第33話 監視される街
経過日数:120日目 約172,000人
巨大隕石の衝突という絶望的なタイムリミットを抱えたこの恐竜時代に、現代女子たちが降り注ぎ続ける円形都市。
街の人口が増加するにつれ、防衛の重要性はかつてないほど高まっていた。
内政局長の如月冴子は、かつて蓮が過労で倒れた教訓を活かし、「蓮の魔法だけに頼らない」徹底した防衛シフトを構築していた。
「第三区画の非戦闘員は、有事の際は直ちに地下シェルターへ避難! 誘導班は動線の確認を怠らないように!」
拡声器越しに飛ぶ冴子の冷徹で的確な指示のもと、十七万人の避難訓練がシステマチックに行われていく。
さらに、鍛冶班長の堂島鉄子とインフラ局長の熊谷カンナは、防壁の裏手で新たな物理兵器の開発に没頭していた。
「重機くんの魔法に頼るだけじゃダメだ! あのファンキー・ラプトルの時みたいに、知恵をつけたデカブツが来るかもしれないからね。防壁の前に『巨大な落とし穴』のトラップ群と、恐竜の筋線維の張力を使った『炸裂槍』を配備するよ!」
「ああ、純粋な物理的破壊力でぶっ飛ばしてやるさ。重機、いや、蓮を少しでも休ませてやるためにもね!」
カンナと鉄子が泥と煤にまみれながら笑い合う。人間側の科学と知恵もまた、恐竜の進化に対抗すべく急ピッチで研ぎ澄まされていた。
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広域の食料確保と、恐竜の動向を早期に察知するため、街の外ではこれまでにない高度な偵察作戦が展開されていた。
「丹花さん、極限突破っす。無理はしないでくださいね」
「了解。あくまで偵察と、食料のマーキングだからね」
ベリーショートに迷彩ペイントを施した登山家、百地丹花が、蓮の魔法を受けて軽く跳躍した。身体能力を極限まで引き上げられた彼女の動きは、まさに野生の豹のようにしなやかだ。
彼女の耳には、未来遺産である無線のイヤホンが装着されている。
「丹花お姉さん、右前方の茂みに小型が三頭いるよ。大きく左へ迂回して」
イヤホン越しに指示を飛ばすのは、防壁の上でゴーグルを被り、コントローラーでドローンを操作するプロドローンレーサーの風間隼子だ。彼女が操るドローンで、上空からのリアルタイムな展開指示と、丹花の地上でのサバイバル技術を融合した、完璧な「空と陸の立体偵察網」が完成していた。
「サンキュー、隼子。……おっと、あそこの巣、親が留守みたいだね。ちょっとだけお土産をもらっていくよ」
丹花は恐竜の裏をかきながら地形調査を進め、ちゃっかりと中型恐竜の卵をリュックに詰め込んで、風のように森を駆け抜けて帰還した。
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しかし、その高度な偵察網の裏で、街にはすでに不気味な影が忍び寄っていた。
「……ねえ。これ、気のせいじゃないよね」
薄暗い記録室で、報道カメラマンの小鳥遊めるが、未来遺産のビデオカメラのモニターを食い入るように見つめながら、震える声を漏らした。
彼女は、街の記録映像や、防壁周辺の定点監視映像を毎日確認し、編集する作業を担っている。そのめるが、ここ数日分の映像の背景に、ある「異常」を発見したのだ。
「どうしたの、めるちゃん」
巡回中の影山忍が背後からモニターを覗き込む。
「ここ……見て。深い森の奥」
めるが映像を拡大し、コントラストを調整する。すると、鬱蒼とした古代のシダ植物の隙間から、こちらをじっと観察する「複数の黄色く光る眼」が、不気味に浮かび上がった。
「ひっ……!」
めるが息を呑む。映像を早送りしても、日を跨いでも、その眼は防壁の周囲のあらゆる角度から、決して距離を詰めず、ただ冷酷に街を監視し続けていた。
元スタントウーマンであり、自称・忍者の末裔である忍の顔つきが、一瞬にして険しくなった。
「……偶然獣が迷い込んだんじゃない。これ、完全に『防衛の死角』と、蓮さんの『魔法の隙』を窺うための、シフト制の偵察だね」
「シフト制って……恐竜が、交代で私たちを監視してるってこと!?」
「ああ。統率された、高度な軍事行動だよ。……奴ら、ただの獣の群れじゃない。本気でこの街を潰すための『戦争』の準備をしてるんだ」
忍の推論は、彼女たちの想像を絶する悪夢の始まりを告げていた。
知能を持った圧倒的な暴力が、着実に、そして静かに、女たちの楽園へとその包囲網を狭めつつあった。




