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FELNの古参兵達

「ブレンヌス殿!リシャルド!」


 工事が終わっていない西の土塁付近でブレンヌスとリシャルドの姿を見付けたユゼフは大声で2人を呼んだ。


「首尾はどうだったかぁ!?」

 ユゼフの姿に気付き、ブレンヌスは出城を攻めていたFELNの農兵の撤退状況を質問してきた。


「そっちは生きてる者は引っ張って来ました!」

 大声で話していたが、ユゼフはホセと共に駆け寄り、小声で話し始めた。


「それよりも、橋が落ちたと聞きましたが」

 ブレンヌスは顔色を変えずに、報告を受けたことだけを話した。


「……ああ、落とされた。それと、ペドロ達人馬の部隊が戻らん」

「……殺られましたか?」


 人狼のホセは前世で弟だった人馬のペドロが戦死したか聞いたが、ブレンヌスは暫く押し黙った。


「判らん。橋に居た兵士の話だと、“偵察に出たペドロ達を待っていたら、いきなり銃を持った兵士が襲い掛かってきたて、対岸を警戒していた仲間が捕虜にされるのを見た”……とだけ聞いた」


「我々は迎撃に出ないので?」


 先程から迎撃に出ているのはFELNの反乱農兵などで、ブレンヌスとリシャルドが指揮する反乱奴隷の兵士では無かった。


「正面からぶつかる野戦では勝ち目がない。打って出るのは愚策だ」

「では何故彼等は?」


 ホセが指差す先で、FELNの農兵達が新たに橋の方へと向かっていた。


「行くと聞かないだけだ。気にするな」





『そっちはどうなの!?』

「うひゃ!?」


 いきなり頭の中に念話が響いたので、アルトゥルは変な声を出してしまった。


 近くに居たジェームズが不思議そうな顔をしたが、アルトゥルは適当に誤魔化し、話し掛けてきたニュクスと念和を始めた。


『なんでぇ?いってぇ!?』

『あんた念話を教えたんだからソレも使って報告しなさいよ。伝令を通して伝えにくい事とか直接指示できる事を忘れんじゃないわよ』


 確かに、緊急事態や判断に迷う事態に直面した時に直接判断を仰げるのは良いが。


『なんもねぇよ。コチトラ順調ですよ。予定通り、橋を再占領しようとした反乱軍を追いやって持久戦に移行したぐれぇで』


『敵軍にオートマタは?』

『……まだ見てねえ。ホントに居んのか?』


 ブレンヌスからの情報では、神聖王国からFELNへオートマタが渡っていると聞いていたので、アメリカ連隊をいきなり前哨戦に出しているが、未だにオートマタが出てこなかった。


『ええ、数は判らないけど。来てるのは確からしいわ』





「前進!」

 前装式のライフルを持った兵士達が横一列に展開した状態で三叉路にやってきた。

 先に撃退された農兵部隊の話を勘案し、虎の子の戦列歩兵部隊を投入したのだが、笛や太鼓を吹いて派手に行進するのではなく。目立たぬように、姿勢を低くしての前進だった。


 途中、街道に差し掛かった所で、倒れた農兵の遺体や動けないままその場に残っている兵士と遭遇したが、彼等を無視して更に三叉路に近付いた。


「何もないな」

 全く攻撃を受けなかったので兵士達は肩透かしを食らい、どうするのか指揮官の方を見始めた。


 草むらに伏せたままの兵士達を前に当の指揮官も周囲を見渡して何をするべきか考えたが……。



「敵は200って所か」


 ボルトアクションライフルに着けたスコープを覗き込んだ、アメリカ連隊の狙撃手が観測手に話し掛けた。


「ああ、例の前装式ライフルの部隊だ」

 ケシェフを出る前に“FELNの中に戦列歩兵が居る”と聞かされた時は、「ハロウィンか何かか?」と思ったが、パオロ達と反乱に参加した転生者達が実際に前装式ライフル片手に戦列を組んでいたのを聞き事実だと知ってはいたが。


「戦列を組んでないな」

 地面を這うように進んだ彼等を見て狙撃手は素直に感想を述べた。


「向こうにも転生者が居るらしいからな。それでだろ」

 戦列歩兵は、命中率が低いマスケット銃の火力を活かすために、集団で統制射撃を行う戦術だったが。ミニエー銃の様な前装式のライフルが出回るとその命中率の高さから、身体を晒す戦列歩兵は死者が増え続け、南北戦争で大量の死傷者を出す事になった。

