第23話 理想の円形都市
経過日数:50日目 約72,000人
空から絶え間なく降り注ぐ現代女子たちを受け入れ続る白亜紀。
桜豪千蓮の土木魔法と、技術・インフラ局の尽力により、街には三階建ての団地風の住居がひしめき合っていた。だが、生き延びることを最優先に空いたスペースへ無秩序に建て増しを続けてきた結果、街は迷路のように入り組み、深刻な問題を抱え始めていた。
「蓮、居住区の不満が爆発寸前です」
内政局長の如月冴子が、分厚い木簡の束を抱えて蓮の前にやってきた。
「これまでは空いている部屋にランダムに割り振ってきましたが、限界です。召喚後に家族や友人と再会できた者たちは『一緒に暮らしたい』と訴え、逆に集団生活に疲弊した者たちは『一人暮らしができる部屋が欲しい』と要求しています。間取りを選べないことへのストレスが、治安の悪化に直結しかねません」
冴子の報告に、蓮は腕を組んで頷いた。
「確かに、七万人もいればライフスタイルもバラバラっすよね。分かったっす。家族用、ルームシェア用、一人暮らし用……すべてのニーズに応えられるように、街ごと作り直すっすよ」
「ま、街ごとですか……!?」
「ええ。どうせなら、もっと住みやすくて綺麗な街にしたいっすからね」
蓮の決断を機に、七万人の巨大コミュニティを「国家」として機能させるための大規模な再設計が始まった。
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いよいよ物理的な都市の再構築が幕を開ける。
蓮の前に、巨大な粘土模型を台車に乗せて運んできた女性がいた。モダン建築を得意とする一級建築士、天王寺雅である。
「蓮さん、お待たせしました! これが私の考えた、すべてのニーズを満たす新しい街のマスタープランです!」
雅が誇らしげに提示した模型は、息を呑むほど精巧で美しい「円形都市」だった。
街の中心にハーベストゲートを据え、そこから放射状に美しいメインストリートが伸びている。同心円状に区画が分けられ、中心に近いほど一人暮らし用のコンパクトな部屋、外側に向かうにつれて家族や複数人で暮らせる広い間取りの住宅が配置されていた。さらに農業区、商業区、インフラ区が完璧な動線で結ばれている。
「すげえ……ただの長屋が、完全にファンタジーの王都みたいになってるっすね」
「機能美と芸術性の融合です! これなら、七万人以上が自分のライフスタイルに合わせて居住区を選べます。あとは、これを実体化させる最高の施工業者……つまり、あなたの魔法にかかっています!」
雅の期待に満ちた熱い視線を受け、蓮はニカッと笑って袖をまくった。
「任せるっす。俺の魔法を、超巨大な3Dプリンターだと思って指示してほしいっす」
蓮は広場の中央に立つと、全魔力を解放した。
「空間牽引……からの、万物拡充っす!」
ズズズズズッ……!!
凄まじい地鳴りとともに、魔法の奇跡が具現化していく。雅がデザインした粘土の模型が、蓮の魔力を通して一気に巨大化し、実体のある建築物として立ち上がっていくのだ。
無秩序だった土の長屋が解体され、洗練された曲線を絵描く美しい住宅群が次々と形作られていく。一人暮らし用のスマートな部屋から、家族で食卓を囲める広いリビングを持った家まで、雅の計算し尽くされた設計図が、魔法のような――いや、魔法そのもののスピードで大地に描かれていった。
「嘘……信じられない! 私の理想の都市が、たった数時間で……!」
目の前で完成していく巨大で美しい円形都市を見上げ、雅は感極まって震えていた。
そして次の瞬間、彼女は泥だらけの作業着姿のまま、蓮の首に思い切り飛びつき、強く抱き締めた。
「最高! あなた、世界一の施工業者よ! 愛してるわ、蓮さん!!」
「ちょ、雅さん!? 泥がつくし、みんな見てるっすから!」
興奮のあまり歓喜の声を上げる雅の柔らかな体が密着し、蓮はタジタジになって顔を赤くする。
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次に動いたのは、街の秩序と安心感をもたらす文化的なインフラ整備だった。
広場の中央には、時計職人の時計トキが緻密な計算のもとに巨大な「日時計」を設置した。太陽の動きと蓮の魔法を同期させ、街の時間を統一したのだ。一分に一人の召喚をカウントし、労働シフトを管理することで、七万人の生活に規則正しいリズムが生まれた。
さらに、入り組んだ区画を整理するため、書道家の大文字筆が活躍した。彼女は恐竜の血や植物の汁で特製の墨を作り、真新しい木の板に力強い筆致で案内標識や居住区の看板を書き入れていった。
「やっぱり、見慣れた日本語の文字があるとホッとするわね……」
街の至る所に掲げられた美しい日本語の看板は、恐竜世界で不安に怯える女性たちに、強烈な安心感と文明の香りを与えていた。
生存のためだけのスラム化しかけていた長屋は消え去り、女性たちが自らの意思で生き方を選べる、美しく強固な巨大円形都市。
恐竜時代のど真ん中に、人類の叡智と魔法が結集した「理想郷」が、ついにその全貌を現したのだった。




