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巨大オートマタ

「本格的な解囲戦を何時するか……」

 もう少しで渡河が始まるが、肝心のその後の計画が決まっていなかった。


「反乱軍の反撃が低調だと報告が有りますが、夜襲を仕掛けてこないとも限りません。大軍を狭いこのエリアに留めて万が一総崩れになっては」


 ピウスツキ卿は川を渡った先の野原を示したが、確かに夜営には不向きだった。

 3方向を林に囲まれており、常に木々の向こうから見られている事を意識する上に、攻撃された時に敵が見えない状況になり得た。


「夜襲など……。奴等は不利なんだぞ?」

 ウルベル族の誰かが言葉を漏らしたが、直ぐにピウスツキ卿が反論した。


「不利だからこそ、彼等は夜襲を仕掛けてきます。正面切って戦えない上、攻囲陣地に籠もって死を待つぐらいなら、攻撃を仕掛けるものです」


 黙って聞いていたニュクスはピウスツキ卿の行った事に内心賛同しつつも、どうするか悩んでいた。


 カエから“明後日20日に神聖王国側で行う式典までに落としてくれ”と言われている以上、のんびり出来ないのだ。

 それ故に、予定を前倒しして軍を進めているが、そのしわ寄せが情報不足として露見し始めていた。


「かと言って、少数の兵だけを渡河させるのも危険では?」

「少数だけ残して、明朝に渡河を再開させる訳にもいかないだろ」


 そして、これはピウスツキ卿に言われたことだが。各指揮官の戦闘教義の不一致が問題だった。


 軍は大規模な作戦を行う必要性が有る為に、異世界では士官学校や現役士官向けの研究会・教育と言った場で戦闘教義を教え、予め士官の意識を統一し作戦が円滑に進むようにしていた。




「前世では悲惨でした。我々は(日本陸軍)ソ連軍との戦闘だけを考えていたので、最後までアメリカ軍との明確な戦闘教義は有りませんでした。現場が小手先で凌いだだけです」




 詳しく聞くと、大草原での機動戦を想定していたので、訓練も相手を拘束する攻撃を主体としたもので。ジャングルの中で陣地を構築しての防御や持久戦は考えてはいたが「何をしなきゃいけないか」判らず手探りだったと聞いた。


 一応、他はどうだったかアルトゥルにも聞いたが。


「いんや、行く前に相手のことを徹底的に研究してぜ。そんで、陸軍はドイツ軍を相手にして、海兵隊が日本軍を相手にするって決まったんよ。戦い方が全然違ぇから」


 後からピウスツキ卿に聞いたが、「他でも戦争をしていたので手一杯だったのでは」と言われたが、どうも釈然としなかった。




「日の入りまで3時間だが、少し離れた所に架橋出来ないか?」

 指揮官同士で議論が進まない中、ウルベル族の部族長が提案した。


「南側に工兵隊が橋を掛け、そこから別働隊で橋を再占領しようとする反乱軍の側面を叩けば……」


「どうだ?」


 ニュクスが工兵隊の指揮官に問い掛けると、別の地図を机の上に引っ張り出して説明を始めた。


「過去に南のこの位置と……此処で架橋をした経験は有ります」


 アメリカ連隊が確保した地点からは見えない位置なので、反乱軍の目に触れない場所を2箇所指さされた。


「複数の橋を掛けられるか?」

「川幅から考えて4本は可能ですが、解囲戦に使える資材を使うことになります」


 空堀を仮設橋で乗り越え、攻囲陣地を攻撃する事も計画していたが、ニュクスは決断した。


「時期を逸しては解囲すらままならん。4本架けてくれ」





「何だあれ!?」

 反乱軍が撤退した後、暫くしてから変な機械音が響いていたので、狙撃手達はその場に留まり様子をうかがっていたが、音の正体を目の当たりにして驚いた。


「オートマタか!?デカイぞ」


 アメリカ連隊の兵士達はニュクス達が遺跡で鹵獲した2足歩行のオートマタを事前に見た上で、弱点を確認してはいたが、目の前に出てきたのは前後に長い6足歩行の大型のオートマタだった。


