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二十六話

 ステージは突如として夜に包まれた。

 先の見えない暗闇の中、空に一つ、二つ、また一つ、と小さな輝きが浮かぶ。

 空に無限に広がる輝きにウィータ達は呆然と立ち尽くしていた。


「星は初めて見るかね?」


 低い皺がれた声が耳元に響く。だが、近くはに誰もいない。

 ウィータの周りには戦っていたシルフィードやガレウス達だけだ。


「空には本来、無数の星が浮かんでいる。しかし、この国の人間は殆ど見る事も見ようとする事もしないのだ……」


 何処から聞こえて来ているか分からない声に少年たちは自然とお互いに背中を預けて周囲を警戒する。


「ここは私の心象風景を具現化した魔法結界だ。安心したまえ、呪術も毒もばら撒かん。私はただ……」


 突然、巨大な爆発音が響く。

 遠くの方で爆炎魔法が使われた様だ。

 焦げた匂いと血の香りが混ざってこちらまで漂う。


「諸君らの実力を試したいだけだ」


 最強の魔術師ダマンフレールの声はする。しかし、何処から話しているのか全く分からなかった。


「なんや、けったいな事になりおったな」


 ガレウスはペーパーナイフを振り回しながら呟く。

 彼が振った場所に薄らと蜘蛛の糸の様な細い線が貼られているのが見える。


「糸?」


「せやで、ただの水糸やない。よーく切れる糸や。安心しな、この状況で君たちの戦う余裕はないねん」


「当たり前だ! 相手が誰なのか分からねえ程、馬鹿じゃねぇよ」


 シルフィードも杖に風を溜め込み周囲を警戒した。


「馬鹿の自覚はあったのか」


 さりげなく、悪口を挟むマックスにシルフィードは呆れてしまう。


「マックス……テメェ。後で覚えてろよ」


 憎たらしいと言いたげに顔を引き攣らせて言う。

 シルフィードはウィータの方を見て、調子を尋ねて来た。


「お前の魔力、あと何回分残ってる?」


 彼の問いかけにウィータは答えに迷ってしまう。

 この状況で隠すわけに行かないが、恥ずべき事実に変わりないのだ。


「二回……今は魔力を撃つだけで二回だけしか使えない」


「二回か、思ってたよりも多くて安心したぜ」


 鼻で笑い飛ばしながらシルフィードは言う。

 彼に気を使わせてしまった事にウィータはもどかしさを感じてしまった。

 魔力が少ないハンデの中、一人で戦うなら背負う事もなかったのだ。

 今、背中合わせの彼らの中で一番の足手纏いは自分だ。


「おい」


 視界が狭まっていく中で真後ろから呼びかけられる。


「使えない奴は置いていく。ブリッジランドでは当たり前のことだ」


 冷ややかに事実を言ったマックス。

 それでもウィータの心は一瞬軽くなった。


「た、助けてくれ!」


 周囲を警戒していると岩陰から箒に跨った魔法使いが飛び出して来た。

 彼の脇には気を失った者もいる。

 生き残った者がまだいた事に安堵を覚えてしまう。しかし、三人の考えは違った。


「ウィータ伏せろ!」


 シルフィードの呼びかけに体が一瞬、強張る。

 突如、ガレウスに頭を鷲掴みにされて押し付けられた。


「ブラッドバレット ファーストスタイル(血の弾丸 壱式)」


 長杖を肩に当てて狙いを定めたマックスがウィータの背後から魔弾を撃ち出す。

 赤黒い光線は細く箒に跨った魔法使いの腕を撃ち抜いた。

 次の瞬間、手にしていた他の参加者がブクブクに膨らむ。

 泡が破裂する様に弾け、巨大な爆風を起こる。


「あの男がもってたんは死体や、魔法で爆弾に変えとったんやな。えげつねぇ、こないな状況でも他の奴らを落としておこうと思う奴はいくらでもおんねんな」


 冷や汗を拭うガレウス。

 後ろではシルフィードがマックスの胸ぐらを掴んでいた。


「マックス! 危ねえだろ。俺らに当てる気か、クソったれ!」


「ふっ、あんな見え見えの魔法、気づいていただろ? 俺が撃たなくてもお前らも何らかのアクションは起こしていたはずだ。貴重な魔力も節約できただろ?」


