対巨大オートマタ
「距離1400 同高度 無風」
巨大オートマタの南側。進行方向に対して右方向に当たる位置に回り込んだ狙撃手達はオートマタの後方に随伴している歩兵に狙いを着けた。
「マーク」
狙撃手は観測手に狙いを着けたことを教え。引き金に力を入れた状態で、何時でも発射できるように待機した。
向こうは林に到達する前だが、先に予想外の位置から攻撃して相手を疑心暗鬼にするのが狙いだった。
「撃て」
狙撃手が最後の一押しで引き金を退く力を強めると、撃針の固定が外れ銃弾が発射された。
発砲から暫くして、右肩の辺りから血飛沫が上がりその場に倒れ込む歩兵が見え。それに気付いた他の歩兵が一斉に伏せた。
「ヒット。次はオートマタの後部、後ろ脚の上」
歩兵がその場に倒れ、周りの歩兵が騒いだので状況を確認しようとしたオートマタ乗員が頭を出した所を狙うように指示した。
「距離そのまま」
「マーク」
「撃て」
「ぎゃあああ!」
「一体何だ!?」
悲鳴が聞こえ、歩兵達がその場に伏せたのを見た、オートマタの後部機銃に付いている兵士は何も考えずに身を乗り出した。
場所が場所なので車長と歩兵間の伝令役をしているので、「何故伏せたか」聞こうとしての行動だった。
伏せた歩兵達はその事に気付き、注意しようとしたが、その前に頭を出した兵士の頭が撃ち抜かれ、そのまま崩れるようにオートマタの中にずり落ち見えなくなった。
「ちょっと待て、止まらないのか!?」
狙撃され、その場から動かなくなった歩兵を置いてオートマタは人が小走りする速さで林へと入ろうとしていた。
オートマタの他の乗員は、金属製の胴体内に居る上、駆動音にかき消され銃声に気付いていなかったのだ。
「2人は残れ。他は追うぞ!盾を持ってるのは両翼へ!」
撃たれた兵士の看護の為に2人残させ。防げるとは思わないが、歩兵達は盾を側面に並べながら大急ぎでオートマタの後を追った。
「大砲は設営しました。ロケット砲はどうしますか?」
砲兵隊のリッキーは林の中に大砲が設営できたことを報告するついでに、ロケット砲の事を聞いてきたが、アルトゥルは即座に指示を出した。
「ロケット砲は退避だ!まだ対岸に置いててくれ!」
そもそも、散布界も判らず何処に飛んでいくのか判らない物を使って味方に当たる方が心配だった。
「敵オートマタが林に入りました」
「ジェームズ!準備は良いか!?」
アルトゥルが呼び掛けると、橋塔の中から「行けますよ」とジェームズが返事をして出て来た。
「歩兵の数さえ減らせれば良い。無茶はするなよ」
顔にドーランで黒い筋を描き、林の草木に合わせ目立たない緑色の迷彩服に着替えたジェームズは銃に弾を込め始めた。
「ご心配無く。昔みたいに上手くやりますよ」
口調もベトナム戦争の時の調子に戻ったジェームズは同じ様に迷彩服を着た部下達と林へ向かった。
見通しが利かない林の中で、随伴歩兵を攻撃し、オートマタと随伴歩兵を分離する任務だが、そうなって来るとジェームズ達が適任だった。
「ハーバー将軍!」
ジェームズの後ろ姿を見ていると、ピウスツキ卿が部下達と馬に乗って橋を渡って来た。
「ピウスツキ卿……」
一瞬、ドミニカと目が合ったが、まだ怒っているのか目を逸らされた。
「ニュクス様から言われて手伝いに来たぞ!何処に行けばいい?」
来たのは100人ぐらいの騎士団員でアルトゥルは何処に配置するか悩みだした。
「相手は銃や大砲を積んだオートマタです……」
剣や弓だとたかが知れている相手だが、随伴歩兵は……。
アルトゥルはオートマタではなく“ジェームズを送り込んだ撹乱作戦に当ってもらえるのでは”と思いついた。
「ピウスツキ卿、この位置でオートマタを待ち伏せます」
簡単な地図に鉛筆で大砲と塹壕の位置を書き込んだ物を部下から受け取りピウスツキ卿に見せた。
「南からは部下が歩兵を攻撃して圧力を掛ける予定です。それを手伝って下さい」
陣地の南から伸びた矢印をアルトゥルはなぞったが、ピウスツキ卿は不思議そうな表情でアルトゥルの顔を覗き込んだ。
「……なんでしょう?」
ピウスツキ卿がまるで値踏みするような様子で、騎士団員達も笑いを堪えていたので、アルトゥルは身構えた。
「いやぁ、……君、普通に喋れるんだね」
