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39話

第39話 外棟の反証


最終日が来た。

星位ランキング戦。学院が年に一度、生徒の序列を測るために開く、大きな評定だ。柱や岩塊を配した広い闘技場で、班と班が武器とスキルをぶつけ合う、団体戦。この一年の締めくくりであり、そこでの成績が、次の一年の扱いを決める。

その最終日、外棟班にとっての、最後の試合。相手は格上だった。四つ星をそろえた、正真正銘の強豪班。武器の腕も、スキルの出力も、六人全員が俺たちより上だ。正面からぶつかれば、勝ち目はない。それは、試合前から分かりきっていた。

大会が始まる前、ハーグは俺たちを「形式参加」と決めた。勝っても星位は動かない番外。番外の落ちこぼれが格上に潰されて終わる。それが、大方の予想だったろう。

客席は、これまででいちばん埋まっていた。その中に、見知った顔がいくつかある。三連戦のあいだ苛立ちを隠さなかったダリオ。リシアを「邪道」と切り捨てた従兄のエリオ。そして少し離れて、帳面を広げたミレーユ。

勝てるとは思っていない。だが——ここまで負けながら積み上げてきたものを、全部この舞台で出す。それだけだった。


合図とともに、始まった。

広い闘技場に、石の柱や岩塊が、いくつも立っている。だから、まっすぐの殴り合いにはならない。柱の陰に隠れ、角度を取り、相手を挟む。位置取りが勝敗を分ける戦いだ。出力で劣る俺たちにとって、その遮蔽だけが、数少ない味方だった。

相手が来る。前衛が剣と槍を構え、柱の陰から一気に間合いを詰めてくる。後衛は、その背後から属性のスキルを撃ち込んでくる。武器の重さも、魔法の出力も、一つ一つがこれまでの相手の上位互換だった。開幕から、圧し潰されそうになる。

だが、俺たちも六人だ。そして、もうばらばらじゃなかった。


まず、ボルクが前に出た。

硬化させた体で、前衛の斬撃を受け止める。振り下ろされた剣が、硬い皮膚に弾かれ、火花を散らす。ボルクは倒れない。そのまま相手を押し込み、味方の打点へと追い込んでいく。ただの壁じゃない。留めて、狩るための要だ。

柱の陰で、ユノが相手の一人を狙って読む。舞台全体は見えない。だが、狙い定めた一人の、護り石のどこが傷んでいるか、どこが急所か——遮蔽の向こうでも、その一点だけは、はっきり掴む。

フィンの糸が、その読みを全員に配りながら、相手の足元にも走る。踏み込もうとした敵の足を、細い糸がわずかに搦める。

「リシア、お前は逸らしに専念しろ。崩すのは、俺がやる」

ボルクに押し込まれ、フィンに足を乱された相手へ、後衛の魔法が援護に飛ぶ。リシアが薄い結界を斜めに張り、その一撃を正面で受けず、横へ逸らす。訓練場で掴んだ、角度の技だ。

体勢を崩した相手の、がら空きの胸元。護り石が、露わになる。

俺は踏み込んだ。まず、相手が握る剣の柄に、一瞬で熱を通す。握っていられず、手が剣を取り落とす。その無防備になった護り石の、ユノが読んだ割れ口へ——熱を一点に集めて、通した。

護り石が砕けた。清明な決定打。その選手は脱落し、舞台の外へ下がっていく。護り石は一人に一つ。砕ければ、それきりだ。

会場のあちこちで、声が上がった。格上の一人が、番外の班に落とされた。誰も予想していなかった。


だが、格上は、格上だった。

反撃で、まず、フィンの護り石が砕けた。相手の槍が、遮蔽から回り込み、一突きで割ったのだ。伝令の要が欠ける。

だが、崩れはしなかった。糸が使えない分、ユノが直接、俺の手首を引いて読みを渡す。三連戦で覚えた、道の組み替えだ。フィンが落ちても、連携は、まだ繋がっていた。

リシアが敵の斬撃を逸らし、その隙へ俺が通して、相手をもう一人落とす。撃破は、二人目。格上を相手に、二人。信じられない数字だ。だが、喜んでいる暇はなかった。

直後、そのリシアの援護に読みを送っていたユノが、後衛の魔法に捕まった。護り石が砕け、脱落。読みの要が消える。俺は、自分の目だけで、相手の護り石の割れ口を探すしかなくなった。精度は、落ちる。

読める者を失うたび、俺たちの隙の作り方は粗くなっていく。逆に相手は、こちらの要から順に、正確に潰してきた。向こうも、俺たちの連携の仕組みを、見抜いていたのだ。

それでも粘れたのは、ニアがいたからだ。走り回って、斬られ焼かれて消耗した仲間を、片端から整える。呼吸を、乱れた流れを。砕けた護り石は戻せない。落ちた者は、もう戻らない。だが、その一歩手前で耐えさせることは、できた。ニアがいるあいだ、俺たちは一手でも長く舞台に残った。

