二十四話
真っ白な光に包まれた空間を潜り続けたウィータは、霧から抜け出た様に灰色の世界へ戻ってくる。
辿り着いた先には、オータル闘技場のスタジアムの真ん中だった。
遠くに円形の壁の一部が見える。
「はぁ、はぁ……」
ウィオレとの戦いによりウィータは疲弊してしまっていた。
(あと四発……やっぱり、こうなったか)
ウィータは残り使える魔法の回数を思い浮かべて、惜しんでしまう。
出来る事ならここまで一回も使わずに来たかった。しかし、あまりにも無視のいい話である。
ウィータ自身も自覚しており、残念に思うが仕方ない事だと受け止めていた。
彼は闘技場全体を見渡す。
一番端までかなりの距離があった。
(思っていたよりも広いな……!)
彼はすぐに近くの岩陰へと隠れる。
すぐ後に大きな爆発音が響く。
自分よりも先に誰かがたどり着いていた。
今、ウィータが隠れた岩すら元々あった訳ではない。
薄い黄色っぽい岩だ。
(魔法で出したぽい。これはおそらく、神の国西部の荒野がイメージされているな)
土の種類など然程重要ではない。
ウィータは自分に呆れつつも、感心してしまった。
(色んなところから来ているみたいだ……)
すごい場所に足を踏み入れている事に彼は思わず、ニヤケてしまう。
(楽しい……)
心の底から思いながら彼は杖を握りしめていた。
「おい、まさか、もうへばってんじゃねぇよな!」
岩陰に隠れていたウィータは顔を上げる。
彼の目の前には黒緑のベストに薄い金髪の少年が土煙の中、こちらを睨んでいた。
ウィータは思わず立ち上がってしまう。
彼はニヤリと笑みを浮かべて、答えた。
「そんな訳ないだろ! シルフィード」
「どうかな? ボロボロ過ぎて今にもぶっ倒れそうじゃねぇか」
軽口を言いながらシルフィードは肩をすくめる。
「今度こそ、テメェを叩き潰すからな!」
彼は杖を構えながら叫ぶ。
ウィータも受けて立つ用意をした。
「シルフィード、ないだろうが舐めて掛かるなよ。俺以外の奴に二度も負けるのは許さん」
土煙が晴れて、隠れていたもう一人も姿を現す。
長い黒髪に冷めた瞳の少年がシルフィードの横に立つ。
長杖を肩にかけて、両手でしっかりと握っている。
「チッ……マックス、いちいち、余計な事言うな。んな事分かってんよ!」
釘を刺されたシルフィードは苦い顔を浮かべる。
同時に来られたら面倒だ。
ウィータがうっすら思ていた。その時、お互いのちょうど真ん中ら辺から訛りのある喋り方で愉快に話すのが聞こえる。
「なんや、もうおっ始めようとしてんのか。偉らくやる気あって羨ましいわ」
癖毛に濃い肌色の少年ガレウスが、一才の敵意も感じられない様な穏やかな表情でやって来た。
彼の手にはペーパーナイフが握られており、ゆらゆらと動かして遊んでいる。
「誰だ?」
眉間の皺を寄せてマックスが呟く。
ガレウスは悲しげな表情を浮かべて言った。
「酷いな〜試験開始前に話してたやろ。ガレウスや、休日の魔法使いガレウスやって、同年代の参加者同士、仲良くしようって言ってたやろ」
「そうだっけ?」
言っていた張本人であるシルフィードが首を傾げてしまう。
ガレウスは思わず、天を仰いでしまった。
「嘘やろ……そんな、シルフィード君とは仲良く出来そうやったのに」
残念がる彼は一部の期待を込めて、チラリとウィータに視線を向ける。
ウィータは思わず、こくりと頷いてしまう。
次の瞬間、ガレウスはパッと花咲く様に笑顔を見せた。
「ウィータ君! 君って奴は覚えとってくれて嬉しいわ。ありがとう」
両手を広げて、ウィータに近づく。
嬉しそうにするガレウスを見て、ウィータは目を背けてしまう。
視線を避けたことにガレウスも気づいた。
「え……もしかして、お、覚えとらん?」
恐る恐る尋ねる彼にウィータは黙り込んでしまう。
正直に答えれば、敵対して苦しい事になる。だが、嘘をつくのも申し訳ない。
それでもここは覚えていると言うのが彼の為になる気がした。
ウィータが口を開こうとした。その時、ガレウスが項垂れて言う。
「ウィータ君、無理せんといてええよ……嘘つかれると逆に悲しいわ」
落ち込む彼を見て、ウィータは思わず頷いてしまった。
ガレウスが一層落ち込むのが嫌でも分かってしまう。
「ごめん」
「ええよ」
気不味い空気が流れ始めたのを壊したのは、一番初めに作り出した元凶だった。
「ブラッド・バレット ファーストスタイル(血の弾丸 壱式)」
赤黒い魔力にウィータとガレウスは嫌な気配を感じとる。
二人は大きく交わした。
「なんやねん。あの魔法、めちゃくちゃやろ。当たったら死ぬで済むんか?」
冷や汗を拭いながらガレウスは叫ぶ。
「さぁ、どの道食らったらお終いだ」
ウィータはそう言い残すと素早く、物陰に隠れてしまった。
「おい、マックス。あいつは俺の獲物だ!」
隣で魔法を撃たれたシルフィードはマックスの前に立って叫ぶ。
狙った獲物を横取りされるのが気に入らなかった。
マックスも負けじと睨み返して話す。
「知るか、お前の指図など受けない」
「負け犬は親分の言うことを聞けよ」
「なら、先生の言う事を聞くとしよう。お前は先生の子分だろ? なら、従う必要はない」
「かーこれだから、そんなんだから負けたんだよ。テメェはよ」
負けたとシルフィードが口にした瞬間、マックスの目がギロリと光る。
赤黒い残穢がシルフィードの顔の前を掠めた。
「負け負け、お前は二度の勝利がないから、一度の勝利がそんなに嬉しい様だな」
「はぁ、お前なんか何度でも倒してやるよ」
「フッ、ならば予定変更だ。お前もまとめてここでぶっ倒す!」
仲間割れを始めた二人は距離を取り、お互いの取っておきを使う。
「ブラッドバレッド、セカンドスタイル(血の弾丸 弐式)」
「ウィンウィン、ループ・ザ・サイクロン」
突風と共に激しい爆発が起きる。
「なんて力や、あれが二人の実力……」
圧倒的、実力に驚くガレウス。
彼らがこのまま暴れたら、誰も立っていられないと冷や汗をかく。その時、矢の様に鋭い一撃が二度飛ぶ。
シルフィードとマックスの杖を弾き飛ばした。
突然の事に驚く二人。彼らは急いで撃ってきた相手を探す。
シルフィードの背後、離れた場所に一人の少年が立っていた。
黒茶色の髪に丸いメガネの奥からキリッとした鋭い眼差しが二人を捉える。
またしてもやられた事に悔しさを滲ませながらシルフィードは笑みを浮かべてしまう。
「ウィータ……」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ガレウス君、ネタに振った名前でも忘れられてしまう。
彼の様に自称する魔法使いは珍しくありません。寧ろ、自称じゃない方が珍しいです。
勝手につくなんて相当な権力者か実力者です。
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