対抗演習
大人数が動く、場面は文字数ばかり多くなるなあ………。(´-ω-`)
「商会にはポルツァーノ商会の幹部やポルツァーノ兄弟の姿はありません。また、事件に関わる証拠品も特には…」
自分の執務室で椅子に座りながら、チェスワフ部族長は憲兵隊からの報告を聞き流していた。
「屋敷の方はどうだ?」
「地下道を見付けたと報告がありました。現在もダニエル法務官が調査しております」
チェスワフは不機嫌なのか、憲兵隊の指揮官を睨み付けると、椅子から立ち上がった。
「ご苦労だった大佐。下がって良いぞ」
指揮官に下がるように命じ、同席していたフィリプと目を合わせた。
「失礼致します」
ドアが閉まると2人とも深くため息を吐いた。
「ダニエルが地下道に気付いたか…」
机の上に手を組み、チェスワフは神妙な面持ちで口を開いた。
「早いな…。逆の方が良かったな」
フィリプも予想外の出来事に顔をしかめた。
「捕まると思うか?」
フィリプはポルツァーノの兄弟の身を案じたが。
「大丈夫だ。オルゼル城に向かったのは昨日だ。………それよりもニュクス様の部隊だが、いつ入城して来る?」
「明日の昼には入る筈だ。今は南部部族の兵を鍛えてる筈だ」
「「「わああぁぁぁぁぁぁ………!!」」」
槍を構え、突進してくる兵士達を前に、ニュクス率いる軍勢は槍を構え迎え撃つ態勢に入った。
1万人の歩兵が百人単位の横隊を組み、幾重にも隙間なく並び槍を突き出して構えているが、相手の兵士はお構いなしに突撃してきた。
「列を乱すな!」
この4日間、イシスに毎日馬の乗り方を練習させられていたニュクスは、馬上で自分が指揮する軍勢に檄を飛ばした。
現在、ニュクス達は南部部族連合と兵を半分に分け。青軍赤軍に別れ、実戦に即した対抗形式の演習を行っていた。
最初の頃とは違い、現在ニュクスが率いる赤軍は突撃を受けても、列が乱れ突破されることは無くなり。相手の突撃を受け止めた歩兵達は少しずつだが、下がり始めた。
「前進ラッパ!」
「はっ!」
前進を告げるラッパが吹かれたが、歩兵達はズルズルと後退し始めた。
「ピーッ!ピーッ!」
各小隊では、小隊長がホイッスルで“長二声”の号笛を吹き、小隊員に横隊を維持する様に指示を出していた。
小隊員も青軍の槍に突かれながらも、必死に盾で防ぎ、また自身の槍で逸らしつつ、ジリジリと後退を始めた。
「右翼から騎士を出せ!」
中央部が後退を始めたのを認めたニュクスは両翼に配した騎士のうち、右翼のクヴィル族の騎士団に攻撃を命じた。
「左!クヴィルの騎士が来ます!」
ニュクスと対峙している青軍を指揮する、ウルベル族のレオ部族長は、部下の報告で側面に回ろうとする騎士の動きに気付いた。
「こちらも騎士を差し向けろ」
「おー動いた動いた」
公平性を期す為に、上空にはポーレ族のマリウシュ部族長とクヴィル族のミハウ部族長が乗った竜が飛んでいた。
「ドミニカを…差し向けるんですね…」
「うん!?」
前世ではパイロットだったミハウ部族長とは違い、マリウシュは高いところを飛ぶ竜に未だに慣れないでいた。
「おい、マリウシュ!シャキッとせんか!」
後ろの席に座るミハウ部族長が手に持つ指揮棒でマリウシュ部族長の背中を叩いた。
「おい、ミハウよぉ!あんま若いのを苛めなさんな」
竜の手綱を握る竜騎士がミハウの狼藉に気付いて窘め始めた。
「お前だって、最初はビビってたろ」
この竜騎士は前世からの付き合いだが、端から見てると行儀の悪い若者にしか見えんかった。
「やかましいは!甥っ子がだらしないからしつけとるだけじゃ!」
「相手は誰だ!?」
命令を受け、前に出たワベッジ族の騎士団長のマレック卿は相手の騎士が誰なのか気になった。
「マルチンか!?どうだ?」
部族は違えど、ガヴトロフ族の騎士団長のマルチン卿とは歳が近く、初陣も一緒だったので機会を見付けては互いに試合をする仲だった。
今も演習そっちのけで、マルチン卿と勝負するつもりでいた。
「違います。…薄い緑に白い蝶のシンボル………!!相手はドミニカです!」
日本の家紋の一種である蝶紋を旗印にした女騎士ドミニカが先頭に居るのに気付き大声で叫んだ。
「げぇ!」
「突っ込めー!」
「「「うおおおおぉぉぉ!!!」」」
薙刀を振り回すドミニカを先頭に楔形の陣形で突撃するクヴィル族の騎士団を前にし、マレック卿は慌てた。
「む、迎え撃つぞ!」
マレック卿だけでなく、配下の騎士団員も浮き足立っていた。
ドミニカが怖いのも有るが、クヴィル族の騎士団は結構厄介なのだ。
ドミニカ達、騎士が突撃する直前に騎乗した従士達が山なりに弓矢を浴びせてくるのだ。
そして、今まさに。騎士が突撃しようとしているが、頭上から大量に矢が降り注いできた。