それでも、数は減っていく。リシアが敵の大盾の一撃を受けきれずに落ち、続いて、そのニアも狙い撃たれて落とされた。回復の要が消えて、もう、誰も立て直せない。

残ったのは、俺とボルクの、二人だけになった。

ボルクは、まだ立っていた。硬化に全部を振ったこいつの護り石は、頑丈だ。剣も槍も魔法も、何発浴びても砕けない。仲間が一人また一人と欠けていくなか、最後の盾として、そこに在り続けた。

俺の役目は、通すことだった。一人では、格上の護り石なんて割れない。とりわけ、向こうの守りの要——ボルクと同じ、頑丈な護り石を持つ相手は、生半可な一撃では砕けない。だが、ボルクが硬い体で受け、押し込み、こじ開けた一瞬の隙になら、その割れ口へ、俺の熱を正確に通せる。

ボルクの、肩で息をする音が聞こえた。もう長くはもたない。この一撃で、決めるしかなかった。

その隙へ、俺は最後の力を通した。相手の、いちばん頑丈な守りの護り石を、割れ口から砕く。相手が、また一人、舞台を降りた。撃破は、四人目。

直後、長く受け続けたボルクの護り石も、ついに砕けた。

残ったのは——舞台の上に、俺一人だけだった。

仲間は全員、舞台を降りた。だが、下がっていく間際、誰も下を向いていなかった。ここまで来たことを、全員が分かっていた。だから、最後に残った俺も、下を向くわけにはいかなかった。


一人一人は、格上に及ばない。武器の腕も、スキルの出力も、全部で負けている。それでも、番外の外棟が格上をここまで追い詰められたのは、連携と、遮蔽を使った位置取りと、ユノの読みがあったからだ。誰かが欠けても、残った誰かが、その穴をなんとか埋める。

それは、この数週間、負けながら積み上げてきたものだった。練習で噛み合わなかった日。完敗した初戦。糸の伝令。初勝利。三連戦。リシアが角度を掴んだ訓練場。その全部が、今日、一つの形になっていた。

負けの一つ一つが、今日の連携の、部品だった。


そこで、時間切れの合図が鳴った。

最後まで、どちらも相手を全滅させられなかった。勝敗は、撃破数——脱落させた人数で決まる。

俺たちが落とした相手は、四人。相手が落とした俺たちは、五人。舞台に残ったのは、俺一人と、相手の二人。

たった一人ぶん、あと一歩、届かなかった。その一人ぶんが、そのまま、地力の差だった。

「判定、僅差。勝者——」

相手の班の名が、告げられた。

負けだ。

だが、それは、これまでの「完敗」とは、まるで違う負けだった。格上の強豪班を相手に、番外の外棟が、あと一人まで追い詰めたのだ。


会場は、静かだった。

番外の班が潰されるのを見に来ていた客席が、今は、言葉を失っていた。

偶然じゃ、なかった。火喰い蜥蜴を倒したのも、初勝利も、三連戦の二連勝も、全部、たまたまじゃなかった。格上をあと一人まで追い詰める連携が、まぐれでできるはずがない。

それを、この会場の全員が、認めざるを得なかった。番外だと笑い、形式参加だと切り捨てていた、その全員が。落ちこぼれの寄せ集めが格上をあと一人まで追い詰めた、その事実は、もう誰にも消せなかった。


客席のダリオを、見た。

あいつは、もう何も言わなかった。「火種と薄膜の寄せ集めだ」と、いちばん露骨に笑った男が、完全に黙っていた。ただ、俺たちを見ていた。

言い返す言葉は、要らなかった。あいつの沈黙のほうが、どんな言葉より雄弁だった。


エリオだけは、違った。

腕を組んだまま、じっとリシアを見ている。認めては、いない。あいつの正しさは、揺らいでいない。だが、その目には、まだ、あの違和感が残っていた。認めない。だが、忘れられない。それは、あいつの中に打ち込まれた、小さな楔だった。


ミレーユは、帳面から顔を上げていた。試合のあいだ、一度も記録の手を止めなかった人が、今はただ、俺たちを見ている。その目に、侮りはなかった。

「……間違いない」

そう呟くのが、聞こえた気がした。再現性。偶然では片付かないもの。それを、あの人は最後まで、自分の目で見届けた。


試合のあと、外棟の担当教官マルクが、記録係のところへ歩いていった。手には、俺たちの評価記録。

マルクは、その記録にペンを走らせた。淡々と、いつもの事務的な手つきで。だが、その一筆は、たぶん簡単なことじゃなかった。

書き換えられた一行を、俺はあとで知った。

「外棟班、一部生徒を、二つ星候補観察対象とする」

番外だった。形式参加だった。勝っても星位は動かないはずだった。ハーグが、そう決めた。

その評定が、今日、一行だけ書き換わった。正式な昇格じゃない。まだ、観察対象というだけだ。だが、ハーグが「動かない」と決めた序列が、初めて、ほんの少しだけ動いた。

負けた試合で、俺たちは、それを動かした。

勝てない相手に、ここまで迫ったことが、あの動かないはずの評定を、動かした。

それが——俺たちの、反証だった。

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