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十五話

 真っ白な霧に覆われた街の中を一台の四輪馬車が走り抜けていく。

 霧の国ブリッジランド王国では長い直線が続く為、遠出の際は馬車が不可欠だ。


 ゴトゴトと揺れる馬車の中でキャシーは誰よりもリラックスしていた。

 なぜなら、は大好きなウィータの膝の上にいられるのだからだ。


 普段は魔法の研鑽や勉強でなかなか、構ってもらえない。その為、こう言った時には遠慮なく甘えてしまう。


 キャシーの思いを汲み取ってか、彼は優しく彼女の頭から背中までをゆっくりと撫でてくれる。


(違うにゃ……)


 キャシーは自分の気持ちを否定して片目をそっと開いた。

 目の前には斜めがけの鞄が置かれているのが見える。


 キャシーはくるっと向きを変えた。


 黒茶色の髪をした少年は窓辺に肘を置いて、真っ白な外の景色を見つめている。

 丸いメガネの奥には黒い瞳が揺らいでいた。


 落ち着かない彼は手元が寂しくて、撫でているにすぎない。


「ウィータ」


 ふと、名前を呼ばれたウィータはゆっくりと視線を窓から外す。

 キャシーも彼に続いて声のした方を見た。

 秋の紅葉した木を思わせる赤髪に優しそうな垂れ目をした男が心配そうに彼を見つめる。


「大丈夫かい?」


 男の問いかけにウィータはメガネを整えて答える。


「アケルおじさん、僕は大丈夫ですよ」


 ケロッと彼は言いながら、隣に座る少女の方に視線を向けた。

 アケルおじさんと同じ色の髪を結び、ドレスを着た幼馴染メープルが口を大きく開けて眠っている。


「無理言ってすみません。僕の為なんかに朝早くから馬車を用意してくれて」


 謝る彼にアケルおじさんは手を横に振った。


「いいんだよ。他ならぬ君の頼みなんだから。それにご両親も賛成している。断る理由はないよ」


 優しく語りかけるアケルおじさんだったが、スッと真剣な趣で語る。


「でも、魔術試験は本当に危険なんだ。そこらの試験だって命懸けなのに、今回は最も崇高な二つななんだ。無茶だと思ったらすぐに辞退するんだよ」


 彼が念を押すのも無理はない。


 魔術試験は試験を突破した者に二つ名を授ける。


 魔法使いにとって二つ名とは名誉であり、資格でもあるのだ。そして、今回の試験では『最強』と言う最も単純にして、最も偉大な名を与えられる。


(武士やスポーツ選手みたいにゃ、道理を弁える連中と違って魔術師や魔法使いは手段を選ばにゃい)


 危険性が増す理由も自ずと分かっていく。

 ウィータの膝の上で丸くなるキャシーですら、体に力が入りそうだ。

 アケルおじさんは胸を押さえながら話す。


「ウィータ、君はまだ子供だ。何かに飛び込みたい。大きく見せたいのは分かる。悪いことでもない。でも、これから先、君が行くのは地獄の様な場所だ。それでも行くのかい?」


 最後の警告とも取れるアケルおじさんの言葉にウィータは静かに頷く。


 父と母にはすでに話した事だ。


 今更、変えるつもりはない。


 キャシーも両目を開けて彼の覚悟に耳を傾けた。


「はい、僕はやめません。全力で戦います」


 黒い瞳は真っ直ぐとアケルおじさんの方を見つめる。

 真剣な表情を浮かべる彼だったが、すぐにケロッと微笑む。


「それでも本当に危険な時には辞退する事を誓います」


 彼の言葉に未だ、納得に苦しむアケルおじさんだったが、ウィータの思いには感服した様だ。

 彼は両目を閉じて、ため息をする。


「やれやれ、やると言ったら筋金入りなのは父親譲りだね」


「すみません」


 父親に似ていると言われたウィータは少しだけハニカム。

 アケルおじさんは胸ポケットから懐中時計を取り出して言った。


「もうすぐ着く頃合いだろう。ほら、うっすらとだが見えてきた」


 ウィータの背後を覗き込む様に彼は指差す。

 キャシーもウィータも釣られて振り返り、窓の外を覗き込んだ。


 深い霧の奥からうっすらと浮かび上がる黒い城壁。

 アーチ状がいくつも並び、積み重なった建物は霧の向こう側まで続いている。


「ここが、魔術試験が行われるオータル闘技場だ」


 馬車はぐるりと外周を進み、一つの門へと訪れたどり着く。

 すでに数多くの馬車や人々が訪れており、キャシーたちが乗る馬車よりも何十倍も豪華な乗り物もあった。


「メープル、着いたぞ」


 オータル闘技場とここに訪れる人の多さに圧巻するキャシーとウィータの後ろでアケルおじさんはメープルを起こす。


「え〜もう、着いたの?」


 怪訝な表情を浮かべながら目を擦るメープルはようやく、目を覚ました。


「にゃー(この女、ずっと寝ていたにゃ)」


 やれやれと呆れるキャシー。しかし、彼女もまた、馬車でのほとんどの時間をウィータの膝の上で過ごしていた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

アケル・セイロン メープルの父親で穏やかで優しいパパ。

友人とその息子の無茶な頼みも聞いてくれるいい人だけど、怒らせるとねちっこい。

大会前って落ち着いている人もいればドキドキする人もいますよね。

ウィータは滅茶苦茶落ち着いているタイプです。

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