 コッチの世界でも騎士団を始めとした銃弾を叩き落とすような連中には、弾幕を張れる戦列歩兵は有効だろうが、ライフルでの打ち合いとなるとその限りではないと判断したのは容易に想像できた。




「どうする?このまま進むか?」

 仲間に聞かれ、FELNの指揮官は悩んだ。


 部隊の大半は神聖王国の離間工作で、軍事訓練を受けた元小作人達で、転生者が多いこともあり、皆前装式ライフル同士の打ち合いは危険な事を理解していた。


「いや、何人か前に出して様子を探ろう」

 そしてこの状況……。撃退された農兵達の話だと相手はビトゥフの鍛冶屋に集められた反乱軍向けの前装式ライフルか、宿場町で鹵獲した前装式ライフルを使っていることが予想された為、慎重に動いていた。

「わかった。……おい!」


 ハンドサインを貰った班が前方の様子を探るべく班員10名が横に広がり、慎重に匍匐前進を始めた。





「一通りの訓練は受けているな」

 反乱軍の兵士の様子から狙撃手はそう思った。


 最初は軽く状態を起こし、右手で銃口付近を持ち左腕で力強く地面を押し、脚は力強く地面を蹴っていたが。ある程度近付くと上体を地面に伏せ両手で銃を持った状態でゆっくりと進み始めた。


 複数有る匍匐前進の状態を状況に応じて使い分ける程度の訓練を受けている事はその様子から理解できたが。


「まあ、最初から望遠鏡で覗かれてたら意味無いが」


 あくまで目立たない程度の物なので仕方がなかった。




「止まれ」


 匍匐前進をする兵士の1人が何かを見付けた。

「どうした」

「コレが落ちてた……薬莢だ」


 他の兵士達は最初は前装式ライフルで使う紙製薬莢でも落ちていたのかと思ったが、手元に真鍮製の薬莢を投げ込まれ驚いた。


「……マジかよ」

 薬莢の底部には“.303 Ⅰ 27 WBP”と刻印がされていた。


「.303口径(7.62ミリ)。後装式か」

 少なくとも、相手は銃口から火薬と弾を入れる必要がない。後装式ライフルの可能性が出て来たので兵士は動揺した。


「引き揚げよう、勝ち目がない」

 前装式と後装式では装填速度が雲泥の差が有るため、班員達はゆっくりと引き揚げ始めた。




「アイツら帰るぞ。どうする?」

 引き揚げに気付いた狙撃手は銃を構え何時でも撃てる様に引き金に指を掛けた。


「用意だけしてくれ」

 観測手は上官のジェームズに言われた事を頭で反芻しながら考えた。

 ジェームズからは「時間稼ぎを頼む」とだけ言われたがこの場合、無闇に攻撃するのは適当かどうか……。


「本隊も退くぞ」

 薬莢を見せられた指揮官が退却を指示し、反乱兵達は姿勢を低くし引き揚げ始めた。


「……撃たなくて良い。帰らせてやれ」

「……ふぅー!」


 −あくまで鎮圧が目的なのだ。虐殺じゃない。


 ジェームズに言われた事を思い出しながら、観測手は引き揚げる反乱軍を眺めていた。





「なんで戻って来た!」


 攻撃発起位置に戻ると、いけ好かない神聖王国の軍事顧問が怒鳴りつけて来たので、反乱軍兵士達はうんざりしていた。


「敵は後装式ライフルを持ってますよ。敵いませんよ」


 薬莢を投げて渡したが、軍事顧問はソレを一瞬見ただけで、態度を改めなかった。


「だから何だ?相手が強うそうだからって逃げ帰ったのか?」

「わざわざ相手の有利な状況で戦う必要は有りませんよ」


 普通に考えれば全滅しないまでも手酷く損害を受けるのは明らかなのだが、軍事顧問は怒り始めた。


「だからそうした!不屈の闘志が無ければ革命などできんぞ!」

「だったら、その不屈の闘志とやらで銃弾を弾き飛ばしてくださいよ、同志殿」


 最初に派遣された軍事顧問と違い、目の前に居る軍事顧問は「やれ、革命の使命」だの「やれ、平等」だの理想論ばっか振りかざしているので、実際に戦っているFELNの古参兵達と仲が悪かった。


「……もういい!貴様らは後ろに下がっていろ!」


 軍事顧問が何処かへ行くのを眺めつつ、戻って来た戦列歩兵達は攻囲陣地に戻る準備を始めた。

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