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レベルアップが命取り?建内 日葵と不思議な服  作者: 和琴
”宝珠を手放した勇者の宿命” - あらがう者こそ真の勇者なり
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首都、クラウンの大広場

ルネールが縛り付けられた広場では

時計は15時を回った。


焼ける日差しの中、罪人ルネールが

両手を十字架に縛り付けられたままそれを背負い

自ら処刑台に向かい足を鳴らす。


「これについては勇者を待つとも別に言っておらん。

兵を数千死なせたルネールは、わしの顔に泥を塗った。」


王はソファーに座り仏頂面でその光景を見守る。

その隣にはストランテが座り、ゼン・モーダも遠くに控える。


ルネールは、ヌエッサンを庇う心づもり…

「自分から向かってるぞ…」


「あと何年したら…これは終わるんだ…」


広場には多くの見物客がおり、

その様子を見て囁き合わずには居られない。


普段からその裏では、王と貴族を見世物のように

酒を飲み歌い笑っていた。


腕をほどかれたルネールが唇を噛みながらギロチン台に

自ら頭を入れる。


それを見届けると王が立ち上がる。


「皆の者!」


「これからわが手で

我が国の軍隊に甚大な損害を与えた罪人ルネールを

わが手により処罰!さらし首とする。」

巨大な斧を兵士に運ばせ、自身は処刑台の横の椅子に座った。

ギロチンの刃は取り除かせてある。

我がギロチンだ…ふふへへへ…

民衆は度肝を抜かれるだろう。


「身代わりになると言っていた、

宝珠の持ち主は来なかった。

最早罪人どもに一片の情けもいらぬ!」


敢えて中央の道を空けるように指示をしてまで待っていたのに

しょせんそんなものだ。

もしくれば最高の政治ショーになったものを。



そのいら立ちはコレにぶつけてやろう…!

…ぬ…!


王は斧を持ち上げようとするが、普段運動をしておらず

その弛んだ体で持ち上げることは叶わなかった。


如何にか…威厳を…くそっこの…


見かねた兵たちの力を借りようやく背丈ほどの大斧を持つと

ルネールの十字架を立て贖罪の印とし、断頭の準備が整った。


親しい者だろうか、悲鳴や叫び声も聞こえる中

ざわめきが大きくなっていった。


群衆の熱を肌で感じ、王冠の下で久しく動かなかった血が脈打つ。


いま、誰もが自分を見ている…それだけで胸が焼ける!


「…おい!離せ!明日は我が身だぞ!」


「おとなしくしろ!」


ざわめきの中に自身の権力と民衆の無力を感じ

悦に浸ることが出来た…その時だった。


「いけ、早く進め!」


「おい!来たぞ!来たぞ!」


「行け、行け!代わりに死んじまえ…!!」


あれは…鎧…勇者…!!


酔いの中不意を突かれ固まっていた王は

少し間をおいて視界に捉えた。


ふらつきながらも、思ったより速い速度で一直線に歩み寄る

土と鉄の鎧を着る小柄な人物を。


だが位置監視装置は止まって…、いや、これは…!


鎧の右腕取れるほど大きく破損しており、左手に向日葵と宝石を入れた

ブーケを抱え、ただひたすらに処刑台を目指して走る勇者の姿。

素肌となった右手に付けた銀と赤の腕輪が目立っていた。


襲われたのか…魔物か…人間か…。


ともかく不正で無ければよい!

来たか、この時が…!


ワシの人生の晴れ舞台が…!!


王の背後に護衛隊が揃い、

生贄が手元に来るのを王はただひたすらに眺めた。


勇者は王の前に着くと、転んで処刑台に体を打つ。

それでも立ち上がり、そのブーケを両手で王に差し出す。


王は無意識に、鎧を避ける様に肌に触れてブーケを受取り

眺める。


これは…

白い紙に独特な赤の模様が映える、眩く土の宝珠が輝き

向日葵の花束がそれを囲むように咲いていた。


なるほど…こう来たか…。

見たことない芸術だ、意表を突かれたな…

だが花の茎が潰れ、緑色の汁が垂れているのは減点だ、

流石にこれは気分が悪い…!


「どうか…この命と宝珠を…代わりにお受け取りください。」

ワシ以外に聞こえただろうか、蚊の鳴くような声で囁いた後、

勇者はモノになったかのように地面に落ちた。


良かろう、望み通り。

「今回は貴様の贖罪を受け取り

ルネールの代わりに、真の大罪人を処刑してやろう!」


土の宝珠を投げ捨てる訳には行かぬ、丁寧に渡し

無礼な勇者より上と証明せねば。

我は置物ではないと。


花を兵士に渡した後

斧を両手で持ち、手をまたぎ勇者の横に移動しようとして

液体に足を滑らせた。


いたたた、滑った…雨が残っていたかぁ…


護衛隊に支えられた王が足元を見ると

木の板に広がる紅蓮の液体。


「うぉ!うぉぉぉ!」


「バカな、戦場からこの傷で!ここまで来たというのか!

どうして、どうしてそんなことができる!」


立とうとするも驚きで腰が砕け

体が震えるほどの寒さを感じ

手に付いた血を見て理解が出来ない。


「どうして、ここまで眩くなれる!

どうして、ワシは…。」


あり得ない、常人の神経ではない!

頭を抱え、涙を流す。


「どうしてワシは…

どうしてこうなれないのだ…。」

こうして人に驚かれるような…


「…なれ…ますよ。」

ッハ!天啓…?


血が太陽を反射し眩く輝く鎧の戦乙女は告げる。


「己を磨き…義を通し…皆を幸せに…」


喉に石が詰まったように言葉を失いながら

周囲の雑音もまるで聞こえず、その言葉は心に

直接響くようだった。



「ど…うか…お幸せ…に…」

風が止んだ。広場のざわめきも遠のく。

光は、息のように彼女の輪郭をほどいていった。


「え…衛兵!衛兵!」

助けを!このままではいかん!


護衛隊は王を引きずり、勇者に剣と盾を向けた。


「ち…ちがう、違う!」

体が消えかけ、床は血の海…

こんな、こんなことが!これはだめだ!


「違う!医者!医者だ!」

王ははいずりながら兵を押しのけた。


初めてかもしれない、人を救おうと必死に動き

勇者の手を握ろうとしたが…

その体のすべてが光となり、空に消えていった。


ダン!

王は床を叩く。


うーぅ!くーぅうううっう!うーーー!


ダンダン!

やってしまった…やってしまった…!!

う…ううう!


「ゼン・モーダだ!

 処刑は中止!

兵たちは王を護衛し、

民衆は退場せよ!」


強引に民衆たちが兵たちに押される中

貴族達の騒めく声と王の慟哭だけが

その広場に響き渡っていた。


翌朝、王宮からの告知が民衆に配られた。

王の謝罪と、新たなる体制の告知。


一人の勇者が心に運んだ種から

希望と安定の時代が

芽吹こうとしていた。


Entre l’ordre et le desordre, le monde respire.

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