二十九話
星空が静かに広がり、氷の破片が散らばったオータル闘技場のスタジアムには最強の魔術師ダマンフレールとウィータの二人だけが立っていた。
息が詰まる様な重圧と骨の髄まで震える程の恐怖がウィータに迫り来る。
魔力量が殆どないウィータはようやく戻りかけた最後の一撃を友達の為に使ってしまった。
そこに後悔はない……
なす術はもうない……
唇を噛み締めてダマンフレールから少しずつ距離を置こうとする。しかし、相手の方が素早く歩み寄り、距離は縮まっていく。
「本当に小さいな」
ダマンフレールは吐き捨てる様に言った。
「私は二度、君の事を見落としてしまった。最強の二つ名が聞いて呆れてしまう」
黒ずんだ自身の腕の小さく空いた穴を見つめる。
「見落とした理由は二つ、私自身が慢心をしていた事。もう一つは君の魔力。見るにこの試験で使い果たしていた訳ではなく。最初からそこまで無いのだろう」
黒く澱んだ瞳でウィータのうちを覗き込む。
「無いに等しい魔力など空気を舞う塵も同じ。全くここまで生き残れた君には驚かずにはいられない」
「お褒めに預かり、光栄です」
クスッと微笑むウィータの頬には冷や汗が滲んでいた。
「僕を乗っ取った所で不便なだけですよ」
「そうでもない。確かに先程の少年よりも些か物足りない所はある。しかし、君の魔力の無さなど取るに足らぬ心配だ」
ウィータの言葉にダマンフレールは風穴の空いた腕を直しながら言う。
「魔力などいくらでも増やす当てはある。それよりも」
澱んだ瞳が怪しく光る。
ウィータを捉えた。
「君の魔法を操るセンス。実に素晴らしい。私の魔法を一突きでダメにした」
「治されながら言われても……」
ウィータの小言など気にも止めずダマンフレールは話す。
「私以外の魔術師や魔法使いで立っているのは君だ。おめでとう、君は試験に合格した」
嬉しくもない賞賛にウィータは異議を唱える。
「戦ったのは僕じゃありません。それにここに来る途中も他の人のおかげで」
「何はともあれ、君がここにいると言う事が強さの証明だ」
ダマンフレールはウィータの言葉を遮って話す。
「最強とは言葉の通り最も強いものを指す。強さとは何か? 力か? 知恵か? 勇気か? その全てまとめてであろう。しかし、全てを持った者でも負けたならば、その者は最強とは言えない。そうだろ?」
一息置いてまた話し出した。
「最強とはどんな手段であろうと勝ち続けた勝者の物であろう。そこにどんな偶然があろうと結果が全てなのだ」
ダマンフレールの言葉にウィータは目を背ける。
彼の言う事が正しいと思わなかったのだ。
同じ様に正しい答えも出てこなかった。
もしかすると、そうなのかもしれない。
そう、思ってしまった。
黙り込むウィータに対してダマンフレールは言った。
「強さとは多彩である。故に一つを極める事も千の技を持つ事もまた強さと言えるのだ」
ダマンフレールは両手を広げて言い切る。
結論は出た、そう唱える様に彼は胸を張っていた。
「さぁ、この肉体も長くは持たない」
静かに呟くとダマンフレールは腕に邪悪なオーラを纏い、黄金の刺青を浮かび上がらせる。
「チェンジング」
入れ替わりの魔法を口にした。
「にゃー!」
静まり返っていたスタジアムで猫の鳴き声が響く。
ウィータの視界の端に真っ白な生き物が見える。
首には青いリボンに瞳と同じ水色の魔法石をぶら下げた猫がこっちへかけて来た。
「キャシー⁉」
ウィータは目を丸くして叫けぶ。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
「強さとは多彩」好きなスポーツ漫画のライバル監督が言っていた言葉です。
なるほど! と思わせてくれます。力で押すのも利用するのも強い方が勝ちます。
この世界の魔法は多種多様で出来ているので多彩な強さがあったりするのかもしれません。
まあ、初手から全部ぶち壊す魔法はずるいと思ってしまいます。
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