 鋭い視線がウィータに向けられる。


 魔術試験として、参加した彼らだが、ダマンフレールの登場により一気に状況が変化した。

 ウィータは肌身にその事を理解する。しかし、分かったとしても動けるわけではない。


 変化する状況に着いて行けてないのは自分だけだと気付かされる。しかし、嘆いておる暇など彼にはなかった。


「カリバーン」


 雨の様に降り注ぐ聖剣に、


「流れされろ。濁流の陣」


 足を掬うような激流、


「レイヴァテイン」


 一瞬で焼き尽くす様な猛火、トラウマを見せつける呪術と次々と大魔法が繰り出されていく。


「魔法の嵐かよ!」


 まさにシルフィードの言う通り魔法の嵐だ。


 数多くの魔法に振り回されていたウィータ達だが、気づいた時には周囲に物陰と言う隠れ場も、人も居なくなっていた。


「素晴らしい。私に挑んだ者達の魔法をここまで凌いで見せるとは期待以上の粒揃いだ」


 冷ややかな拍手が星空の下で響き渡る。

 夜空の様なロープに巨大な三角帽子を被った老魔術師。


 遂に最強の魔術師ダマンフレールがウィータ達の前に姿を現した。

 彼は枯れ木の様に細い指の間に同じぐらいの杖を摘んでいる。


 次々に魔法を発動させていく。


「手合わせしてやろう」


 ダマンフレールの言葉と共に飛び出したのはマックスだった。

 長杖の先端が赤黒く輝き、炎の様に揺らぐ。


 槍の様に振り回した長杖をダマンフレールに突きつけた。しかし、攻撃はジュッと焼ける様な音に変わってしまう。


「はぁ?」


 マックスが突きつけた長杖はダマンフレールの手前で止められてしまった。

 平たい円盤は水鏡となって唖然とするマックスを映し出す。


「嘘だ……こんな、こんな初歩魔法で!」


 怒りに任せて力強く振るう。しかし、ダマンフレールはそのすべての攻撃を小さな魔法で受け流していった。


「当然、お前の一族が禁忌を犯して手にした小賢しい魔法など私には通用しない」


 杖を軽くマックスへと向ける。


「あかん!」


 ガレウスがペーパーナイフを降り、水糸をマックスへと絡めとた。

 素早く大物を釣り上げる様に引っ張る。


 マックスは襟首を引っ張られ、後ろに下がった。次の瞬間、彼がいた場所は大きな音と共に経こんだ。


 当たっていたらひとたまりもない。


 避けきれた。ガレウスの心に一瞬の油断が生まれてしまう。

 突然、指先から血が溢れ出る。


「うわぁ!」


 彼は思わずペーパーナイフを手放してしまう。


「何を驚く事がある? それはお前の魔法だ。よく切れる事もよく知っているだろう。気を付けろ、下手に動けば首が飛ぶぞ」


 ダマンフレールの言葉に腕の痛みにもがいていたガレウスはピタリと動きを止める。

 寸前の所で彼の喉元は水糸に触れようとしていた。もし、のたうち回っていたら首が飛んでいたかもしれない。


「ウィータ! こいつはヤベェ」


 二人が一気にやられた事にシルフィードは焦りを見せる。

 彼は自分よりもウィータを気にかけてしまった。


「今からでも遅くはない。白旗を上げろ! ここで死んでも一文の特にも何ねぇよ!」


「ならば、お前が先に上げれば良かろう」


 いつの間にかダマンフレールはシルフィードの背後に立つ。

 影を踏まれたシルフィードはピクリとも指一つ動けずにいた。


「お前は……ふむ、運命の三姉妹の子孫か?」


「ババアは関係ねぇ……俺は」


 口を動かすにも思い通りに行かずシルフィードは怒りを滲ませた。


 最強の魔術師を睨みつける。


「そうだな。関係ない、先代がどれだけ優秀だろうと、愚かであろうと、後代には何の意味もない肩書きに過ぎないさらばだ、我が宿敵の孫よ」


 シルフィードの首がひび割れ、ガラスの様に砕かれようとした。その時、一発の魔法が彼らの足元に飛んでくる。


「?」


 ダマンフレールは静かに撃ってきた相手の方見る。


「ほぉ、これはすまない。あまりにも微弱な魔力。私とした事が見過ごしていた」


 ダマンフレールに目も向けてもらえぬほど、微弱な魔力を持つウィータが、離れた場所で杖を構えていた。


