65 ムギホシの理由
イルミルちゃんはレオグリムさんの再来と言われる天才児だよね。だったら事情を話して借りればいいような?
「私もそうしようと思ったのですが物理的に無理でした……」
「『物理的』ってどういうことニャ?」
なんと、その『鍵』――宝石は持ち主を選ぶらしい。それに宝石はイルミルの身体から離れないってことだ。
だからレオグリムさんもバトゥに渡せなかったのか。
ちなみにこの宝石が迷宮惑星の『鍵』だと知っていたのはバトゥとレオグリムさんだけだ。宝石を貰った時に身体から離れなくなってイルミルちゃんは怖がったろうな。
「それが、『やはり受け継ぐ者はアタシしかいないわね!』と大層お喜びだったそうです」
『鍵』の宝石をイルミルちゃんの所有物になったのは昨年の誕生日らしい。それで俺達がこの星に来てから、バトゥがゼルコバ氏と会って初めて『鍵』の存在をチトセ家の皆が知った――ということだ。
「ということは、イルミルちゃんも連れて行かなきゃダメってことだよな」
「はい、その通りです。それがなければムギホシ様か二方に所有してもらうつもりだったのですが」
「イルミルの身体から離れないからもうしょうがないけど、その中にバトゥが入っていないのは何故ニャ?」
「わたしも最初に聞いた時に同じことを聞いたわ」
「忘れていただいては困ります。迷宮惑星は狂暴なガーディアンがひしめいているのです。今度は私が一番先にやられそうですよ」
さっきガーディアンがいるって聞いたけど「狂暴」と「ひしめいている」は初耳だなぁ。強敵と聞いて俄然やる気MAXな虎鉄さん。
あ、そうか。ひょっとして帝国がイルミルちゃんを拐かしたのも迷宮惑星の鍵が目当てだったのかも! 次世代超高速エンジンのノウハウとか欲しがる勢力がいそうだし!
「それは違うニャ。バトゥがいないと迷宮惑星の鍵だって分からニャいから、その可能性は低いニャ」
う……そうだった。
「しかし、私とレオグリム様より前に知っていた者がいるかも」
「もしくは、そのあとで知った者がいたかもってこともあるわね。可能性の話だから今は結論はでないわ」
そうだよな。取り敢えずイルミルちゃんを守らねば!
「で、2つ目があるんだよニャ?」
「それはわたしから話すわ。どうしてバトゥは迷宮惑星から脱出できたと思う? 迷宮の最奥から地上まで狂暴なガーディアン達がひしめいている中を、よ」
そう言えばそうだな。バトゥが戦って宇宙船まで生還するとは悪いが、考えにくい。それなら――
「迷宮惑星を探索したのはバトゥとレオグリム以外にもいたってことだミャ!」
今から俺も言おうと思ってたのに!
「そうなの。そしてこの探索パーティにいたのが――」
ムギホシが珍しく言い淀んだ。
「――――わたしの母親なの」
これまでムギホシの祖父の話は出てきたけど親の話は初めてた。
「わたしの母親とレオグリムさんとバトゥが3人のパーティで探索に行ったの。
そしてレオグリムさんが倒れて、そのあと母様がバトゥを逃がして……ガーディアンの攻撃で……」
その辺りは言い難かったら言わなくて良いよ。今度言いたくなった時に言ってくれれば。
「バトゥが要点をまとめて話したらいいニャ」
虎鉄はムギホシのつらそうな顔を見たくないんだろう。俺も一緒だ。
「わたしは大丈夫よ。……いいえ、ダメだわ。コテツ、ありがとう。バトゥ、お願いするわ」
ムギホシは力なく笑った。
バトゥに話は変わって聞くと、ムギホシとバトゥの関係が少し見えたような気がする。バトゥっていうかレオグリムさんを含めてドワーフ族との関係だな。
・600年前 レオグリム誕生
・550年前 バトゥーク78は製造完了
・500年前 エルフィニア滅亡&ルーン戦争終結&それ以降は突発的な戦いがあるやらないやら
・332年前 ムギホシ誕生(これは正しかった)
・286年前 レオグリム氏は迷宮惑星で死亡
バトゥが迷宮惑星から逃げ延びるが、その後宇宙船の爆発で宇宙空間に放り出される
【ムギホシは生まれて100歳と言ってたが、実はこの年に通信途絶した(ムギホシ46歳)】
・232年前 バトゥがゴブリンに拉致されて奴隷化
・200年前(ムギホシ132歳) ムギホシの祖父死去
【これは現在ムギホシしか知らないのでそのままとする。怪しい……】
そして、332年前にムギホシが誕生した年にレオグリム氏が惑星エルフィニアに来訪したことがあって、その時はムギホシの両親と祖父もいたそうだ。バトゥは直接会っていなくて、そのあとレオグリム氏にその様子を聞いたそうだ。
っていうか、ムギホシの時間の感覚が俺と違い過ぎる!
