二十八話
黒いドームの中には星空が広がっていた。
まるでプラネタリウムの様な空間にキャシーは驚く。
随分、星を見ていなかった様な気がする。
「にゃーにゃー(ウィータ、ウィータ)」
何度もウィータの名前を呼んで、彼を探していた。
突然、何かが視界を横切る。
慌てて見てみると褐色の肌に癖っ毛の少年。
休日の魔法使いガレウスがぐったりと岩に埋もれていた。
「にゃ、にゃ!(ちょっと、大丈夫?)」
呼びかける声にガレウスは少し唸るだけ、それでも息をしていた事にキャシーは安堵する。
(良かった。まだ、息してるにゃ)
キャシーは手当てをしてあげる事ができない為、先を急ぐ。
ガレウスが飛ばされて来た先にウィータがいる気がする。
案の定、ウィータはそこで戦っていた。
隠れる場所のないスタジアムでキャシーは身を低くして隠れる。
今がどう言う状況か様子を伺った。
ウィータの他にシルフィードや彼の隣にいたマックスと言う柄の悪そうな少年もいる。しかし、全員体はボロボロで疲弊し切っていた。
彼らの目の前には、巨大な存在感を放つ最強の魔術師ダマンフレールが立ち塞がっている。
「どうした、もうお終いか?」
陰鬱なため息を吐きながらダマンフレールは尋ねた。
分かりきった答えの様に、彼は淡々と話し続ける。
「やはり、私を超える存在はいなかった様だな。別に期待など元々していなかった。なぜなら、その様な者がいたならば私が息を引き取る前に耳にしているはずなのだ」
ちぎれた腕から杖を拾い上げながら続けて言う。
「しかし、驚いた事もある。君たちはまだ成人を迎えてないだろう。何人もの実力者の中で君たちの様な若者が残ったのは実に好都合」
「何が、好都合だ!」
ライフル銃を構える様にマックスは長杖をダマンフレールに向ける。
彼は素早く三発の赤黒い光線を放った。
同時にシルフィードも風を起こす。
丸鋸の様に鋭く回る透明な輪が最強の魔術師に挑んだ。
ダマンフレールは焦ることも無く、杖を振るう。
鋭い風は潮にぶつかり、赤黒い光線は炎とぶつかった。
「うむ、少々大人しくしてもらおうか」
彼の一言で瞬間、周囲は凍てつく大地へと変わる。
ウィータ達の手足が地面に凍りついてしまった。
あまりの冷たさに彼らは焼ける様な叫び声をあげる。
「私は常々心配性でね。チェスですらあらゆる手を潰さなければ落ち着かないのだ」
氷漬けにした理由を話しながら彼は蘇った訳をひとりでに話し出す。
「この様に蘇ったのは我が故郷、ブリッジランドの安寧を願っての事だ」
「知るか!」
氷に手足が埋まっていたマックスは自身の魔法で打ち砕き、走り出した。
槍を振るうが如く、風を切り裂き、ダマンフレールに切り掛かる。しかし、疲弊した彼の攻撃など最強の魔術師には遠く及ばない。
代わりに割れる様な音と共にマックスは宙へ打ち上げられてしまう。
「全く、血の毛の多い者は話にすらん」
やれやれと首を降りながらダマンフレールは話を戻す。
「君たちも知っての通り、この国は最悪だ。ゴミの様な連中が我が道だと橋の麓を汚し、怠惰な連中が橋を塞いであぐらをかき、女王の御前にいる者どもはあまつさえ栄光を忘れ、強欲にも権力を求めて争い合う。聞いているだけでも耐えられぬ話しだと思わぬか?」
腐敗し切った国を嘆く。
「そんな、状態で誰が国を守る。誰が女王陛下を守る。誰もいないではないか?」
ダマンフレールはようやく、息を吐いて話を仕切り直す。
「誰も動かぬと言うならば、私が動くしかない。この最強の魔術師ハーヴィ・ウルクスプレウス・ダマンフレールがな」
彼はゆっくりと近づきながら話を続ける。
「歳というものはどう足掻いても取ってしまう。生きると言うならば尚更だ。私は死ぬのは怖くない……ただ、死んだ後のこの国が心配なのだ」
シルフィードの顔を吟味する様に黒い眼を向けながら言う。
「私は生きなければならないのだよ。この国と女王を守る為にも。そうだな……君の肉体を貰うとしよう」
ダマンフレールは生き存える為にシルフィードの体を乗っ取るつもりだった。
シルフィードは睨みを効かせて唾を吐く。
「言い訳を並べてんじゃねぇ。ただ、生き残りたいだけだろうが! あんたが死のうが生きようが関係ねぇ。とっととあの世に帰りやがれ!」
罵声を浴びせる少年にダマンフレールは聞く耳を持たなかった。
彼は自身の目的だけを見据え、行動しているに過ぎない。
「さあ、入れ替わりを行おうか」
残った腕を掲げ、歌う様に詠唱を始める。
シルフィードは風魔法を全力で放ち、抵抗した。だが、ダマンフレールは微動だにせず儀式の準備を整えていく。
「チェンジング」
腕に紫のオーラを纏い、金色の刺青が真っ直ぐと浮かび上がる。
「離せぇ!」
争おうとするシルフィードの顔へ、ダマンフレールの手が触れようとした。その時、鋭く風を切る音と共にダマンフレールの腕に風穴が開く。
「……」
人差し指ほどの小さな穴に驚く。
彼の腕に浮かび上がった黄金は消え去り、霧が晴れる様に闇も消えてしまう。
「あの、バカ……逃げればよかったろ」
奥歯を噛み締めながらシルフィードは呟く。
ダマンフレールは穴の空いた腕を軽く動かしながら、撃ってきた方を見た。
そこには黒茶色の髪に凛とした表情。
丸メガネをかけた少年が杖を構えて立っていた。
蚊帳の外に追いやられていたウィータだ。
彼は氷の枷を自らの方法で抜け出し、戻りかけた魔力で最後の魔法を友達の危機に使ってしまった。
「……」
静かに立ち尽くす魔術師にシルフィードは、彼の死角から風の斬撃を繰り出す。しかし、ガラスが割れる様に魔法は砕かれ、同じ様にシルフィードの体にもダメージが入る。
「グハッ!」
血を吹き出した彼は意識を失ってしまう。
「私とした事が……侮っていたよ」
最強の魔術師ダマンフレールは表情を一切変えずにウィータの元へ歩み寄っていく。
夜の様に大きなローブはまるで巨大な存在の様に写って見えた。
夜に紛れたフクロウは獲物を見つけたダマンフレールは静かに文字通りの魔の手をウィータに向けて迫り来る。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ダマンフレールは不死の肉体を手に入れる為に今回の魔術試験を考案しました。
そして、表向きは後継者を見つける為、裏ではウィザーロードと手を結び、一時的な復活でチャンスを作る事を計画していた。責任感の強い人だったが、それは見方を変えると傲慢と言う物に違いない。
進み続ける彼にとってそこらの子供など質のいい殻なのかもしれません。
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