予兆、と言うか何と言うか
楽しいお遊戯会も終わり、その後の時間のほとんどをアーサーの機嫌取りに使わされたヒミツは少々のめまいを覚えながら、一応一ヶ月近く寝ていた彼の病室、詰まる所彼の当てられた部屋に入り装備を整備しようと外す。
「あ゛〜、づがれた。」
がシャリと相当な重量を感じさせる音が鎧をおいた床からするが、それに構わずまず自分用によく冷えた果実水と薄切りの干し肉を出して咥える。
片足を床に軽く叩きつける様にして防衛用の結界と各種解析魔法を行使、部屋を簡単に工房化する。
魔力が通り光源が起動したホテルの様な一室の白いシーツがひかれたベッドに座り込み、外した武具を引き寄せようと影の操作をしたところで頭上に転移魔法特有の空間の揺らぎを感じて咄嗟に体を横にずらす。
すると数瞬遅れて、黒い子犬が沢山落ちてきたので慌てて魔法を使用しながらシーツを広げたり、左腕をタヌキチの真の姿であるスライム状にし受け止める。
「・・・え、ナニコレ?」
取り敢えずそのやたら牙なんかは成熟した仔犬の大群に肉塊をトレイに乗せて食わせながら鎧の手入れをし、なぜか一匹だけ致命に近い損傷を受けていたので回復したが、それもこの状況に流されてのこと、俺は一人この意味不明な状況に首をひねるのであった。
程なくしてドタドタとあまり優雅で無い足音を立ててマーリンが部屋の結界をぶち破って入ってきた。
「ちょっとヒミツ!今なんかすごい上位存在が転移してこなかった!?」
「いや?」
「え?そう?・・・・じゃ、いっか。」
いや、それでいいのか宮廷魔道士、しかし既に転移して何処かへ消えた彼女に何か言っても仕方がないし、気づけば周りにあのワンコ供はいない、虚しく空いた銀のトレイと乱れたシーツが残るのみ、ここにいたのが嘘の様に消え失せていた。
「何なんだ…」
そうして俺はもう一度解析と結界を同時行使すると、
「ワフ?」
「わ…ッッッッッッ!?」
全裸のミゼールとその従者である女性が居り、全くもって忌々しいことに俺の魔法は彼の傷を癒しきり、まったり犬気分を満喫している彼の体相応のバベルの塔が視界に入り、同時にキッとつり上がったきつめの目がちゃミングなスレンダーボディを惜しげもなく晒している名も知らないメイドも目に入り、そ、し、て、意識、が・・・
「クッ!」
「ダメだよ!キティ!「その名で呼ぶんじゃありませんこの駄犬!」あはぁ!キモぢいいいい!!」
目が、覚めたら、色々聞こう。BUTURIで。
「私は帰りませんよ?少なくとも師匠からまともに剣を教わるまで。」
「そ、そっかぁ。」
所変わって時も変わって、勇者たちは全員で宿を貸し切っていた。しかし高校生特有の修学旅行的ノリというのは存在せず、おそらく明日になるであろう帰還の、その答えを出さねばならないと言う山田やその他普通じゃない系高校生以外が苦しみそうなこの問題の答えを皆静かに考えていた。
が、やはり普通じゃいない系高校生には退屈であり、些かの疎外感的なものを感じたため部屋ではなくエントランスの様になっている一階の酒場その奥のVIPルームで山田と魔法少女は駄弁っていた。
深夜まで起きて様々な娯楽に明け暮れる現代高校生に早寝というのは些か難しいのか、それとも今日が特別なのか・・・重要なのは彼女らが明日、どうあろうとおそらく帰らないという事だろう。
彼女らと一緒の部屋にいたほとんどはその境で迷い、苦しんでいる。
この剣と魔法の異世界にいてもいいと、むしろここに居たいという少年少女的な気持ちとヒミツや一瞬だけしか見れなかったがアーサー、モードレッドの様な超越人外のことを考えるとこの世界に残るのは危険だ。と言う理性的判断、他にもこっちで彼女ができたり、帰還人が本当に受け入れられるのかやまず帰還がきちんと成功するのか、様々な事で悩み、苦しんで居た。
