幕間 ー2ー
(side.???)
それは、とある日の日常だ。
突然ふつりと記憶が蘇ることがある。
当たり前に過ごしていた、どうということもない一瞬の出来事が不意に脳裏に浮かぶ。
たとえば。
大雑把な竜を体現したような性格だったから、足元にある色んなものをよく蹴飛ばしていた。
気をつけて歩けと何度も注意したけれど、結局のところあれは性格なので、治るものでもなかった。
国のこと、民のことをひとり延々と語り続けているのを聞かされ続けていたことがあった。
かと思えば何事かを考え込んで、幾日も無言のまま過ごしていたこともあった。
極端だなと呆れはしたが、いつでも真面目だったのだ。かえって尊敬の念が湧いた。
それから、ただ並んで座り、黙って民の暮らす街並みを眺めたこともあった。
ふたりとも互いが考えていることなどわかってはいなかったけれど、別にそれでいいと思っていた。
隣にいるという、それだけで。
また別の日には、どうしてもと譲らず、危うい手つきで茶を振る舞ってくれたこともあった。何度か挑戦していたが、大雑把な性格なのは仕方がないのだろう。一向に上手にはならなかった。
月明かりを反射した鱗が綺麗だと、珍しく照れ臭そうに褒めてくれた夜があった。
言葉にするのは苦手なのだと言いながら、毎日一度は「愛してる」と正面から言って笑ってくれていた。
毎日だ。
絶えず寄り添っていたわけではなかったけれど、毎日、そこにいた。
色んな顔で笑い、怒り、困り、照れていた。
色んな声で話し、囁き、時には怒鳴ってもいた。
そうだ。
揉め事が日常茶飯事の獣人たちの仲裁に入れば必ず、一発ずつの拳で事態を解決させていた。
何ひとつ忘れているつもりはなかったのに、それでもどこか遠くに追いやられてしまっていた記憶がある。
前触れもなく、それを思い出すのだ。
そうやって思い出す度に、忘れてしまっていたことに気づかされる。
歪で美しい世界にヒビが入るのは、そんな時だ。
だから――
許せなかった。
己にこの地に引き留めておきながら、勝手にどこへ行こうと言うのか。
愛しているからこそ、正気を失うと言うのなら。
守りたいからこそ、すべてを敵に回すと言うのならば。
いっそ同じだけ壊れてしまえばいいのに、と、そう思ったのだ。
だって己の胸の奥にある珠玉はもう二度と、こそりとも音を立てることはないのだから。おまえのそれと、よく似ているじゃないか。




