橋の確保
(回れ!)
先頭を行くアルトゥルのハンドサインで小銃を持ったアメリカ連隊の兵士達は茂みに身を隠しながら橋の入り口に立つ橋塔を取り囲むように動いた。
「……」
アルトゥルは茂みの中から慎重に双眼鏡で様子を探り始めた。
「旗はそのまんまだけど、アレは偽装のつもりか?」
「?」
不思議そうにするジェームズに、アルトゥルは「ほらよ」と双眼鏡を渡し、橋塔の方を右手の親指で示した。
「あー……。そうっすね」
ジェームズも元の男口調に戻るほど、目の前の光景はおかしかった。
人馬の反乱兵が3人見えるが、上半身に似合わない騎士の鎧を着け、作り物の馬の首を身体の前に結び付け、騎乗した騎士のフリでもしている様だった。
「塔の中には……。誰か居ますな」
入り口側の橋塔の窓の中で何かが動いたので、中にも兵士が居るのが容易に想像出来たが、外に居る間抜けが問題だった。
「ジェームズ、援護を頼む。俺は部下と橋を確保してくる」
アルトゥルは馴れた手付きで、オリーブドラブ色の戦闘服と一緒に渡された45口径の拳銃の遊底を動かし、弾を装填した。
「……将軍自ら行くことも有りませんよ」
「敵の実力をこの目で見ておきたい。まあ、無理はしないさ」
「川の水深は?」
「2から3メートル。下流に堤を築いて水深を増している上に、掘り下げているので水量の割に深いです」
アメリカ連隊に橋の確保を命じたニュクスは、ドミニカ達と橋が破壊された場合の渡河計画を詰めていた。
「川と言うよりも水掘りですからな。両岸も護岸され、川面と岸の高さも3メートルは有りますし。川幅が10メートル近いですが……」
ピウスツキ卿が川の状況を説明し、ヴィルノ族の工兵部隊の方を見た。
「ビトゥフの工兵隊は毎年、この川を使って渡河訓練をしています。1時間も貰えれば架橋出来ます」
「そうか……。では、渡河後の解囲戦の話だが」
次に、川を渡った後の事に話題が移り、カミルが偵察写真を机に並べ始めた。
「ピィーッ!」
アルトゥルが号笛を吹くと、アメリカ連隊の兵士達は一斉に立ち上がり突撃を開始した。
「フラアアアアァァァ!」
「何だ!?」
急に100人以上が草むらから飛び出して来たので、反乱軍の兵士は面食らった。
何が起きたのか理解が追い付かなかったが、人馬の1人が後ろ足を撃たれその場に倒れたので我に返った。
「ああ!アーッ!あーっ!」
兵士達が飛び出て来た茂みとは全く違う方向から銃撃を浴びせられ、無事だった人馬達も銃弾を浴びることを恐れ、その場から動けなくなった。
「敵だ!」
銃撃が止み、倒れた仲間を抱えて逃げようとしたが、人馬の体重は優に500キロを越えるので不可能だった。
「手を上げてその場に座れ!」
銃剣を着けた小銃を突き付けられて、外に居た人馬達は投降することになった。
「そら」
人馬を確保した小隊とは別の小隊は橋塔の確保に取り掛かっており、兵士2人が手榴弾を窓から投げ込み、他の小隊員が突入に備えて扉の前で待機した。
「行け!行け!行け!」
中で手榴弾2発が爆発する音を聞くと、兵士達はドアを蹴破り中に突入を開始した。
「何か拍子抜けだな」
ジェームズ達が援護射撃をしてから、突撃したアルトゥル達は一発も発砲すること無く橋塔の確保を終えた。
「敵も少ないですからね。対岸からは何も抵抗が有りませんし」
トントン拍子で事が進み、1個小隊が慎重に橋を渡り、対岸の橋塔を確保する局面に進んでいた。
「工兵隊に連絡。“橋脚の確認を求む”。以上だ」
「了解」
アルトゥルは爆薬が仕掛けられている恐れも考慮し、本隊を通す前に工兵隊に異常がないか確認をしてもらうことにした。
「敵襲だ!橋が攻撃を受けて落とされたぞ!」
ユゼフとホセ達がFELNの兵士達を退却させ、何とか攻囲陣地に戻ってくると、鎮圧軍の襲来で陣地は大慌てだった。
「もう来たのか……」
ユゼフがブレンヌスを捜し、周囲を見渡したが姿が見えなかった。
「リシャルドの所か」
「俺達も行きますか」