「機銃と思しき銃身と砲身。まるでMark.Ⅰ戦車だ」

 重火器を装備している事も判り、勝ち目は無さそうだった。


「逃げるぞ!」

 列車に脚が生えた様な異質なオートマタの後ろには、歩兵部隊が見えたので、本格的な攻撃だと悟った2人は大急ぎで橋の方へと戻った。





「あぁ!クソ」

 オートマタが段差に前脚を踏み入れ傾いたので、オートマタの中に乗っている乗員は頭を壁に打ち付けた。



『揺れるぞ!気を付けろ!』


「遅えよ……」


 オートマタの中央に設けられた操縦席から報されたが、既に前へと大きく傾いていた。




「残り距離500だ!停止しろ!」

 上部から伸びたペリスコープを覗いた車長が、林までの距離を操縦士に伝えた。






「ん?おい、どうした?」


 林の中で土嚢を積み、蛸壺や塹壕を掘って待ち伏せていたアメリカ連隊の兵士達が引き揚げてきた狙撃手達に気付いた。


「でっかいオートマタだ!」

「列車ぐらいの大きさが有りそうなオートマタが出て来た」


「でかいオートマタだ?」


「どうした?」


 人馬のリーが騒ぎを聞いて近付いて来た。


「6脚の大型のオートマタです。側面に砲が1門ずつ、前方に連装機銃を装備してます」


「それと、随伴歩兵が後ろに続いています。歩兵の装備は見えませんでしたが、2個小隊規模です」


 オートマタの存在は聞かされていたが、6脚も有る大型のオートマタが出てくるとは思っていなかった。


「……参ったな。……ジェームズに報告してくる。2人とも来てくれ」


 リーが2人を連れて橋へ向かったが、残された兵士達はどうしたら良いか話し合っていた。


「爆薬は有るか?」

「いや、ねえよ。手榴弾ぐらいだ」


 オートマタの関節部分が弱点で、また駆動に使う油圧シリンダーを壊せば動かなくなるのは、鹵獲したオートマタを使った実験を見ているので知ってはいた。

 なので、オートマタに遭遇した時は関節部に射撃を集中させて転倒させる事は想定していたが、6脚のオートマタに効くかどうか。


「幸い此処は見通しが悪い、肉薄して弱点を突くぞ」

「そんなに上手く行くか?」


 破片を発生させる手榴弾は人等には効果は有るがオートマタの様な機械に果たして効果が有るか疑問だった。


「砲撃だ!」


 林の向こう側から砲撃音が響いたので、兵士達は塹壕や蛸壺の中に潜った。

 近くには落ちなかったが、爆発音が響き渡り兵士達は身体を縮こませ砲撃が止むのを待ち続けた。



「Feuer!」

 オートマタ上部の開口部に設けられた迫撃砲2門を使い、次々と砲撃をしていた。


「火力が低いな」

 ペリスコープ越しに砲撃の成果を確認している車長は不満そうだが、迫撃砲が2門だけなので仕方がないことだった。


「射撃中止。前進する」

 再び、油圧シリンダーが軋み音を上げなから脚を動かし、オートマタは人が小走りする速さで前へ動き始めた。


「林に入ったら歩兵は展開。歩行戦車で支援する」

『了解!』





『てぇへんだ!正面にでっけえオートマタが出た!』

『普通のとは違うの?』


 アルトゥルからの念話に、ニュクスは耳を疑った。


『伝令をそっちにやったが、全然違ぇ!機関車のお化け……あー。取り敢えずデカイ!』


「き、緊急で、す!……巨大な…オートマタが」

 伝令としてやって来たのはリーだったが、全力疾走してきたのか、息も絶え絶えだった。


『伝令が来た。此方でも対処法を決めるが無茶しないでね』


 アルトゥルに伝令の到着を報せた直後、林に撃ち込まれた迫撃砲の爆発音が響き、幕僚達は顔を強張らせた。


「オートマタは大砲を!?」

「船の様な細長い本体の側面に、1門。両側面に付いているとの事です。それと前方に連装機銃付きで、脚の数は6本です」


 リーの言った事に南部部族を中心に混乱が広がった。


「工兵隊に架橋を急がせろ。ピウスツキ卿は騎士団を連れて現場へ。必要なら鹵獲した大砲を運び込め」


 指揮所の幕僚達の混乱を抑える為に、ニュクスは大声で指示を出し幕僚達を動かした。

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