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二十二話

 持ち込んだ魔道具がなくなってしまい、拾い直す事も出来ない。

ウィータは文字通り魔の手から逃げ続けた。


 猛獣の様に素早く動くウィオレは、紫色の雷を纏い縦横無尽に襲い掛かる。

 大きく広がる紫の雷はウィータを包み込もうとした。


 彼は杖を構えて一瞬の光を放つ。


「!」


 花火が上がり、ウィオレの右腕を弾き飛ばす。

 それだけでは彼女を倒す事はできない。


(今の僕にウィオレを倒す手段はない!)


 研鑽を積み続けたウィータにとって己自身を知らない訳がない。

 諦めなければ、やればできる、と考えた所で今の彼に恐ろしい魔女を倒す事はできなかった。



 

 ウィザーロードの登場にスクリーンを見ていた誰もが口を大きく空けて呆然とする。

 司会のジョビー・キャロルですら、解説を放棄する程だった。


「おいおい、こりゃ一体どう言う事だ! ロードが参加するなんて聞いてませんよ。彼女ははん……」


 召使に訳を尋ねようとした彼は慌てて言葉を止める。

 視線の先には飛び散った血と死体の山に跨る魔女が見えた。


 胸元にはネズミのボタンがあしらわれている。


 ほのかに濃い肌にニンマリと微笑む緋色の眼差しが、ジョビー・キャロルの背筋を凍らせた。


「キャロル男爵、それ以上口を滑らせるとあなたの頭が飛ぶわよ~」


 二本の杖を握りながら彼女はクルクルと回して見せる。


「何もロードが出てはいけない、なんてルールはないでしょ〜」


 魔女は立ち上がりゆっくりと近づきながら話す。


「そ、れ、に〜魔法使いも魔術師も、ここに居るほぼ全員がやましい何かを抱えてるじゃない。ね?」


 魔女は見上げる様に姿勢を低くして、ジョビー・キャロルを覗き込む。

 彼は思わず視線を外し、黙り込んでしまった。


「……」


 黙られた事に魔女は僅かに苛立つ。しかし、気に止めず、彼の手に握られていた杖に声を当てる。


「お集まりの紳士、淑女の皆様! 腰抜けた司会に変わりましてここからはわたくし、エクスカ・ラマーティオーがしばらく、実況させていただきま~す!」


 不敵な笑みを浮かべながら彼女は二本ある杖のうち、一本を喉元に当てて声を大きくして話す。


「さぁ、ただいま、暗闇の図書館では我らウィザーロード代表ウィオレンティアが名前も知らないあーわーれなガキに襲いかかっております。ガキが器用によけ……」


「調子乗ってんじゃねぇ!」


 軽快に実況をしていたエクスカの前をグラスが飛び抜ける。

 彼女はギロリと投げてきた者の方を睨んだ。

 顔を真っ赤にした小太りの男がワインボトルを手に睨みを聞かせている。


「はぁ、何? 邪魔しないでくれる?」


 冷め切った言葉に小太りの男は怒鳴り出す。


「邪魔をしているのは君ではないか! 大体、君らの様な荒くね物が神聖なこの場所に来て良いわけがないだろ。出ていけ!」


 エクスカは彼の言葉に俯く。しかし、すぐに顔を上げて冷たく告げる。


「あっそ、なら、奥さんほっといて、安いメイドぶら下げて、こ~んな場所に来るベロンベロンのテメェは、もっと相応しくねぇな」


「なんだと!」


「うるさい、今いい所だから死ね」


 エクスカは小太り男を一瞥もせず、炎を吹きかける。隣にいたメイドもろとも燃やし尽くしてしまった。


 忽ち悲鳴が上がる。


 多くの者が席を立ち、テロリストから逃げ出そうとした。


「あーあーもっと穏便に済ますつもりだったんだけどな〜仕方ない。下っ端ちゃんたち」


 エクスカはパチンと指を鳴らす。すると、影から現れた様に黒いマントを羽織った魔女が何人も行く手を挟む。


「え〜長い試験にそろそろ、お花積みに行きたい気持ちもあるでしょうが……漏らしてください。そしたら、殺すんで、あははは」


 抜け出そうとした者たちから悲鳴が上がってしまう。


「何故だ?」


 エクスカの横にいたジョビー・キャロルは尋ねる。


「あなた方ウィザーロードは契約に順次て、動く者だと聞いています。しかし、これはただの暴君ではないのですか?」


 彼の言葉に見るからにエクスカは嫌な顔を浮かべた。だが、怒る事はせず笑みを浮かべて話す。


「それはですね。キャロル男爵、お前らがすでにわたくしらの契約を行ったからです」


「なんだって!」


 エクスカは胸元のバッチから抜き出す様に契約書を取り出す。そこには確かにジョビー・キャロルの筆跡があった。


「そ、それは!」


 この仕事を受けるに当たって契約した物だ。


「他の奴らも聞け、入場の時にサインしたろ? 試験中は何があろうとウィザーロードの案内に従わなくてはならない。さもなければ、命はないと」


 エクスカの言葉に怯えていた誰もが従わなければならない。


 さもなければ、命がないのだ。

 彼らは渋々、席に戻り始める。


 その時、エクスカに向けて一人の少女が文句を叫ぶ。


「こんなの横暴よ!」


 赤髪の少女は猫を抱えていた。

 彼女の腕に抱かれたキャシーも同感である。

 アケルおじさんがメープルの事をしっかり抱き寄せて災いを避けようとしていた。


「一体いつ、私たちがそんな約束を結んだの? 何かの間違ちがえよ!」


「黙ってなさい」


 不満を漏らすメープルに、いつもは優しいアケルおじさんが慌てて彼女を叱る。

 彼の顔は青白く薄くなり、今にも倒れそうだ。


「パパ、顔色が悪いよ?」


「すまない、パパが迂闊だった……契約書を規定事項だと思って読み飛ばしていたんだ。おそらく、書類の隅かどこかにウィザーロードとの契約を結ぶ事を書かれていたに違いない」


