おしゃべり
「ただいまー」
「おかえりー。」
座敷に戻ると席が微妙に移動していた。男の人は移動せず、一番入り口近くに私、私が元々居たところに舞ちゃん。で、舞ちゃんが居たところに百合ちゃんが。
センパイから遠ざかったことにほんとにひと安心、したけど、舞ちゃんは大丈夫かな?と心配になる。
ちらっと見ると普通に喋ってるみたい。舞ちゃんすごい。
ひと安心したけど、男の人の隣に居ることに変わりはなかったんだった。
私の右隣に前野さん。左側に西谷さん。正面に百合ちゃん。
前野さんはなんだか平気な気がする。西谷さんもちょっと大人の人だから緊張するけど安心して喋れそうな気がする。
正面の百合ちゃんを見ると「これでどうだ?」って親指を立ててたから「ありがとう」ってピースサインを返した。
それからは初めて男の人と上手く喋れた気がした。前野さんは昔バスケをしてたとか、今はジョギングとかジムに通うのが趣味とか。西谷さんは営業の係長で普段はこの時間に帰ることなんてめったにないとか。私も会社の上司は私が帰った後もデスクで仕事してるから残業してる人にはいつも帰る前にコーヒーを淹れておく。それくらいしかできないけど、ちょっとでも疲れがとれてくれたらなぁ、と思う。
「そうか、こんな子部下に欲しいな。」
すっかり疲れた様子の西谷さんが私を見て目を細める。こちらこそいろいろと気苦労を増やしてしまったみたいで、「いや、そんな」といいながら小さくなる。
「なんか、癒されるね。」
前野さんがビールでちょっと赤くなった顔で言う。
「富士山の見える牧場の春…。超癒される。」
「あー…キャラメルとか作ってる系のね。」
どこかから聞いてた大橋さんが前野さんの話に乗っかる。
青空の下、遠くに見えるのは富士山。草をもぐもぐする牛とか羊とか。草原にはかわいいお花畑…。
『癒される…』
まさかの三人ハモりに思わずふき出してしまった。ああ、お腹痛い!
しばらく百合ちゃんと笑い転げて涙で滲んだ目元を拭ってたら前野さんと目が合った。
前野さんはにこにこしながらビールを一口飲んで
「やっと、笑った。」
私は、お酒を一気飲みしたんじゃないかってくらい真っ赤になってしまった。