チートとは不正行為であって、理不尽とは違う
「ふうむ、この程度の異界粉砕できないとは…いや、そう言えば一応人間だったな。」
なんというか酷いことをいう神様だ。いや、不死身なだけの門番さんか?まあ良い、それは重要じゃ無い。
「なんでこんなところに来たんです?」
「そうだよ、影の国の女王サマ?僕と彼が愉快なダンスを踊っているっていうのにさ?」
《そうだよー!ていうか君は一応女神だっていうのになんでそんな現世に干渉できるんだよ〜!ズールーい!》
彼女はくるくると槍を弄りなんでもなさそうに地面にルーンを刻んでいく。
「何故か・・・か、強いて言えば暇つぶし、女神は気まぐれなんだ。ヒミツ。・・・ま、だが、今回のところは頼まれごとだ。個人的には地上にここの魔物を放ってもいいのだが、いかんせん他の神々がうるさくてな、というか空間やら時間やら操る神は何をやっているんだか…今度テコ入れに行くかな?」
さりげなく神々に命の危険が迫っていたが、個人的に繋がりがあるのは月の女神と影の国だけなので他は結構どうでもいい、しかし、頼まれごととは…ここの後始末だろうか?でもなぜ今?
「・・・ああ、そうか、時間切れが近いのか。」
「そういうことだ。」
ぼそりとあまりにも普段と違う声で呟いたミゼールに驚き振り向くと不滅であるはずの彼の体がほころんでいるのが見受けられた。
いや、よく考えればそうなのだ。召喚者が彼が現世に出ているために必要な魔力を供給出来るならまだしも彼の契約者であるはずのダンジョンマスターとの繋がりは彼女の死によって解除されており、彼は現世にいるにはあまりにも強い権限と神格を持っていた。
恐らく今までなんとかやっていたのは彼が権能を犠牲にして形態の維持に必要な魔力を削ぎ、更に俺や勇者たちの外に出している魔力のうちの幾らかを徴収することで表面上は大丈夫なように偽装していたのだ。
彼が、この異界の核である彼が消滅すればこの異界は崩壊し俺たちは外に出ることができる。
しかしそれは同時に魔力に飢え肉に飢え『曲がった時間』を憎悪するティンダロスの猟犬たちにも同じこと、上位存在であるミゼールたちが消えることで制御など無くなった彼らが外に出れば軽く世界は壊滅する。
鋭角限定とは言えそれさえあれば転移してくるというのはそれほどまでに強いのだ。
「そう、そしてこの空間で最も魔力を持ちこの空間の存続に必要な魔力の約八割を受け持っているヒミツを外に出せばあとは自動的に異界は収束する。そして私ティンダロスという概念を殺し、猟犬なぞという雑魚が世界へ出る前にこの浮遊島を破壊する。」
まるで誰かから頼まれたかのように他人行儀なスカアハはルーンを書き上げ魔力を通す。どうやら異界間の空間跳躍というトンデモ魔法らしい、構成や術理は読み取れるがさっぱり行使できる気がしない。
「むぅ、せっかくの現界だというのにこんな場所に縛り付けられ、観光もろくにできないってやっぱり辛いねぇ…ま、君のおかげで今回のところは曲がった時間を満喫とはいかないものの、楽しむことはできた。」
「ミゼール…。」
まるでイイハナシダナ、シリアスさは無いものの満足げにほころびていく邪神にちょっとうるっと来たのは内緒だ。
あいも変わらずフルフェイスの全身鎧姿では通常、表情が周囲に知れ渡らないが、少しうつむき眉間のあたりを抑えるようにする彼が哀しみのような感情をたたえているのは誰の目にも明らかだった。
程なくして勇者たちも集まり、元ダンジョンマスター現ノーライフキングの黒髪黒目つるぺた幼女も何かいいことでもあったのか元気に神凪にひっついている。
魔法少女が「・・・この天然ジゴロは一体何人の異世界人を嫁に取るつもりなんだろう」とか、狸川が「ロリコン死すべし慈悲はない。」とか、山田が「どうしましょう!神凪君でコレならヒミツ師匠もハーレムマスターな可能性が・・・いいえ!きっとだいじょうぶです!何人か消せばいいだけです!」とか、色々と個々人言いたいことがあったようだが、当の神凪君はくっついてくる幼女をあやす保護者にしか見えず、ジゴロとか、ニコぽろかなデポとか、それ以上に俺はこの世界の女子がどれだけ父性に魅かれるのかという統計が取りたくなったでござる。
いや、正直言って精神崩壊しすぎてようじたいこうしているだけだろう。うん、きっとそうだ。何かどさくさに紛れて契約魔法の基礎である口づけなどの身体接触を介した隷属したりされたりする系の魔法を発動させているのは気のせいだと思いたい…強く生きろよ。
「ふぅむ…勇者と聞いて期待したがヒミツレベルはいなかったか。」
そして異世界の高校生に何を求めてるんだ女神様、これでも俺は立派に社会人やって人生半分くらいは生きてから来たんだぜ?そしてこっちで血のにじむ(物理)ような努力をしたんだ。そう簡単にこの領域に来られたら俺が凹む。
「あの、ヒミツさんレベルってそれもう人間じゃないですよね?」
「うむ、まあそうだな。」
そして何失礼なこと言っちゃってんですか、こちとらまだ多分メイビー人間ですよ?心臓潰れてもしなないけど。
色々とあったが、特に誰が活躍するでもなく今回の事件は終わり、なかなかにもやもやとする結果となった。
しかし、考えれば疑問点は多い、まず幾ら世界の境界が緩んでいるとはいえダンジョンマスターが旧主のような超宇宙的神格を引き当てたのか、それに何故ダンジョンマスターに従ういやダンジョンマスターの肉体とも言える迷宮が意思がないはずのそれが死んだとは言えダンジョンマスターと契約した彼らを拒絶したのか、そして、何より、何故核となっているはずのダンジョンマスターが即死したというのに迷宮は機能を停止しなかった?
俺は勇者たちの護衛兼案内として迷宮都市を後にしながら王都を目指して歩きながらそれを考えていた。
この時この違和感をいつも通りもっと追求していればよかったのだ。
「雇い主さん?どうかしましたです?」
「ん、いや、なんというかこう・・・妙な感じがしてな。」
いや、それをしなくてよかったとも言える。何故なら世界的に見てそれは巨大な変化で、巨大な悪の誕生であったが、自由気ままに旅をすると決めていた俺には直接関係するようなことではなかったのだ。強いて言えばそれは勇者の対極であり、単純に今いる魔族の王では無い、邪悪で醜悪で見るも無残な負けるためにいる存在、きっとそれは勝者である勇者の半身であり片方にはもう片方がついてくると言った具合なのだろう。




