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二十七話

 真っ黒なドームは流れる雲の様に渦を巻いて存在していた。

 外にいる人々は中の様子を見る事ができずに呆然と見ている。

 ただ静かに事が終わるのを待っていなければならない状況にキャシーはもどかしくなってしまう。


「うんん……(あぁ、どうなってるにゃ? ウィータは無事にゃ?)」


 突如、最強の魔術師ハーヴィ・ウルクスピレウス・ダマンフレールが蘇ったと周囲が騒ぎ出したかと思えば、その男が一瞬でオータル闘技場のスタジアムを飲み込んでしまう。


(あいつは最強の魔術師になるには自分を超えろって言っていたにゃ……)


 となると中では、ウィータ達が戦っているに違いない。


 勝ち目はあるのだろうか?


 シルフィード相手ならともかく、最も強い魔術師を相手にウィータはどこまで出来るのかキャシーには分からない。


 信じると言う次元なのだろうか?


(せめて、無事に逃げ出してくれたら、いいのに……)


 キャシーはジッと全てが終わるのを待っていた。


「エクスカ様! 大変です」


「なんだ、どうした、そんなに慌てるなんて」


 面倒くさそうに頭をかきながらエクスカは首を傾げる。

 ローブを纏い顔の見えない部下は頭を下げて、要件を話す。


「最強の魔術師様が展開した結界について調べましたが……我々では解読、破壊どちらも不可能です」


「んな、馬鹿な話あるか?」


 驚くエクスカは試しに二度、魔法を結界に打ち込む。

 大きな土煙を上げるだけでヒビも入っていなかった。


「ありゃ、本当だ」


 試した結果に納得した彼女は部下の方を見る。部下は続けて分析結果について話出す。


「この結界は古代魔法をベースに毎回異なる魔術式を組み立てながら周囲との関わりを断っています。また、先程、試して下さった様に簡単な魔法は効きません。中との連絡も取れず、ウィオレンティア様が戻って来ていません」


「何だって?」


 耳を疑う話にエクスカは驚く。


「連絡が取れないとは一体どう言う事だ?」


「はい、度重な魔術式が変化し続ける結界、嵐の様に乱れて壁の様な役割になっています。我々の魔法では通用しません。同様に中から外に出る事もできない様になっています」


「それってつまり」


 耳を傾けていたメープルは静かに呟く。


「ウィータは出て来られないって事?」


 ゾッと背筋が凍り小刻みに震え始める。

 エクスカは眉を顰めて、哀れむ様にメープルに肩を寄せた。


「あぁ、可哀想なメープル……そーなんだよ。君のナイトくんは今、窮地に立たされている。せっかく、あの面倒くさいウィオレンティアを倒したって言うのにその何倍もの実力を持つ野郎と今、戦っているなんて」


 彼女はため息をこぼして続けて言う。


「おまけに、この結界のせいで君のナイトくんは逃げたくても逃げられない。全く袋の鼠だ」


 小馬鹿にする様にエクスカはウィータの状況を語った。


(自分の仲間をそんな言い方するにゃんて、嫌な奴にゃ……)


 エクスカを横目にキャシーは巨大な黒いドームを見上げる。


(これじゃあ、最初に言ってた辞退する方法が使えにゃいにゃ)


 司会のジョビー・キャロルが試験開始前に話した案内で、白旗を上げれば逃げられると言う話があった。だが、今、ダマンフレールの結界により外と中は完全に切られてしまっている。


 このまま見守っていたとして、ウィータは無事に帰ってきてくれるのだろうか?


 キャシーの頭にはずっと鳴り響く様な警告音と得体の知れない重みがあった。


(行ったほうがいいのかにゃ? どうしたらいいの?)


 迷いで段々と視野が遠くなっていく。

 キャシーの頭に嫌な予感が浮かぶ。


 ウィータが二度と帰って来ない。

 そんな、可能性が過った。


(嫌にゃ、嫌にゃ!)


 ぐるぐると頭の中が散らかっていく。


 怖いと、嫌だと、どうして良いのか分からないが、ずーっとあった。

 心臓が激しく鳴り響く中、キャシーはシルフィードのお婆さんの言葉を思い出す。


「危険に飛び込もうとしてるのを見守るなら、助けられる様に用意はしておきなさい」


 ウィータのやりたい事を願うなら、彼の背中を支えたいのならば、側に寄り添わなければならない。

 キャシーはするりとメープルの腕から抜け出す。


「え? 待って!」


 しっかり掴んでいたはずの猫が、抜け出した事に驚く彼女を置いく。

 キャシーは一目散に黒いドームへと走り出す。


「あ?」


 ウィザーロードや観客たちはキャシーを横目に見るが気にする事はない。

 キャシーには不思議な力があった。


 この世界で生き残る為に神様がくれたもの。


 どんな障害すら潜り抜けられる力。

 絶対に通れない結界の壁をまるで霧に潜る様にするりと通り抜けてしまう。


「嘘……」


 後を追いかけていたメープルは目を丸くする。

 幼馴染の猫が突然、走り出したかと思いきや、魔法が通用しない結界を潜り抜けてしまったのだ。


「キャシー……」


 メープルは悟る。


 あの子も彼を心配しているのだと。

 彼女は真っ黒な結界の壁の前で一人、胸に手を当てて祈る事しか出来なかった。


 一人の少年と一匹の猫が無事でいてくれる事を。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

ダマンフレールの結界は強力です。しかし、キャシーのすり抜ける力の前では意味がありません。

あれは魔法ではなく祝福の力で、魔法の外の存在なんです。ここの表現は少し難しいのでいつか、ウィータに解説してもらえたらいいですね。

興味を持った方、面白いと思って頂けたらば、ぜひ、ブックマーク高評価よろしくお願いします。

他作品も書いていますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


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