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陛下、それは猫ではなく後宮妃です!~姿を変えて、冷徹皇帝の溺愛本音を聞いてしまいました~  作者: 及川 桜@『後宮の料理妃2』発売
第五章 玉座の決断、真を暴く

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「……まさか、この陰謀を暴くために、猫になっていたのか?」


「い、いえ……ち、違います。わ、私は……貴妃様の、じゅ、呪術を壊すために宮へ忍び込み……香炉を倒すまでは、うまくいったのですが……見つかりそうになって……な、なぜか……猫になってしまったのです……」


「なんと危なっかしいことを。璃華は、昔から向こう見ずなところがある」


「す、すみません……。じゅ、呪術に冒された、あ、阿李を……た、助けたくて……」


「……阿李。ああ、あの侍女か。璃華がいなくなったとき、ずいぶん心配していたぞ」


「は、はい……。……た、大変申し訳ないことを、してしまいました……」


 璃華は目を伏せ、申し訳なさそうに肩を落とす。

 その姿を見て、黎煌は思わず抱きしめたくなる衝動に駆られた。

だが、手は伸ばせなかった。

 自分が怖がられていることを思い出し、ただ静かにその思いを胸にしまう。


「璃華の意思で猫になったのではないのなら、一体、何が起きたのだろうか」


「お、おそらく……七年前の、神域の森で……れ、霊猫のご加護を、う、受けていたのだと……思います」


「ああ、あの時、か」


 黎煌の胸に、鮮やかに記憶が蘇る。

 初めて璃華と出会い、命を救われ、そして恋に落ちた――あの場所。

 命の危機すらあったが、それ以上に心に刻まれたのは、璃華という存在だった。


「い、今まで……も、元の姿に戻ることができなかったのですが……よ、ようやく原因がわかったので……こ、こうして人の姿に戻ることが、できました」


「そうか。それは、難儀であったな。猫の姿では、何かと不便だったろう」


「い、いえっ……む、むしろ……て、丁重に、扱われすぎて……き、恐縮でした……」


 璃華はぱっと顔を上げ、恥ずかしそうに黎煌を見つめる。

 その瞳と視線が合った瞬間――

 ふたりの間に、猫として過ごした日々の記憶が一気に蘇る。

 そして、火がついたように、同時に頬が赤く染まった。

 慌てて目を逸らし、早鐘のように鳴る心臓を、必死に鎮めようとする。


(璃華は、もう俺の気持ちを知っている。ならば――もう、抑える必要などないのではないか)


「れ、黎煌様……わ、私……」


 璃華は頬をほんのり染め、潤んだ瞳で黎煌を見つめていた。


「……璃華」


 名を呼ぶ声は、甘く、切なげに震えていた。

 抑えていた想いが溢れ出し、言葉より先に視線が語り合う。

 互いに引き寄せられるように、ゆっくりと顔が近づいていく――

 そのとき。


「陛下、お食事をお届けに参りました!」


 扉が叩かれ、間の抜けた声が部屋の静寂を打ち破った。

 ハッとして、ぴたりと止まるふたりの動き。

 顔を赤く染めたまま、バッと距離を取る。

 気まずい空気が漂い、互いに目を逸らして黙り込む。


「……わかった。今、行く。そこで待っていろ」


 黎煌は低く押し殺した声でそう返すと、内心では舌打ちしたい思いで立ち上がった。


(……くそっ、絶好の雰囲気だったというのに!)


 心の中で毒づきながら、苛立ちを隠すように足早に扉へ向かった。

 廊下に出て御膳を受け取ると、すぐさま扉を閉めさせた。

 寝台のそばへと歩み、掛け布の上にそっと御膳を置く。


「猫の姿で、満足に食べられず、ひもじい思いをしただろう」


「な、なにをおっしゃいますかっ! れ、黎煌様が、猫でも食べられるよ、よ、ようにと、特別な御膳を用意しろと……おっしゃったではありませんか! お、驚くほど豪華な御膳で……ございました!」


 そうだったか、と黎煌は記憶を探る。

 色とりどりの、ひと口大の料理が美しく並べられたあの御膳。

 まるで菓子のように可愛らしく盛られていて、見た目にも満足していたが……まさかその猫が璃華本人だったとは、夢にも思わなかった。


「いや……今思えば、あれだけでは足りなかったな」


「い、いえ……け、決してそんなことは……! ね、猫の体は小さいので、むしろ……多すぎるくらいでした……」


(謙虚なやつだ。そういうところも……また、たまらなく愛おしい)


 冷たく無表情な皇帝の仮面の裏で、黎煌の心は完全に惚けきっていた。

 そんなことなど露ほども知らぬ璃華は、気まずそうに肩を縮こませながら、そっと御膳に手を伸ばす。


(ああ……その小さな口で、慎ましく食べる姿の、なんと可憐で可愛らしいことか。俺は箸になりたい)


 表情こそ変えずに、じっと見つめているが――その眼差しは、もはや厳格な姑の域。

 だが実際のところは、璃華への想いが溢れすぎて、やや変態じみた思考になっている。

 黎煌の思考がそんなことになっているとは露ほども知らない璃華は、鋭い視線を受けて肩をすくめ、気まずげに箸を動かし続けた。


 食事を終えると、璃華が小さくあくびを漏らした。

 それを見て、黎煌は慌てて空になった御膳を寝台から下ろし、手早く片づける。


「疲れただろう。早く休むといい」


 璃華を寝かせ、黎煌はそっと柔らかな絹の覆いを掛けてやった。


「い、いけません……。わ、私がここで寝てしまったら……れ、黎煌様は……どちらでお休みに?」


「ん? 同じ寝台で寝るが?」


 まるで当然のことのように返された璃華は、目をぱちくりと丸くする。


「……い、一緒に……寝るのですか?」


「ああ。猫のときは、毎晩共に寝ていただろう?」


「そ……それは……」


 璃華は恥ずかしさに耐えきれず、視線をそらす。

 けれど、拒む様子はなく、おとなしく横になった。

 黎煌も絹の覆いの中に入り、ふたりは自然と向かい合わせになる。

 璃華は目をぎゅっと閉じ、全身をこわばらせていた。


(……夜伽の覚悟をしているのか?)


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