 ダマンフレールは不思議そうに問いただす。


「なぜ、私を狙わない」


「あなたを撃った所で小石ほどの痛みも与えられないでしょう?」


「やる前から決めつける物でもない」


「やったとして、あなたを倒せていましたか?」


「いいや」


 髭に覆われた口元が微かに微笑む。


 負ける気などさらさら無いのだ。


 ウィータも分かっていた。もし、致命傷の一撃を与えられるとしたら、ダマンフレールは気づいていたに違いない。


「だから、代わりに気を散らすことに徹しました」


 ウィータの言葉と同時にシルフィードの死角から赤黒い光線がダマンフレールに直撃する。

 致命傷に届かなかったが、それでもよろめくまでいった。


 体を動かせる様になったシルフィードは、突風を起こしまとわり付く相手を吹き飛ばす。

 予期せぬ一撃に驚くダマンフレールは撃ってきた相手を探した。


 遠くの方で地面に倒れ込む少年が鋭い眼光と共に長杖をこちらに向けている。


「レッドバレット フォーススタイル(血の弾丸 壱式)」


 倒れていたマックスが狙いを定めて魔弾を撃ち出したのだ。


「ほぉ、面白い」


 ツバの広い三角帽子を持ち上げて、ダマンフレールはクスリと笑う。

 彼の瞳は深淵の様に黒く僅かに輝く眼光は悍ましさが滲み出る。


「だが…………」


 最強の魔術師ダマンフレールはゆっくりと杖を持つ腕を持ち上げまで言う。


「私には程遠い」


「それはどうかな!」


 ガレウスが腕を引き寄せながら叫ぶ。

 僅かな間に蜘蛛の巣の様に張り巡らされた鋭い水糸を抜け出してきた彼は普段の穏やかな態度とは違い青筋を立てていた。


「ほんまに腹立つわ。自分の特技、見せつけられた時とか特に、大物の逃した時よりもショートケーキのイチゴ取っといたのに妹がわざと喰いよった時よりも何倍もなぁ!」


 ピンとはった水糸は真っ直ぐとダマンフレールの前を伸びていく。

 同時に杖を握っていた彼の腕が宙を待っていた。


「脆いんちゃう? 長年、使っていた腕やろ。屍のあんさんにはもういらんもんや」


 ダマンフレールは残った腕を伸ばし、杖を取り戻そうとする。しかし、赤黒い光線がそれを邪魔した。


「ウィンウィン、ルラーラ」


 僅かに離れた場所からシルフィードが詠唱を唱えている。

 彼の背後には丸メガネをかけた少年が立っていた。


 彼らは同時に魔法を発動した。


 竜巻がダマンフレールを飲み込み、細長く研ぎ澄まされた魔力が竜巻に乗って彼の心臓を撃ち抜いたのだ。


「ザ・サイクロン!」


 四人の少年にとってこれでもかと絞り出した全力。

 最強の魔術師の心臓にたどり着く……はずだった。


 時間は砕かれ、時空は歪む。


 ゆっくりと回っていた星々はねじれて行く。


「我……」


 彼らは巨大な歯車の上に立っていた。

 身動きは取れず、冷や汗すらかけずにいる。


 秒針の針はダマンフレールの手にあった。


「時の賢者なり!」


 叩き割る様に振るわれた秒針の剣は、一瞬で四人の小さな足掻きを粉々に打ち砕いてしまうのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

彼が最後に使った魔術は”赤の杖”と言う魔女が得意とする時間系の魔術です。

空間を砕き、存在した時間を無くす、魔法界で最も強力な魔術の一つかもしれません。

ダマンフレール、それの模倣でウィータたちを撃ち倒しました。

模倣で無法をしでかすやばい事をしています。

興味を持った方、面白いと思って頂けたらば、ぜひ、ブックマーク高評価よろしくお願いします。

他作品も書いていますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。

https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ

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