「詐欺じゃない!」


「にゃ!(そうにゃそうにゃ)」


 メープルの腕に抱かれていたキャシーも揃って叫ぶ。

 気づかない様にして、後からこうだったなど、初歩的な詐欺だ。

 そんな事は認められる訳がない。しかし、会場の誰もが認めるしかなかった。


「騙す方も悪いのは分かるけど、わたくし、思うんだよね。結局、騙されるのが悪いって」


 ぬるりと耳元から声がする。

 セイロン親子はゾッとして振り返った。

 エクスカがニンマリとおもちゃを見つけた時の様に悪戯な笑みを浮かべる。


「わたくしたちは何も後付けしていた訳じゃないんだぜ。最初から書いてあったんだよ。ほら、ここに」


 彼女はそう呟きながらアケル・セイロンの書類を娘に見せた。

 エクスカは見やすい様に重要な所を蛍光色で光らせる。


 文字と文字の隙間、それも単語数が多く詰められた間に小さく、この契約書にサインした者は魔術試験の間、ウィザーロードに一時的権利を譲る、と書かれていた。


「こんな出鱈目……!」


 怒鳴ろうとした。その時、アケルおじさんが彼女の口を塞ぐ。


「口の軽い子供は見ていて危なっかしいね。その点、聡明な父親がいてくれて助かるよ。同じ文句は何度も受け付けたくはないからね」


 エクスカはセーロンを見下ろしながら言う。

 何もできない相手を馬鹿にしていた。


「?」


 ふと、エクスカはセーロンの腕に抱かれた猫に気づく。

 猫はエクスカとは目を合わせず、飼い主が大変な時にも関わらず、呑気にスクリーンを見ていたのだ。

 スクリーンではウィオレンティアが未だに見るからに半人前の子供を追っかけ回している。


「あーあー完全に遊ばれていんじゃないの」


 ウィザーロードの代表として彼女を選抜したのは間違えだったのではと今にして思う。しかし、これはボスの意向の為、覆す事はできない。

 そんな事を思っていると父親の手から抜け出した少女が言う。


「あんたの仲間なんて、ウィータが倒すに決まってる!」


「ウィータ? あぁ、あのガキの事か」


 エクスカは興味津々にスクリーンの少年とセーロンを見比べる。


「あいつとはどう言う関係なんだ?」


 彼女の問いかけにメープルは慎重に答えた。


「ただの幼馴染よ……?」


 メープルの返事にエクスカは目を輝かせる。

 身を乗り出して緋色の瞳を近づけてきた。


「幼馴染か! はっは〜ん、なるほどね。つまり、これって事ね」


 小指を立てて見せる。

 メープルは一瞬、火がついた様に赤くなり首を振った。


「ち、違う!」


「いーってそう言うのは、わたくしは乙女心が分かるエキスパートがからね。まーまずはあの乱暴ドールを君のナイトが倒すのを一緒に見ようじゃ~ないか」


 エクスカは突然、態度を変えて、アケルおじさんとメープルの間をさく。

 他人の色恋ほどヤジを飛ばしたくなる物だ。

 エクスカは制圧そっちのけでスクリーンを指差す。


「今戦ってるうちのメンバーは死ぬほど頑固でさ〜いっつもピリピリしてるんだよね。君のナイトが倒してくれればわたくしだってハッピーな訳。てな訳で一緒に応援しようね。あっ、ポップコーン持ってきて、キャラメルで」


 そばにいた黒いマントの部下に呼びかける。

 流石にエクスカの行動に部下も困惑を隠しきれなかった。


「エクスカ様、契約の方は……?」


 恐る恐る尋ねる部下にエクスカは睨みを気かす。


「あ? そのまま続けるに決まってんだろ? さっさと動け、脳なし。早くしないと契約違反で魔法薬の鍋にぶち込むぞ?」


 彼女の言葉に部下は怯え、慌ててポップコーンを取りに行った。

 その間もウィザーロードは会場を支配して行き、逃げられない様になっていく。


 外から邪魔をされない様に結界も張られていった。

 壁など簡単に抜けられるキャシーにとって気にすることではない。


(うるさいのが増えたにゃ……)


 鬱陶しいのが一人増える。


 その程度しか気にしていない。

 キャシーにとって重要なのは目の前の試合で戦うウィータとウィオレの結末だけだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

ウィザー・ロードは魔女など中心にした組織で、契約を重視しますがそれ以外はまったく気にしません。

嘘はつきませんが騙しはするし乱暴です。何かと関りを避けるべき組織です。

興味を持った方、面白いと思って頂けたらば、ぜひ、ブックマーク高評価よろしくお願いします。

他作品も書いていますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


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