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第26話 運命のくじ引き

「ふざけないで! 命の誕生まで点数で管理する気か!」

「蓮さんの『来るもの拒まず』の精神を冒涜ぼうとくしてるわ! 彼と誰が愛し合うかは個人の自由よ!」


 結衣のファンクラブ勢力や、自由恋愛を求める層が猛烈に反発する。怒号が飛び交い、今にも暴動が起きかねない一触即発の空気が漂った。

 冴子も一歩も引かず、「これは八万人のコミュニティを崩壊させないための最低限の防波堤です!」と叫ぶが、両者の主張は完全に平行線を辿っていた。


「まあまあ、みんな落ち着くっす」


 張り詰めた空気を割って入ったのは、他でもない蓮だった。彼は壇上にひょいと飛び乗ると、困ったように頭を掻きながらマイク代わりの拡声器の前に立った。


「冴子さんの言う通り、無秩序に争うのは良くないっす。俺の体も一つしかないし、全員の希望を同時に叶えるのは物理的に不可能っすからね。だから、ポイント制のルール自体は俺も賛成っす」


 蓮の言葉に、反発していた女性たちがシュンと押し黙る。絶対的な王である彼の言葉は、この街では何よりも重い。

 しかし、蓮はそこでニカッと悪戯っぽく笑った。


「でも、ガチガチのルールだけじゃ息が詰まるっすよね。だから……俺の『公務』が休みで、体が空いている日に関しては、希望者全員の『くじ引き』で相手を決めるってのはどうっすか?」

「く、くじ引きですって……!?」


 冴子が目を見開く。


「ええ。ポイントに関係なく、純粋な運勝負。これなら、最近街に来たばかりの人にも、平等にチャンスがあるっす。冴子さん、これくらいのアソビは許してほしいっす」


 蓮に真っ直ぐな瞳で見つめられ、冴子は「うっ……」と息を詰まらせた。彼女は蓮の「お人好し」な提案に弱かった。それに、これ以上民衆の不満を溜め込むのも危険だと判断した冴子は、眼鏡のブリッジを押し上げて深くため息をついた。


「……仕方ありませんね。特別枠として、月に数回の『くじ引き』による権利行使を認めます。ただし、対象年齢は母体の安全を考慮し、十八歳からとします!」


 その瞬間、広場は割れんばかりの大歓声に包まれた。


「やったああああっ!!」

「蓮さん、最高! 一生ついていきます!!」


「というわけで、善は急げっす。早速、第一回目の『蓮との一夜』を懸けたくじ引き大会を始めるっすよ!」


 蓮が指先を弾くと、広場の中央に魔法で巨大な木箱が出現した。

 参加希望者は、該当年齢である十八歳以上の、なんと約三万人が手を上げた。暴動に近い熱気の中、三万人分の名前が書かれた木の札が次々と箱の中に放り込まれていく。

 全員が固唾を飲んで見守る中、蓮が木箱に手を入れた。


「えーっと……これにするっす」


 蓮が引き抜いた一枚の木札。そこには、はっきりと名前が刻まれていた。

 蓮は札を読み上げ、少し驚いたように目をパチクリとさせた。


「えっ……第一回目の大当たりは……内政局長、如月冴子さんっす!」


 静寂。

 三万人の女性たちが、一瞬、自分の耳を疑った。

 そして次の瞬間――。


「ふッざけんなあああああああっ!!!」

「職権乱用だ! 絶対にヤラセよ!」

「ルールを作った本人がくじ引きで当たるとか、そんな都合のいい話あるわけないでしょおおっ!」


 地響きのような大ブーイングと非難の嵐が、冴子に向かって集中砲火のように浴びせられた。無理もない。三万分の一の確率を、ルール制定の言い出しっぺである局長本人が引き当ててしまったのだから。

 しかし、当の冴子は顔を限界まで真っ赤にしながらも、怯むことなく胸を張った。


「ヤ、ヤラセではありません! 私は一切箱に触れていませんし、引いたのは蓮です! それに、私だって該当年齢の健康な女性です、私にも権利はあるに決まっています!」


 鉄の女が、信じられないほどの早口で開き直った。

 民衆の「ブー!」「ズルいぞ眼鏡!」という怒号が飛び交う中、冴子はツカツカと蓮の元へ歩み寄ると、彼のジャージの袖を力強く引っ張った。


「ほら、行きますよ蓮! ルールはルールです、今日は私の『権利』を存分に行使させてもらいますからね!」

「あ、ちょ、冴子さん、引っ張らないで……みんな、ごめんっす! また次回!」


 顔を真っ赤にして早足で歩く冴子に引きずられ、蓮は苦笑いしながら広場を後にした。

 背後からは三万人の怨嗟の声が響き続けていたが、自室の扉を閉めた瞬間、冴子は安堵と極度の緊張でその場にへたり込んだ。


「はぁ、はぁ……心臓が、破裂するかと……」

「冴子さん、大丈夫っすか? 顔、真っ赤っすよ」


 蓮が覗き込むと、冴子は涙目になりながら彼を見上げた。いつもは厳格な局長の顔などそこにはなく、ただの一人の恋する女性の素顔だった。


「だ、だって……私も、本当はあなたの子が欲しくて……でも、立場上言い出せなくて……っ。くじが当たった時、神様っているんだなって……」


 不器用すぎる本音に、蓮は思わず優しく吹き出した。


「神様っていうか、俺が引いたんすけどね。でも、俺も冴子さんの名前が出た時、ちょっと嬉しかったっすよ」

「れ、蓮……っ」


 冴子はそのまま蓮の首に腕を回し、熱に浮かされたように唇を重ねた。

 街の熱狂と怒号が遠くで響く中、鉄の女は誰よりも激しく、そして甘く、蓮との権利の行使の夜に溺れていくのだった。

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