十九話
巨大な扉を前に数多くの魔術師や魔法使いが試験開始の合図を待ち侘びている。
周囲を見渡せば、新聞で名を連ねた人もいた。
彼らに比べれば、自分など無名の胎児の様にちっぽけな存在だとウィータはいやでも感じまでしまう。
「さぁ、いよいよ試験開始時刻になりました。参加者の皆様、位置についてください!」
司会のジョビー・キャロルが反響魔法で声を大きく鳴り響かせて案内を飛ばす。
ここにいる多くは自分よりも実力は上だ。だが、その殆どが無名である。
彼らは自らの昇進や栄光の為にこの魔術試験に訪れたのだ。
身の丈に合っていないと自覚しながらも一部の望みを掛けてきた者もいる。
「まぁ、僕もその一人か……」
皮肉混じりに独り言を呟く。
カウントダウンが始まる。
「スリー」
ウィータは鞄から杖を取り出して用意をした。
空間に隠す事も出来たが、少しでも消耗を減らしたかったのだ。
「ツー」
息を整え、前を見据える。
「ワン」
巨大な扉が空気を動かし、開かれていく。
引き寄せられる様に風が抜けていった。
「スタート!」
幻奏の魔術師ジョビー・キャロルが開始の合図を叫ぶ。同時に我先にと一斉に参加者たちは白い霧に包まれた扉の中へ飛び込んで行く。
ウィータも流れに身を委ねて巨大な扉を潜る。
眩い光に包まれて目が眩む。
ガヤガヤと騒がしかった周囲は途端に静まり返った。
少しずつ光が和らいで行く。
ウィータはゆっくり目を見開いた。
真っ暗な暗闇に怪しく揺れる青い炎の蝋燭。
広々とした空間は何処までも続く様で、両脇に収められた本は途切れる事を知らない。
ウィータは司会のジョビー・キャロルが言っていたステージの一つ、暗闇の図書館に辿り着く。
クイッとメガネを押し上げる。
「まずは、一安心だね」
と言うのも、あべこべの廃墟は一つ間違えれば二度と戻れないかもしれない。
森や船上に出たとしたら耐えられなかったかもしれないのだ。
そうなれば、図書館か湖の二択だった。
理想的なスタートを切れて安心してしまう。だが、悠長にはしていられないと次の行動に通した。
ウィータは辺りを見渡す。
周囲には誰もいない。
巨大な扉を潜った者は皆が皆、同じ場所に行く訳ではない様だ。
広がる静寂が不安を仰ぎ、冷たい風を招く。
鞄の中から小瓶を取り出す。
ウィータはすぐ側の机に砂を撒く。すると、不思議な事に砂は意識を持ったかの様に規則的に並んで、模様を作り出す。
あっという間に撒かれた砂は図書館の地図を写し出した。
この砂はウィータが事前に用意した魔道具の一つである。
撒いた周辺を地図にしてくれる物だ。
現在の位置から中心に作られる為、大まかな位置は分かる。
砂が足りず地図は未完成だが、真っ直ぐ続く道の脇に何本も隣に移る通路があった。そして、通路は僅かに斜めっている。
この斜めの通路が円形に出来ているとすれば、中央が存在すると言う事だ。
中心に向かって行けば、何かあると踏んだウィータは顔を上げる。
「向こうの方か……」
彼は素早く走り出した。
司会のジョビー・キャロルは会場で砂時計が落ちるまでに、最深部へ行かないといけないと話していたが、ウィータは時間を知る術を持っていない。
時計はあったとしても、あの砂時計がどのくらいの時間か司会は話さなかった。
いつになるのか想像がつかない。
ウィータはシルフィードとの再戦の為にも今、誰かと接敵するのは非常にまずかった。
彼には魔力と言う魔法使いにとって切っても切り離せない力が殆どない。
(あいつと同じ扉を潜っていれば、こうも急ぐ必要はなかったかもしれない。僕が一日に撃ち出せる魔法は最大六発。それを越えれば動けなくなる。それに……)
魔法が使えなくなれば、この空間からの脱出も不可能になる。
命の危険はできる限り無くさなければならない。
両親や幼馴染との約束だ。
あれこれ考えていると不意に不吉な予感が過る。
ウィータは足を止めて辺りを見渡した。
静寂の中、微かに響く悲鳴。
隣の通路からだ。
向こうの方で誰かが戦っている。
ウィータは鞄から小袋を取りだし、中身をばら撒いた。
