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陛下、それは猫ではなく後宮妃です!~姿を変えて、冷徹皇帝の溺愛本音を聞いてしまいました~  作者: 及川 桜@『後宮の料理妃2』発売
第五章 玉座の決断、真を暴く

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 璃華は掛け布で体を隠し、背を向けていたが、その白く滑らかな背中が目に焼き付くほどに神秘的で、美しかった。

 しばらくの間、黎煌は魂を抜かれたかのように呆然としていた。

 だが、恥じらいながらもじっと俯いている璃華の姿に、ふいに我に返る。

 羽織っていた長衣を脱ぎ、寝台で横座りする璃華の肩へとそっとかけてやった。


「……あ、ありがとうございます……」


 長衣に身を包んだ璃華は、ようやく羞恥から少しだけ解放されたのか、小さく頭を下げる。


「……本当に……璃華、なのか」


 黎煌はその顔をのぞき込み、目の前の天女のように美しい女性を、まじまじと見つめた。


「……は、はい」


 璃華は頬をほんのり染め、長い睫毛を伏せるようにして斜め下を見つめながら答える。

 その一挙手一投足があまりに艶やかで、目が離せない。

 黎煌の胸の内では、押し殺していた鼓動が高鳴りを上げ、熱くたぎっていた。


「どういうことだ? 璃華は猫だったのか?」


 璃華が猫なのか。猫が璃華なのか。

 頭の中で思考が渦を巻き、答えの出ない混乱に包まれる。


(いや、たとえ璃華が人間でなかったとしても……構わない。むしろ、人の姿に縛られぬ存在だからこそ、これほどまでに美しく、心を奪われるのかもしれない)


 黎煌の胸は、言葉にならぬ感動で震えていた。

 こんなにも希少で、こんなにも美しい存在が、この世にほかにいるだろうか。

 璃華への想いは、さらに膨れ上がっていく。


「あ、わ、わた……しは、ね、猫……じゃ、なく、に、人間で……こ、これは……」


 璃華は必死に言葉を繋ごうとしていた。

 猫から人の姿に戻ったばかりの影響だろうか、うまく言葉が出てこない様子だ。


「無理をするな。体もまだ、本調子ではなかろう。まずは、ゆっくり休め。お腹は空いているか?」


 黎煌の問いに、璃華は一瞬きょとんとした後、小さく頷いた。


「そうか、よかろう。しばし、ここで横になっていろ」


 黎煌は優しく声をかけると、掛け布を整えてやった。

 黎煌は静かに寝台を離れ、そっと寝室の扉を開けて廊下へ出る。

 すぐに扉を背後で閉じると、待機していた宦官が声をかけてきた。


「いかがなさいましたか、陛下」


「至急、食事を用意せよ。準備が整い次第、声をかけろ。ただし……決して中へは入るな」


「はっ!」


 宦官は恭しく拱手の礼をとると、足音も軽く駆けていった。

 黎煌は再び寝室に戻り、扉を静かに閉じる。


(……さて、どうしたものか)


 璃華が戻ったことは、本来ならすぐに報告すべきだ。

 だが、なぜ皇帝の寝室にいたのかと問われれば、言い訳のしようがない。

 ましてや、璃華が猫に化けていたなどと知られたら、宮廷は騒然となるだろう。

 どこにいたのか、どうやって戻ってきたのか。


 黎煌は思案を巡らせながら、寝台へと静かに歩を進めた。

 璃華は横になることなく、長衣を羽織ったまま、不安げな瞳で黎煌を見つめていた。


(璃華は、ずっと俺のそばにいてくれたのか)


 その思いに胸が熱くなりかけた瞬間――ふと、黎煌の思考が引っかかる。


(……待てよ。猫が璃華だったとすると……俺は、ずっと、本人に本音を語っていた、ということか⁉)


 足がぴたりと止まり、背筋に冷たいものが走る。

 脳裏をよぎるのは、過去の数々のとんでもない発言。

 美しいだの、愛してるだの、まるで告白のような言葉。

 さらには、寂しいだの、怖いだの――絶対に聞かれたくなかった、弱さをさらけ出した独白まで。


(……やってしまった~~っ!)


 頭を抱えてうずくまりたい衝動を、どうにか堪える。

 これはもう、大失態どころではない。

 恥ずかしさを通り越し、心の奥底で身悶えするしかなかった。


「れ、黎煌様……?」


 璃華は突然立ち止まり、真っ青になって固まっている黎煌を見て、心配そうに声をかけた。

 内心では、過去の言動を思い出して悶絶し、思わず壁に頭を打ちつけたいほどの衝撃を受けていた。

 だが黎煌は、長年にわたる宮廷生活で身につけた見えない仮面をかぶるように、感情を一切読み取らせぬ表情で歩み寄る。


「食事はすぐに届くだろう。それより、横にならなくていいのか?」


 言い方に圧があったのだろうか。

 璃華はびくりと肩をすくめ、怯えたような表情を浮かべる。


(……やはり、俺が怖いのか)


 もっと近づきたいという思いが募る。だが、それ以上に怖がらせたくはなかった。

 黎煌はほんの少し距離を置くように、寝台の端に静かに腰を下ろした。


「あ、あの……み、密書のこと、なのですが……」


 璃華の声はか細く震えていたが、瞳には必死さが宿っていた。


「ああ、そうだったな。証拠がなく、手出しができずに困っていた。……これさえあれば、一網打尽にできる」


 黎煌の声には、確信と力強さが滲んでいた。


「さ、昨夜……き、貴妃様と、司馬嶺様が……こ、後宮内で密会しているところを……も、目撃しました。し、司馬嶺様は、れ、黎煌様を廃して……じ、自分の意のままに操れる、黎泰様を即位させようとしていました。そ、それに……司馬嶺様は、じゅ……呪術を操ることができ……貴妃様も、その力を使って……こ、後宮に呪いを……き、貴妃様は……蠱毒を、作っているようです……」


 たどたどしいながらも懸命に言葉を紡ぎ、陰謀の全容を伝えようとする璃華の姿に、黎煌の胸は打たれた。

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