報告と状況を聞くために、2人は指揮所に使っているテントの方へと向かった。
「おい、誰か出てくぞ」
FELNの農兵の一団が城と反対側の柵に設けられた門を開け、外に出ていくのが見えた。
「西側の柵がまだ出来上がってないからな。時間稼ぎだろう」
オルゼル城側の設営は終わったが、反対側は土塁に柵を打ち付ける作業と棘状の枝を土塁に刺す作業と堀の中に木の杭を打ち付ける作業がまだ終わっていないのだ。
「アメリカ連隊が橋を抑えました!ハーバー将軍からは工兵隊の派遣を求められてます」
偵察写真をステレオグラムとして3D化出来る眼鏡で代わる代わる眺めていたニュクス達は伝令の報告で一斉に顔を上げた。
「了解、すぐに派遣して。他には?」
「それだけです」
事前の打ち合わせの中でアルトゥルから「本隊を通す前に爆発物の確認をしたい」と言われていたので、打ち合わせ通りでは有った。
「マレック卿とマルチン卿、部下を率いて後詰として橋の手前に布陣してくれ。工兵は予定通り動いてくれ」
「ハッ!」
「おまかせを!」
ワベッジ族とガヴトロフ族の騎士団を後詰に置き、万が一に備えることとした。
「敵発見!」
橋を再占領しに来た反乱軍に対処するためにオルゼル城の在る草原の手前、三叉路に布陣した2個小隊(約100名)は反乱軍兵士を発見した。
「気付いてないな。不用心な奴等め」
街道の砂利道を小走りで掛けてくる反乱軍は、コチラに気付いた気配はなかった。
(コレが爆発したら撃て)
中隊長がハンドサインを出し、各小隊長とサインを見た兵士達が他の兵士に、射撃用意のサインを伝達した。
手にした手榴弾のピンを抜き、安全レバーを飛ばして点火した。
(1,2)
2秒数え、手榴弾を空中に投げると中隊長は頭を下げた。
「Granat ręczny!」
正体を知る転生者の誰かが叫ぶとほぼ同時に爆発が起き、アメリカ連隊の兵士達は一斉に射撃を開始した。
「ぎゃあぁぁ!」
爆発音で耳をやられたが、腕がズタボロになり叫ぶ兵士の姿が見え、反乱軍の若い兵士は剣を放り出し、頭を両手で押さえるとその場に伏せた。
「……ぁ…ぁ」
「突っ込め!」
兵士の何人かは剣と盾を構え、銃声が聞こえる木立の方へ向かおうとしたが、盾や鎧が銃弾で貫かれ次々と倒れ込み、他の兵士は射線から逃れようと、街道脇に在る倒木や岩の隙間に殺到した。
「退け!撃たれるだろうが!」
開けた場所で、遮蔽物が無いの状況なので、僅かな遮蔽物を奪い合いが起きたが、直ぐに身体を晒していた兵士が撃たれその数を減らしていった。
「退却だ!一旦退くんだ!」
次々と退却を始めた兵士は撃たれる事無く、後方へと下るので、それを見た兵士も次々と退却を始めた。
「ピッピー!」
「退却だ!」
「逃げるぞ!」
戦いにならない事を悟った士官が退却の合図をしたので、動ける兵士達は一斉に下がり始めた。
ある者は武器や盾を投げ捨て、またある者は腰が抜けたのか這うように移動を始め。伏せていた兵士も大急ぎで走り始めたが。
「ぉわ!?」
走り出して数歩で、急に足を掴まれ兵士は派手に倒れた。
「た、助けてくれ!脚が動かねぇんだ!痛くも何とも無いのに動かねぇんだ!」
「ええっ!?」
知った顔の兵士だったので、這い戻り確認したが脚は何とも無かった。
「脚は何とも無いぞ。背中に怪我しているだけだ」
「でも、立てないんだ!感覚が無いんだよ!」
「おい!どうした!?手を貸すぞ!」
他の兵士が2人の元に駆け寄って来たので、背中を撃たれた兵士を2人掛かりで肩を持ち引きずって逃げ始めた。
「Cease Fire!Cease Fire!」
反乱軍の兵士達が逃げ出したので、中隊長は射撃を止めさせた。
「陣地変換だ!急げ!」
別に近代戦の様に重砲の砲撃が始まるとは思っていない。中隊長は持久の為に後方の陣地に下がる事で待ち伏せの場所を変える指示を出し懐中時計で時間を確認する。
すべてタイムスケジュールで作戦は動いていた。橋が安全か確認が終わり、本隊からの援軍が渡河する予定の1時間は粘る必要が有る。