何十年がこの前だったり100年くらい前とか言ったりするから分からない。これはバトゥとゼルコバ氏が誠意を込めて修正してくれたそうだ。
で、迷宮惑星で何があったのかだ。
おそらく最奥の部屋の前までは行ったはずとバトゥは言った。そこまではガーディアンも楽勝ではなかったがなんとか勝てるレベルだったらしい。もっともムギホシの母上がべらぼうに強かったからである。
その一番奥の扉の前でレオグリム氏が『鍵』を使った時、そいつは現れたのだ。
そいつの名前はスプリガン・ゴーレムという身長は100メートルの巨体だったという。
ムギホシの母上とスプリガン・ゴーレムの戦いは最初は互角だったが、後ろに隠れたいたレオグリム氏とバトゥにスプリガン・ゴーレムの攻撃が当たったことから徐々に形勢は劣勢へと向かう。
ムギホシの母上がレオグリム氏に、出直そうと言った時はもう遅かったようだ。
レオグリム氏が身体の半分以上が宝石のようになっていたのだ。
そして、自分はここに置いて行ってくれ。『鍵』はもう一つあるからバトゥに聞いて欲しいと……。
『私がここで眠りにつくのを許してね。セイ、バトゥークを頼む』
バトゥはそのセリフを思い出すように話した。
セイというのがムギホシの母上か。聞く暇がなかったからここで聞けて良かった。
「ひょっとしてレオグリムは女性なのかニャ?」
そう! それも聞きたかったんだよなぁ。
「そうですよ。誰にも伺ってませんでしたっけ? てっきりゼルコバ様から聞いているものかと考えていました」
そうなのか、やはり最初にレオグリム記念博物館にでも行っておくべきだったな。
「壊れかけた私を背負ってセイ様が地上に逃げ延びたその時、スプリガン・ゴーレムも迷宮から外界に出てきたのです。私達を逃すつもりはなかったのでしょう。それもガーディアンを大部隊を大勢引き連れて……」
セイさんは、その後バトゥを迷宮惑星から逃がすために一人で戦うことを選んだのだ。
「その気持ち……わかるニャ」
その言葉にムギホシも小さく頷いた。
「迷宮惑星の上空に出た私でしたが、スプリガン・ゴーレムから攻撃があって宇宙船はあえなく爆発して――」
迷宮惑星はその後、再び超空間に戻って行ったとのことだ。それはバトゥが見ていたということだ。
「でも、ムギホシの母上――セイさんがどうなったかは見てないんだろ?」
「はい。確認していません。でも宇宙船が発進したところまでは戦っていました」
「じゃ、生きているかもしれないニャ」
「そんなこと言ったって280年前のことよ……。おそらく、いいえ十中八九亡くなっているわ」
「それじゃぁムギホシは何をして欲しいんだい」
…………
…………
…………
「もちろん母様の仇を討つから手伝って。スプリガン・ゴーレムを一人で倒すわ。その他のガーディアンは任せてもいい?」
そうか、それが『剣こそエルフの道、星神様と共にあれ』ってことか。
俺と虎鉄は大きく頷いた。
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