カラカラと可愛い音と共にビー玉が床に転がる。
中には魔法陣が描かれていた。
これは事前に用意した道具の一つでビー玉の中に複数の魔術を組み込んでいる。
平坦な床に転がったビー玉。特にウィータの背後に行ってしまったビー玉はぴたりと止まり、意思を持ったかの様に、一つの場所に転がり始めていく。
ビー玉は通路の奥に行くことはなかった。
代わりに目の前の本棚に集まる。
ここでようやく、不吉な予感がハッキリと確信に変わった。
目の前の本棚からとてつもなく悍ましい気配が悪臭の様に漏れ出す。
ウィータは鞄に腕を突っ込む。
(来るなら来い! この日の為に事前に用意した物はある……)
周囲の蝋燭が一瞬揺らぐ。次の瞬間、人の様な怪物が忽然と生え出ていた。
「!」
痩せ細って、骨が剥き出しの肉体に黄緑色の肌の男。うめく様な笑い声を不気味に響かせる。
本の隙間から姿を見せたのは、見た事もない怪物だった。
怪物は体をくねらせて這い出ようとする。その時、真っ赤な瞳に目が合ってしまう。
ウィータは心臓が掴まれる様な恐怖を覚える。
這い出てしまった怪物が駆け出してきた。
向きを変えて、反対側の本棚へと走り出した。
一生懸命に棚を上り、逃げていく。黄緑色の怪物はその後を何処までも追いかけていった。
今すぐにでも、肉を喰らいつく勢いだ。
ある程度登り終えたウィータは食われてしまう事を覚悟する。なぜなら、戦うと決めていたのだから。
彼は何の躊躇もなく本棚にしがみつくのを辞めて、飛び降りた。同時に散らばったビー玉がウィータの足元へと素早く転がる。
彼は鞄から銀色に輝くナイフを抜き出すと黄緑の怪物の喉を目掛けて突き立てた。
見事に奴の喉を刺す。
怪物と共に落ちていく。だが、黄緑色の怪物はまだ生きていた。
しがみ付き、噛みつこうとする。
貧弱な自分では殺し切れない。
そう踏んでいた彼は次の手を打っていた。
真下まで転がってきたビー玉は怪物によって潰される。次の瞬間、眩い光を放っていった。
バンバンバン!
無数の爆発と共に図書館は明かりに包まれる。
彼が作ったビー玉には魔力探知の他に爆発魔法も備わっていたのだ。
(最も……狙って作った訳じゃないけどね)
爆煙から抜け出てきたウィータは頬を拭った。
試作品でも使える物は使わなくては、塵になっていく怪物を見ながらウィータは思う。
「時間がない」
手早く怪物を倒したウィータは先を急いだ。
奥へ奥へと駆けていく中で、黄緑色の怪物は一匹、二匹……六匹と次々に這い出て来る。
全てに対応している暇がないウィータは机などを障害物に奴らから逃げていく。
気づいた時には怪物たちは、後をついて来なくなっていた。
「はぁ、はぁ……はぁ、何とか撒くことができたのか?」
黄緑色の怪物は何処までも追いかける勢いだったのに、ついて来ていない。
(もしかすると……)
ウィータは知らぬうちに誰かになすりつけてしまったのではと疑念を抱く。だが、そんな罪悪感もすぐに消されてしまった。
息が詰まる様な暗闇の中、重々しく存在感を放つ巨大な扉。
彼は最深部へ通じる扉の前までたどり着いたのだ。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
魔力の少ないウィータは事前にいくつもの魔道具を作ってきました。
その中で周囲の地形を把握する砂や魔力に吸い寄せられるビー玉(失敗作)など色々な物を持ってきています。はたから見ると子供のおもちゃですけど、しっかり使えますからね。
ちなみにシルフィードは迷宮に飛ばされて出口を探して上に落ちたり、下に昇ったりしています。
興味を持った方、面白いと思って頂けたらば、ぜひ、ブックマーク高評価よろしくお願いします。
他作品も書いていますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。
https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ




