ポルツァーノを追え
法務官のダニエルが手で合図をするとヴィルノ族の兵士が一斉に動き出した。
「やれ!」
小隊長に命じられ、大槌を持った兵士2人が大通りに面した両開きの扉を叩き壊した。
「動くな!」
「憲兵だ!動くな!」
憲兵隊が踏み込んだのは、ビトゥフに在るポルツァーノ家の屋敷。同じタイミングで、別の場所に建つポルツァーノ商会の商館と倉庫にも憲兵隊が一斉に踏み込んでいた。
「抵抗は有りません。全員大人しく、取り調べに応じています」
現世で父親であるチェスワフ部族長に屋敷の捜査を任されていたダニエルは、憲兵隊の報告に“ああ、やっぱり”と肩を落とした。
「ルイージ氏とマリオ氏は居ないんだな?」
「…はい、使用人全員。此処には居ないと」
前もそうだった。
前世で、マフィア抗争が勃発した時も、ポルツァーノ兄弟と一家の幹部は全員姿を隠し、一切動向がつかめなかった。
唯一、FBIが手に入れられた情報では、イタリア本土のマフィア、ピエリ・ファミリーと会合を開いたが、そこで銃撃された事だけが、目撃者の証言から判った。
「今度は何処に雲隠れしたと思う?」
ギブソンは城塞に連行される使用人を眺めながらダニエルに質問した。
「北の大森林に出来た村じゃないの?アッチにもポルツァーノ家の屋敷が在るし」
まだ一般には公表されては居ないが、転生者が集まった村の噂は広がっており。
法務官であるダニエルや、街の衛兵に所属するギブソンも“転生者のコミュニティー”に興味が有り一通りの情報は集めていた。
「だが、街どころかこの地区から出た記録がない。この地区の何処かには居るはずだが」
4日前にビトゥフの街で輜重隊の建物や鍛冶ギルドの建物が爆破されて以降、チェスワフ部族長の命により、ビトゥフの街には“戒厳令”が敷かれていた。
通りには常に兵士が立ち、街への出入りは制限された。
また、住民もテロの恐怖に怯え、不要な用事で外出する者は居なかった。
「ダニエル!隣の建物も封鎖してくれ!」
屋敷を一通り見て回っていたカニンガムが叫びながら2階から降りてきた。
「ああ、判った。……ヤスラ、憲兵に指示してくれ」
ダニエルは部下のヤスラに封鎖する様に命じた。
「幹部でも居たのか?」
ギブソンが質問したが、カニンガムは直ぐに否定した。
「違う誰も居ないが、隠し部屋だ来てくれ!」
カニンガムは手招きすると踵を返し、再び階段を登り始めた。
「寝室の方だが、隣の建物に通じてるみたいだ」
「隣だって?」
「ああ、そっから出入りしたんだろ」
3階に上がり、廊下を進んで直ぐの部屋に入るとカニンガムは本棚の1つに近付いた。
「ベタな仕掛けだが…」
3人に気付いた憲兵が本棚から離れると、カニンガムが本を1つ引き倒した。すると本棚が音を立てて動き始め、秘密の入り口が現れた。
「隣の建物の屋根裏部屋に通じてるみたいだ。」
本棚が退いて現れた上に通じる階段を見て、ダニエルとギブソンは顔を見合わせた。
「すごいな」
驚くダニエルと対照的に…。
「全く…」
ギブソンは「バカみたいだな」と言いかけたが。
「良いなコレ。帰ったら家にも作ろう!」
ダニエルが子供のようにはしゃぐので、ギブソンは言葉を飲み込んだ。
「ったく……)なんで判ったんだ?」
カニンガムが屋敷を調べ始めてから余り時間が経っていない事にギブソンが気付き質問した。
「家にも在るんだ…。行くか」
カニンガムが懐から懐中電灯風の光石のライトを取り出し、リボルバー式の拳銃を構えた。
「やれやれ…。ダニー何時まで見てるんだ。行くぞ」
ギブソンも拳銃とライトを取り出すと、隠し扉の機構を眺めていたダニエルを小突き階段を登りだした。
3人とも拳銃にライトと、前世と全く同じ事をしているのは何か可笑しく思えたが、ポルツァーノの部下が銃を持っている恐れが有るので短剣よりも拳銃のほうが安全だろうと考えた結果だった。
「扉だな」
1フロア分登った先には古い木の扉が有った。
「…開けるぞ」
ギブソンがドアノブに手を掛けようとしたのをカニンガムが左手で制した。
「待った。トラップが有るかもしれん」
そこそこ腕が立つ冒険者のカニンガムは懐から砂時計の様な物を取り出した。
「魔法具か?」
「箔検電器の魔力バージョンみたいな物だ」
ギブソンが首を傾げたので、ダニエルが説明を始めた。
「あれだ、ガラス瓶の中に金属箔が2枚入ってて、蓋の部分に帯電している物を近づけると、箔の電荷が蓋に移動すると、お互いに反発して箔が開く科学の実験機材の」
「あー…なるほど…」
一瞬何だったか忘れていたが、ダニエルの説明で箔検電器を思い出したギブソンは、カニンガムが魔法具を扉に近付けるのを見ていた。
「…大丈夫そうだな」
箔検電器とは違い、本当に砂時計の様な見た目だが、何も変化しないのでカニンガムはドアノブに手を掛けた。
「開けるぞ」
ドアノブを回し、ゆっくりと扉を引き開けた。
「暗いな」
カニンガムがそう言った直後だった。
突然、銃声が扉の向こうで鳴り、扉の上半分が階段側に吹き飛んできた。
「クソ!」
1発目に続いて2発、3発と断続的に発砲が有り。
3人はその場に倒れ込むように伏せると、カニンガムの真横に居たギブソンが、扉の下半分越しに銃を乱射した。
「何だ!?」
ポルツァーノ屋敷や3人が居る隣の建物に入っていた憲兵とヤスラ達は音がする方を見た。
「銃声だ!」
「行くぞ!」
「あークソ!ごらぁ!ポルツァーノ出てこい!」
完全に頭に来たギブソンが叫びながら拳銃に弾を込めた。
「待った。待てってギブソン落ち着け!あれから撃ってきてないぞ」
ダニエルの一言で、ギブソンはようやく撃つのを止めた。
「ああ…ったく。何だ?」
「ブービートラップか?」
カニンガムは腰に差していた剣を鞘に収まった状態で手に持ち、鍔の部分を引っ掛け扉を引くと、散弾銃が3挺。銃口を扉に向けた状態で戸棚にグルグル巻にされていた。
「開けると引金が引かれて弾が出る仕組みか…」
各散弾銃に繋がる紐の長さはバラバラで、時間差で発砲される様に調整されていた。
「アイツらの場合は魔法よりこういう罠の方を警戒したほうが良いな」
カニンガムは部屋の中を照らすと銃を構え直した。
「誰も居ないな」
「どっかに出口が在るんじゃないか?」
ダニエルとカニンガムが先に部屋に入り、ギブソンが後に続いた。
「ぱっと見、武器庫か」
「だが、幾つか無いな」
そこは剣や鎧、更には銃が並ぶ武器庫だったが、空のラックが幾つか有った。
「鎧2つに長い剣は2本、短剣4本、拳銃2挺…2人分だな」
「ポルツァーノ兄弟のじゃないか?」
他に無くなった物が無いかと、3人は軽く見渡したが、そもそもラックなどに収まっていない物は無くなったかどうか判る訳はなかった。
―ギッ…―
壁の一部が軋み音を立てながら動いたので3人は銃を構えて叫んだ。
「NYPDだ!武器を捨てろ!」
「FBIだ動くな!」
「連邦捜査官だ!」
三者三様に叫んだが、銃を向けられたので壁の向こうに居た人物は大慌てで手を上げた。
「ぼ、僕です!ヤスラですよ!」
3人は顔が見えない位置にライトを掲げているが、声からダニエル達だと気付き、ヤスラは名を名乗った。
「何やってるんだ!?」
ギブソンが乱暴にヤスラの首根っこを掴み、部屋に引きずり込むと現れた壁の向こうを覗き込んだ。
「隣の建物の3階から普通に階段から上がってきただけですよ!」
ギブソンが足元を見ると、良く廊下の天井に備え付けられた収納タイプの階段が3階へ降りているのが確認できた。
「なるほどな…」
「なあ、ヤスラ。そっちは何か有ったか?」
ギブソンに手荒に扱われたヤスラだったが、ダニエルに質問されると、気持ちを落ち着かせてから何を見つけたか話し始めた。
「地下の食料庫に抜け穴が在りました。今、憲兵隊が調べてますが、恐らく下水道を通って外に出ているかと」