「あ痛ぁ!」
「ヤられた!」
大怪我をしないように、刃が付いていない矢だが当たれば当然痛かった。
「ああ!多いんじゃ!」
仲間の騎士が居るにも関わらず雨霰の如く矢が降り注ぐので、マレック卿は手を焼いた。
一方、突っ込んで来るドミニカ達は、武士よろしく母衣を背負っているので、背後から放たれる矢に当たっても。母衣が受け止めるので殆ど無傷だから、このような真似が出来るのだ。
「ぬぅ!」
ドミニカが大きく薙刀を振り下ろしてきた。
「うわ!った!」
薙刀で斬り込んできたドミニカが、一瞬身長3メートル以上有るような錯覚に陥ったが、マレックは盾でなんとかそれを弾いた。
「ギィャアアヤアアア!!!!」
弾かれたドミニカはすぐさま、猿叫を上げながら薙刀を一周振り回すと、石突きでマレックの右脇腹を目一杯打ち付けた。
「っか!」
痛みから叫ぶと事もままならず、マレック卿は馬上から吹き飛んだ。
「キィエエエェェエエ!!!」
ドミニカの父親のピウスツキ卿もまた激しかった。
此方は猿叫を上げつつ、日本の十文字槍で大暴れしていた。
「うげ!」
普通の槍と違い槍穂の根元から、更に左右に伸びた穂に肩を引っ掛けられ、バランスを崩すと落馬し、ピウスツキ卿に槍で突かれた。
「………激しいな」
4日目だが、他の騎士団を蹴散らすドミニカ達を見て、イシスは呆気に取られた。
「わっはっはっはっは!」
…不思議と目立たないが、大声で笑っているドミニカの弟も2メートルは有る金棒を振り回し、3人ほど吹き飛ばしていた。
「………ドミニカさんは転生者だって聞いてたけど、ピウスツキ卿と弟さんもだっけ?」
「さあ?」
ドミニカの従士のリリア達も何だかんだで、手練れの騎士相手に大立回りをしているのだが、ニュクスからすれば側面の安全が確保できれば良いのでどうでも良かった。
「左翼も騎士を出せ!敵の騎士を討たせろ!」
「青軍の騎士はもうダメだな…」
ミハウ部族長は戦況の変化を時系列順に書き記していた。
「叔父さん!赤軍の歩兵が弓形に退き始めたよ」
此処でマリウシュ部族長は赤軍の陣形の変化に気付いた。
「中央はまだ破れんのか?」
自分達側の騎士達が壊滅仕掛かっているが、レオ部族長達には状況が伝わらず、歩兵の指揮に専念していた。
「もう間もなくです!」
赤軍は中央が徐々に後退し、中央部が間延びしたことで、レオ部族長は間もなく分断出来ると考えていた。
「勝ったな!」
レオ部族長は勝利を確信した。
指揮官が入れ替わる形で行われた実践形式の対抗演習だったが、4回目で初めて完全勝利が出来そうだった。
過去3回は、どちらも混乱し勝敗が着かなかったが。
今回は相手を分断し、指揮官から孤立した方を先に制圧すれば良いとレオ部族長は考えていた。
「こりゃ赤軍の勝ちだな」
「え?」
マリウシュが上空から見た限りでは、赤軍が押されているように思えた。
「まあ、直ぐに判るさ」
「軍太鼓を!」
ニュクスが命じると、ラッパの他に軍太鼓の音が戦場に響き渡った。
「ピッピーィ!」
小隊長達は“短長一声”の号笛を吹くと歩兵達は3歩下がった位置で完全に停止し壁のように盾を構えた。
「っ!?」
整然と停止した赤軍を前に青軍は止まり、一瞬戦場が静まり返った。
「突撃!」
ニュクスの号礼で角笛が吹かれ。
各小隊長が“長一声”の号笛を吹いた。
「ピーッ!!」
「わああぁぁぁぁぁぁ!!」
赤軍が全面で攻勢に転じ、一転青軍が押され始めた。
「急ぐぞ!」
そして、赤軍の両翼に布陣していた赤軍の歩兵達が前進を始めた。
「敵が動きます。両翼より前進を開始」
レオ部族長が指揮を執る青軍の歩兵部隊がみるみる三方向を囲まれ半包囲の状態になった。
「なっ…いつの間に!?」
正面にだけ敵を見ていた筈が、全く認識していない敵が急に現れたので、レオ部族長だけでなく、青軍の兵士達にも動揺が広がった。
「正面に兵力を指向しろ、敵を分断を優先しろ!」
「後方より騎士です!ドミニカが来ます!」
「なっ!」
味方の騎士団が対処している筈のドミニカ達が後方から来たので、レオ部族長だけでなく幕僚全員が硬直した。
「突撃ぃーーー!」
「わああぁぁぁぁぁぁ!」
完全に予想外の出来事に遭遇し、思考が停止しているレオ部族長と幕僚達の目の前で後詰めの歩兵や弓兵が打ち倒され、瞬く間にドミニカ親子が迫ってきた。
「退け!退けー!」
前方の歩兵は守りが固く、左右も囲まれ逃げ道はないが、同時多発的に退却を始めた兵士が中央部に殺到し始めた。
「勝負有った………。演習終了の合図を」
「判った」
「うわ!?」
竜騎士が竜を急降下させ、演習終了を告げる信号弾を打ち上げた。