「へ?」
騎士団員達が堪えきれなくなって笑いだしたので、ドミニカが器用に馬を操りピウスツキ卿の右側に近付くと、ピウスツキ卿のほっぺを引っ張り始めた。
「お父様……」
「痛い痛い痛い!」
最後に力強く手を引き、ドミニカの手が離れた所をピウスツキ卿はゆっくりと摩り始めた。
「巫山戯て無いで早く行きますよ!」
呆然とするアルトゥルを他所に、ドミニカはルジャ達を連れて林の方へと走り出した。
「!?」
「あー、すまんね、ハーバー将軍。……では私らも南から攻めるよ。それと、ニュクス様から鹵獲大砲を借りたのでじきに此処に来るから任せる」
「ああ、はい!お願いします。オートマタの方は我々が対処するので」
ピウスツキ卿達がドミニカ達の後を追うのを呆然と眺めていたら、今度はハイムが近付いてきた。
「すみませんお義兄さん。どうも父がお義兄さんの喋り方を気にしてたので」
「え!?」
ハイムに指摘されて、アルトゥルは口元を抑えた。
「いや、俺は良いと思いますよ。お義兄さんみたいな喋り方の人は多いですし。俺も姉も偶に薩摩弁になりますし」
「そうかい、ありがと」
ハイムが必死に擁護するので、アルトゥルはそれ以上話題にはしなかった。
(やっぱ、気ぃ付けた方が良いか?)
ハイムも後を追い、部下と橋塔に残ったアルトゥルは暫く悩んだ。
「おーい!」
林に入ったオートマタの後を追う歩兵達は、地面に落ちている石などをオートマタに投げつけ、必死に連絡役の兵士が撃たれた事を報せようとしていた。
『後ろは着いてきてるか!?』
車長も連絡役が何も言わないことに気付き始めた。
「様子がおかしい、見て来てくれ」
3人居る操縦室の左前の座席に座る車長は右に座る副操縦士に指示を出した。
「了解」
座席を立った副操縦士は扉を開け、8気筒のディーゼルエンジン2基がけたたましい騒音を出す機械室を通り抜けた。動き続けるオートマタの中を移動するので、手摺等に捕まりながら慎重に歩いたが。迫撃砲の砲弾を格納している弾庫の間を通り過ぎる時に転んでしまった。
「あいたた……」
起伏が在るので揺れが激しくなるのは想像できたが、それにしても酷かった。
何処か免震装置が故障した事も考えながら、再び手摺を掴み後部に歩き続けた。
「どうした?故障……」
通信装置の故障かと思い、ハッチを開けながら話し掛けたが、一面血だらけの銃座と倒れた兵士を見て言葉を失った。
『車長!後部の銃座に着いてた兵士が撃たれた!死んでる!』
「何が有ったか判るか!?」
車長が状況を聞いたが、返事が返ってくるまで遅かった。
『歩兵の話だと、“林に入る前に撃たれた”そうです!歩兵も既に何人か撃たれてます!』
車長はペリスコープを覗き込み、左右の様子を探り始めた。
「歩兵に散開させろ!それと、攻撃を始めるから射線に入らない様に指示して、そこで連絡役をしてくれ」
『了解』
「飛び道具を持ってる奴を優先しろ」
敵の随伴歩兵は剣や槍の他に、弓やクロスボウそして前装式ライフルを持っているが、ジェームズ達は飛び道具を持った兵士を狙い撃ちにし始めた。
そして、ジェームズ達は1発撃つ毎に居場所を変え、オマケに急所をワザと外していた。
何処から撃っているのか。
随伴歩兵達は見えない敵相手に怯え、そして傷つき血を流す仲間のうめき声を聞いて、恐怖に襲われていた。
守ってくれる筈のオートマタも、見当違いの場所に砲撃をしながら前に進むだけで、動けないでいる随伴歩兵を置いて行こうとしていた。
『車長!敵が見えません!歩兵が一方的に攻撃されています!速度を落として下さい!』
「ああ、判った!」
車長が速度を緩め、ペリスコープで周囲を見たが、いきなりペリスコープに衝撃を感じ視界が曇った。
「くそ、ペリスコープが撃たれた」
「拍子抜けだな」
ペリスコープを撃ち抜いたジェームスは呟いた。
確かに巨大オートマタは脅威だったが、随伴歩兵と連携が全く出来ていない為、孤立しオートマタと距離が空いた随伴歩兵が今もピウスツキ卿達に襲われていた。
「陣地に誘い込めば……」
だが、ジェームスは油断していなかった。何か隠し玉が有る可能性を考え、確実に撃破するために陣地に誘い込むことだけを考えていた。




