六話
外に飛び出したキャシーは建物の足場を伝っていき、ウィータに相応しい師匠を探し始める。しかし、師匠に相応しい人どころか、魔法使いも魔術師も見つからない。
(にゃーだめにゃ、全然見つからにゃい。やっぱり地位の高い人間様はそうそう見つからにゃいのかにゃ?)
そんな風にあちこち探し回っていた。
ふと、キャシーは街ゆく人々が売店に集まっているのが見える。
彼らは霧が立ち込めているのにも関わらず、新聞を広げて立ち去って行く。
(あぶにゃいにゃ、歩きスマホって昔からあったみたいにゃね。あっ、これじゃあ歩き新聞にゃ)
つまらないボケだ、と思いながらキャシーは売店に向かう。
ここなら魔法使いに出会える気がした。
「チャンスが来たぞぉぉぉ!」
突然、震える程の大声が響きだす。
新聞を読んでいた一人が叫び出したのだ。
男は新聞紙を握りつぶし、ドタドタと水溜りを跳ねかせてキャシーの横を駆け抜けて行く。
「にゃ、にゃ⁉︎(ちょ、あぶにゃいじゃにゃい!)」
危うく、綺麗な白に泥汚れがつきそうになる。
泥まみれになったら、きっとウィータが心配して、悲しい顔を浮かべてしまう。
彼にそんな顔をさせたくないキャシーは細心の注意を払い、水たまりを大回りする。
(しかし、あんにゃに叫んで、にゃにが書かれてたのかにゃ?)
周囲の人々も先ほどの男ほどではないが、ヒソヒソと新聞の内容について語っている。
一体何が書かれているのか、気になったキャシーは売店の地面に転がる新聞紙を覗き込んだ。
『十二貴族相次ぐ没落 国の行く末はいかに?』
『霧に隠れた蝋人形は新たな被害者を生む 警察は注意を呼び掛けていた』
確かにゾッとする様な見出しだった。
二つ目の見出しに至っては、夢に出て来そうな顔が載せられている。
(この国ってデストピアかにゃ? 一つぐらい、いいニュースがあってもいいでしょ!)
物騒なニュースにキャシーはキレ散らかす。しかし、この程度のニュースで彼らはざわめいていたのか。
首を傾げて辺りを見渡すキャシー。
「?」
足元の新聞と彼らが持つ新聞を見比べる。
「??」
本当に同じ新聞なのか?
「???」
見出しの文字数が違う気がする。
「!」
キャシーはあることに気がついた。
(これ、昨日の新聞にゃ!)
僅かな違いだが、新聞を読んでいる人たちと足元の新聞の枠が違っていたのだ。
(にゃんだよ! しっかり、捨てろにゃ、ポイ捨て反対にゃ!)
シャーと叫びながら古い昨日の新聞を破り捨てる。
正確な情報を拾えなかったキャシーは落胆のため息を吐く。
「四ミンツちょうどです」
落ち込むキャシーの耳に聞きなれた声が聞こえる。
落ち着いた物腰でハキハキとした声だ。
見ると黒茶色の髪に丸いメガネをかけた少年が今日の新聞を買っていた。
(ウィータ、新聞読めるの!)
目を見開く彼女だが、ウィータはこれよりも数倍分厚い魔導書を読むことを思い出す。
逆にキャシーはたかだか、数行の新聞すら読む気になんてならなかった。
(ふふ〜ん、ウィータが読むにゃら見せてもらおっかにゃ)
弾む様な気持ちで歩み寄り、ぴょんっと彼の肩に飛び乗る。
「わぁ⁉︎」
急に肩が重くなった彼は驚くが、しっかりとバランスを取ってくれた。
「キャシー! どうして、君がここに?」
「にゃー(新聞見せて)」
キャシーは水色の瞳を隠す様に目を細めて鳴いた。
ウィータは眉を垂らして困り顔を浮かべる。
「もしかして、退屈で抜け出て来てしまったのかい?」
猫と会話ができない彼は違う理由でキャシーがここにいるのだと勘違いする。だな、それもあながち間違いではないとキャシーは首を振らなかった。
「おい、クソガキ、買ったんならとっととどっかに行ってくれ。商売の邪魔なんだ」
どんよりと疲れを見せる店主が声を低くしてウィータを呼びかける。
「あぁ、すみま」
謝ろうとした彼に店主は言葉を重ねていう。
「てめぇ見てぇなガキは、家にでも帰ってダラダラ過ごせばいいさ。忙しなく働く俺らと違って安全で快適な住処を持ってんだからよ」
喧嘩腰の発言にキャシーは思わずムッとなる。
(何あんた? 店員の癖にそんな口聞いていいわけ? ふっ、二度とくるものかにゃ!)
尻尾をピンと伸ばし、敵意をむき出しにキャシーは睨む。しかし、ウィータは違った。
彼は店員の言葉など興味がない様だ。
くるりと向きを変えたウィータはスタスタと場所を変える。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
内と外で温度差が違いすぎますね。
それでも回る国に正直感服ですよ。
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