美味です!』
『あーし、この白いソース、好き~!!』
「んん!やっぱり揚げ物はいいわ~!どの料理もおいしい!」
いつものように、皆鳥料理に絶賛している。
数分後には、あっという間に平らげてしまった。
食器を片付けた俺たちは、そのまま葵さんのいる館へ向かうことにした。
◆
向かうこと数時間……
そろそろ見えてくるはずだが……ん?
「なんだあれ?」
「あれは……『畑』?」
見えてきた場所には、色んな野菜が育てられている畑が見えた。
そこには、ニンジン、玉ねぎ、大根などの野菜以外にもイチゴやメロンなどのフルーツ系のものまで育てられていた。
そして、その奥には大きな屋敷が構えていた。
「あれが、葵さん達が住んでいる家か……結構デカいな……」
「そうだね」
「銀瓏、一旦ここで降りよう」
『ふん、分かっておる』
そうして、俺たちは銀瓏たちから降り、この屋敷の玄関まで近づく。
すると、ここの使用人たちが出迎える。
「お待ちしておりました……貴方様が『サカモリ・サチ』様ご一行ですね?」
「え、ええ、そうです」
「ここまでの長旅、ご苦労様です。私はここの使用人のリーダー『ルナ』と申します。以後、お見知りおきを……」
そう言い、角の生えた悪魔――サキュバスのような姿をしたメイド、『ルナ』さんが挨拶する。
「ど、どうも……」
「どうぞ、ラグナロク城へお入りください。お席へご案内します」
そうして、俺たちはルナさんの案内される。
中はアニメや漫画でよく見る広々とした豪華な雰囲気に包まれていた。
「では、こちらでお待ちください」
「はい、ありがとうございます」
そう言い、ルナさんはこの部屋から出て行く。
案内された客間には、ふかふかそうなソファーに木製のテーブル、豪華そうなシャンデリア……
いかにも高級感の漂う部屋だった。
「ここまで、豪華だと、中々落ち着かないよな……」
「そうだね……さすが、王様……」
『ふんっ……』
俺たちはソワソワしている横で、銀瓏達はふてぶてしく待機している。
ちょっとは緊張感持てよ……
そう思っていると――ガチャリ、とドアが開けられる音を聞く。
目を向けると、そこには青みのある黒の長髪でおっとりとした顔つきの女性が現れる……
というかわっっか!?これで300歳なの!?30歳かそれ以下ぐらいのレベルじゃない!?
「どうも、こんにちは。わざわざ、こんな遠くまで出向いてくれて……」
「あ、はい!大丈夫です!俺も、気になったこともありましたし……ところで、その……お若いですね!?なんか!?」
「あら?ふふ……お世辞がうまい人ね。こう見えても100年以上は経っているのよね……でも、これでもまだまだ現役よ?この畑全部の世話をできるくらいには!」
「は、はは……す、すごいですね」
あながち冗談に聞こえないな……
「えっと……ああ、自己紹介がまだでしたね。もう知っているとは思いますが、私は『アオイ・ラグナロク』……貴方のことで合わせれば、旧名が『橘 葵』って言うの。色々名前が変わっているから、『アオイ』で構わないわ」
「ど、どうも……えっと、俺は『酒森 幸』って言います。」
「私は『フラム・ガーネット』です。幸と一緒に冒険を探求しています!」
「それで、銀色の龍は『銀瓏』、金色の一角獣は『麒麟』さん、そして……この青い蛇は『大蛇』って言います。どれも、俺の『契約獣』でして……」
「まぁ……ライトから聞いてはいましたが、物凄いものと契約しましたね……」
「ええ、と言っても全員、飯目的でついてきただけなんですけどね……」
「あはは……」
思わず俺だけじゃなく、葵さんも苦笑いをする。
「えっと……幸さん。一つ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
すると、葵さんがまじまじと俺の顔を見つめながら尋ねてきた。
「その……ライトから聞きましたが、私がいたところの物を『錬金』できるんですよね?」
「ええ、はい。『錬金』から進化した能力ですけど……」
「で、でしたら……その……あれを錬金できるんですよね?」
「……あれ?」
あれとは……?
葵さんが欲しがりそうものと言えば――
「その……『シャンプー』とかの日本製の石鹸とかです!」
「ああ~……」
なるほど。そりゃ確かに聞きたくなるわな。
ガーネットさんだって美容に気を配っていたし……
「はい、もちろんできますよ」
「っしゃ!!」
((しゃ……?))
その言葉を聞いた葵さんは、思わずガッツポーズをとる。
いや、しゃー!って……
「はっ!……こ、コホン。申し訳ありません……あの日本の物を取り寄せられると聞いてつい……今まで、日本製の物を使っていたと身としては、やっぱりあの石鹸は使いづらいかと……」
「……分かりますよ。アオイさん……!」
ガーネットさんはガシッと葵さんの手を握る。
「私も、今まで顔面オリーブでケアしていましたが……幸の錬金したあの石鹸たちを使ってからは、それなしじゃ生きていけないくらい、もうどっぷりはまってしまいました!本当にすごいですよ!あれ!」
「そうでしょう!そうでしょう!!やっぱり日本製の物は凄いですよね!!この世界ではオリーブで保湿すると聞いて一度、立ち眩みしましたが、ここ何年かで慣れましたが、やっぱり日本製の物が扱いやすくて、効力が凄いですよ!!今まで私が愛用していたシャンプーやトリートメント、ボディーソープなども取り寄せると知れば、もう居ても立っても……!!」
(すげぇ盛り上がってる……)
俺そっちのけで、ガーネットさんと葵さんは、薬用石鹼について熱く語り合っていた。
まぁ、俺から言わせてもらえば、葵さんの気持ちもわかるな……
一回、服洗う時、ガーネットさんから石鹼試したが、くっっそ泡立たなかったからな……仕方ないから『錬金』で手洗い用の洗剤を『転移』させて使ったもんな……
後でガーネットさんから凄い目で見つめていたけど。
「……はっ!こ、コホン……私としたことが、つい熱く語りました……」
「ははは……まぁ、気持ちは分かりますよ。あとで、俺が色々錬金しますので、なにかリクエストがあったら、どうぞ」
「い、いいんですか!ああ……どうしましょう。あれもこれも……欲しいものが多すぎますわ……!」
すると、葵さんはキラキラした瞳で考え込む。
「そ、そうです!ここまでしてもらうのに、私から何もしないのはダメね!せっかくこの国に来たのですし、この屋敷でしばらく自由に使っても構いませんわ!勿論、屋敷で採れた野菜も使っても構いません!」
「え、ええ?いいんですか?一応、ここの主人に許可を……」
「ああ、安心してください。もし、何か言えば私が『こう』しますので♡」
(何を!?)
葵さんは何かしらのゼスチャーで伝える。
……これあれだよな?物理的に黙らせる的なあれだよな??え、そうなの???
そんなことを思いつつも、俺たちは葵さんの屋敷に、しばらくの間お世話になるのだった。