国木田叶恵は魔法少女である。
夜な夜な動き出す数多の怪異をマジカルステッキを名乗る意味不明な喋る錠前、魔錠によって力を引き出される事で解決してきた歴とした魔法少女だ。
狸川や佐藤小夜の所属する巨大な怪異退治の組織や怪異を蒐集する奇妙な財団、そう言ったものを相手に単体で吹き飛ばしまくって居た『魔王少女』である。
何の因果か小学生の時からその怪しい異世界から来たと豪語する錠前と共に戦って居た彼女はこの世界に来てすっかり馴染んでしまった。
なぜならわざわざ夜更かしして巻き込まれたくもない世界の危機やら凶悪な怪異退治を受動的にする羽目にならず、むしろ自分よりも強くて異常な人材がゴロゴロしているこの世界において彼女は埋没できるこの世界に安心すら感じられる。
それに彼女の錠前の構成や彼が使わせてくれる魔法がこの世界においてのソレとほぼ同じなのだ。
すっかり怪異に慣れてしまった彼女は彼の正体をかなり熱心におっており、願わくば彼があるべき場所に戻ることを願っている。
「はぁ。」
「ダメだよ、国木田さん、もっとシャンとしないと!」
さてなぜここで彼女はこの頭の中が多少ましになったとはいえ全くもって変わらず剣ばかりの山田としゃべって居たのかというと、何とも珍しいことに、山田から相談を受けたからであった。
しかもその相談事は今彼らが渦中にある帰るかどうかと言うある種答えが決まって居なければ今まで何のためにやって来たのかわからない様な問題で無いらしい。
(ぶっちゃけ山田ちゃんから相談っていうとあのヒミツさんがらみだよね・・・どうしよう、力になれる気がしない。)
彼女の中でのヒミツというのはそれはそれは恐ろしい超越者、彼女が知る中ではかの有名な財団最強と謳われる女性や、退魔組織の現トップ、佐藤小夜の母親に当たる女性などなど思い出すだけでその圧力に潰されそうな人間もどきにカウントされつつもやはりその超越人外のどれとも同じ様に直接的な被害のない災害として認識されて居た。
「ま、いいです。私の相談事と言うのはズバリ、ヒミツ師匠とその周辺にいる女性です。」
「ああ、うん、そうだよね。」
「ん?わかって居たのか?それなら話が早いサクッと占ってもらえないかな?『占星術師』何でしょ?」
なぜ彼女が相談を受けるのか、それはひとえに彼女の貰った加護、いわゆる特典が原因である。
彼女の貰った特典、占星術師はかなり高位の魔法と占星術と言う占いの体系を基にした未来予知にも匹敵する星詠み、運命の決定と操作である。
未来視ができる生徒との違いは占いの手順を踏まなければ結果が出ないと言うこと、そして何より極めればそれこそ星の運命すら操る魔法使いに化けることである。
「・・・はぁ、一応やるけど期待しないでね。」
「うむ。」
しかし彼女はこの特典をあまり熟達できて居ない上に自身よりも格上や神、超越者じみた魔法使いなどにはその占いの精度は極端に落ち、今回の様に第三者から覗き見る様な事は相当なことがなければせいこうしない。
しかし、今回はその相当なことが、起きてしまったらしい。
「な…なにこれ。」
「む?どうしたの?」
彼女が見たのは、彼と自分たちが、なにやら尖った・・・
「あぐぅ!?」
「国木田さん!?」
ここで凄まじい勢いでナニカが叩き込まれ頭が割れる様な感覚と何かに蝕まれる様な、外界からの干渉じみたものを受け彼女の意識は途絶えた。
そして、彼女の目がさめると、宿に置いてけぼりを食らって居た。




