第九十八術 さらば、パシフィスト!
翌日、朝飯を食べ、ギルドでダンジョンから持ち帰った素材の解体金を受け取った後、俺たちは『ラグナロク』へ向かう準備を進めていた。
「そう言えば、思ったんですけど……なんでイールビは俺の世界のこと色々と知ってるんですか?あなた、この世界の住人ですよね……」
「ん?ああ、これはオレちゃんの『個体能力』の影響で、こうなっているんだよ」
「……あの、一体どんな?」
「えー?そこまでいっちゃう?もう、す・け・べ♡」
「キッショ」
流石に気色が悪い。
男がそう言うもんじゃないでしょ……
「ああーん、ひっどぉーい!もぉーしょうがないでちゅね~ちょっとだけよ?」
そう言うと、急に現れたステータス画面を――
まるでシールのように、ペリッと剥がした。
……剥がす!?ちょっ、おま、それ今どうやったの!?
その後、剝がした文字化けを捨てながら、見せつけてきた。
「ほら、これがオレちゃんの『能力』だ」
「いや、ええ……」
急な行動に驚きつつも、表示されたステータスを見てみる。
そこには、こう書かれていた。
【個体能力】・次元の壁
「……り、『次元の壁』」
「なにその能力……」
「オレちゃん、最初に言ったろ?『これを見ているみんなに話しかけることができる能力を持っている』……って」
「いや知らないけど……」
「あれ?そうだっけ?―――あっゴメン、『特別術』で言ってたわ!」
「な、なに?その『特別術』って……?」
「まぁ、そこはおいておいて……オレちゃん、この能力があるおかげで、今この小説を見ている皆のことも知っているし、あんた達の世界の常識だって知ることができたんだ」
は、はぁ……?
つまり、『別の世界を観測できる能力』……ってことか?
「そうそう!しかも、別の世界に干渉できちゃうから、オレちゃん、クルマの免許取ることができたんだよね~!」
「だから、あの時免許証持っていたのかよ……」
聞けば聞くほど型破り過ぎな人だな、この人……
『あるじ~、もう出発しよう~!』
『おい、何をしておる。そろそろ出発するぞ』
「ああ、悪い……今行くよ」
そうして、俺たちは銀瓏達に乗り、『ラグナロク』へ向かうこととなった。
◆
『ラグナロク』を目指す俺たちは、その国についてイールビから話を聞いていた。
「『ラグナロク』はまぁ、至って普通の国だ。魔物はC、Bランクが普通にそこらへんにはいるが……パシフィストぐらい普通の国だ」
(パシフィストぐらい普通……?)
今までのパシフィストの出来事を思い返しながら、『普通とは?』と俺の頭の中で考えている。
「まぁ、あんたは色々な不運が重なって出てきた産物だからな……気楽に行こうぜ?」
「気楽って……」
俺が呆れていると、大蛇が心配そうに聞いてくる。
『あるじ、大丈夫?』
「ああ、大蛇。大丈夫だよ」
『ラグナロクは、魔力が他の国と比べて高いからな……おそらく、Bランクといえども、Aランク並みの実力はあるだろうな』
「ええ!そんなにするのか!?『フォレストス』とはまた随分と強化されてるな……」
「心配ないでしょ!Sランク級の魔物を従えてるさっちゃんがいるんだしさ♪どんな敵だろうとイチコロよ」
イールビはいつものようにおちゃらけた台詞で言う。
うーん……でもな~……ここは弱肉強食の異世界だしな……油断したらやられそうな事があるから、気を引き締めないといけないんだよな……
◆NOside
何処か、寂れた場所……
風が荒れ、建物は鋼鉄で覆われ、枯れ木が生い茂る場所。
そこに、とあるフードを纏い、水色の鉱物の仮面を被った人物がいた。
その人物は、倒れている男性を見下ろしている。
「き、貴様……!私を誰だと思っている……!この『鉄火国』と言われた『バハムート』の国王だぞ……!」
「……ふん、なら今が私がこの国の王だ。この『ソー・サリー』がこの国の王として、君臨してやろう。貴様はここで終わりだ」
フードの人物――『ソー・サリー』が手を掲げる。
すると、その手からオーラを纏った魔法が放たれ、現国王へと襲い掛かる。
――ジュッ……!
「ぐ、ぐあぁぁ!!」
そうして、『バハムート』を治めていた現国王は『ソー・サリー』によって抹消された。
「さて……たった今、この『ソー・サリー』が『バハムート』の王になったわけだが……」
ソー・サリーは、倒れた国王を見下ろしながら不敵に笑う。
「いずれ、この世界の王として、私は君臨する。そのために、この力もある」
そう言い、ソー・サリーが取り出したのは……宝石の装飾が施された、懐中時計のようなものだった。
「これは、あの『初代魔賢者』の一人が残した遺産……」
その懐中時計を握りしめる。
「この力を利用すれば、全てはこの『ソー・サリー』が世界の王として、君臨する!」
その言葉と共に――
空から、一筋の雷が落ちる。
――ゴロゴロ……!!
「見ていろ、愚かなる人民たちよ……!」
水色の仮面の奥で、赤い瞳が怪しく輝く。
「私の偉大な魔術で、跪かせて見せよう!!」




