詠唱の短縮
夜のファーガソンは静かそのもの。
酒場が一軒あるが、そこ以外はひっそりと静まり返っている。夜中に出歩く人も少ないので、こっそり散歩するくらいなら普通にできた。
俺はこの前見つけた秘密基地に到着すると、魔法の特訓を始めた。
基本の三魔法は覚えているが、その他はまだ使えない。というか、魔力の消費が高すぎてどうやら使えないらしい。
俺が今以上に魔法を使えるようにするためには、魔力の限界値を上げる必要がある。つまりレベルを上げなくてはいけない。
レベルを上げるには戦わなくてはいけないが、ここが一番の問題だ。何しろ殺される可能性がある。
それと、魔物と戦うにはこっそり村の外に出なくてはならない。体が小さい俺が一人でこれらを行うだけで、十分過ぎるほど危険だった。
しかも誰かに同行を頼もうにも、手伝ってくれそうな人はいない。パメラに同行してもらうのは危険過ぎるし。
そんな俺が唯一頼りにできるのは魔法しかなかった。でも、その魔法にだって不安要素がある。
林の中に入ったところで、イリスに質問をしてみることにした。
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魔法の詠唱について
詠唱と魔法陣を出現させるには時間がかかる。一人で戦う場合には、発動前に敵に倒される可能性が高い。
だから可能な限り短縮させたいんだけど、何か方法がないだろうか
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詠唱と魔法陣。この二つが出現する前に攻められたらおしまいだ。
魔術師はこの欠点を、仲間に守ってもらうことで補っているらしい。俺もできればそうしたいが、ぼっちなのが悲しい。
イリスからの回答がすぐにくる。
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魔法の詠唱と、魔法陣の短縮化をご希望されているのですね。
はい! 短縮させる方法はいくつかありますが、この魔法生成AI独自の、圧縮詠唱設定が特におすすめです。
圧縮詠唱設定とは、詠唱文字を一字に圧縮、かつ思い描くだけで魔法陣と共に出現させ、魔法を発動させることができるものとなります。
※私を装着の上、過去に一度でも使用したことがある魔法に限ります。
私の機能を用いれば、実質詠唱なしと同じように即発動することができます。
圧縮詠唱設定を使用したい魔法を教えていただければ、登録後すぐにご利用が可能となります。
ご検討ください!
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「……え?」
まったく予想もしていなかった回答で、俺は少しのあいだ固まってしまった。
圧縮詠唱設定、などという単語を初めて聞いたが、要するにイリスに使いたい魔法を登録さえすれば、詠唱なし同然に使えるというのだ。
ただ、イリスに触れて使ったことがある魔法でしか、圧縮という設定にはできないらしい。
これは便利すぎる。というか、そんな機能を持ち合わせていたなんて。俺は興奮を覚えつつ、早速お願いしてみることにした。
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凄いな。そんな機能があるなんて知らなかった。
早速使わせてほしい。
ファイアボール、サンダー、フリーズを圧縮詠唱設定にしてくれ。
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私にはさまざまな機能が搭載されています。
すぐに使用したいということですね。
かしこまりました!
それでは、私を体に接続させてください。
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接続というのがちょっと不思議な表現だが、要するに以前やったように、腕を魔道具に触れさせれば良い。
腕にイリスが触れると、すぐに形を変えて腕輪のようになった。白い輝きと共に、何らかの処理が行われている。
続いてこれまでにない赤青黄色の輝きが、目まぐるしく周囲を照らしていた。
かなり派手な光り方をしているので、家でやらなくて良かった。バレバレなんてものじゃない。
などと呑気に構えていたのだが、次の瞬間にそんな余裕は吹き飛んだ。
「う、おおお!?」
突如として頭の中に、多くの詠唱文字が流れ込んできたのである。
まるで勝手に想像させられているような、奇妙な感覚だ。
それは高速すぎるがために読むことはできないが、魔法を使うためにイリスが流していることはすぐに理解できた。
少しだけ頭がクラクラしたが、文字が消え去ったところで、体は何ともなくなっていた。
一分ほどして、腕輪の液晶に文字が表示された。
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お待たせいたしました。
これでリザン様は、ファイアボール、サンダー、フリーズについて、一つの詠唱文字を思い浮かべるだけで発動が可能となりました。
※私の装着、非装着を問わずご利用できます
または私を装着している際のみ、魔法の名前を喋るだけでも発動ができます。他にも発動方法がいくつかございます。
魔法の発動設定機能を解放しましたので、お好きに決めてくださいね!
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「発動設定?」
とりあえずイリスの画面内にある、歯車のマークを押してみる。
すると確かに、幾つもの項目の中に音声発動というものがあった。
これにもON・OFFがついている。
まず、イリスを腕につけているという状況は、日常ではほとんどない。
なので、特別必要な設定は今のところ思い浮かばない。別に変えずでも良いと考えた。
設定についてはおいおい考えるとして、早速だが魔法を使ってみたい。
夜中とはいえ騒ぎになると大変なので、一番影響の少なそうなフリーズの魔法を使うことにする。
イリスによれば無詠唱同然ということだが、本当にできるのか。フリーズの魔法の圧縮された詠唱文字。それはすぐ頭に思い浮かんだ。
文字の中に雪を思わせる絵が入っており、一文とは思えなくらい大きな文字だ。
それが浮かんだ瞬間に、周囲の景色が変わったような気がした。
「あ……ああ……」
この景色を変えているのが、俺自身であることに気づいたのは十秒ほど後のこと。
あまりにもあっさりと、魔法が発動できる状態になっている。足元には魔法陣が浮かんでおり、その光が周囲を照らしていたようだ。
俺は左手を向けて、それを解き放った。吹雪が枯れ木に降りかかり、やがて凍らせてゆく。
魔法は思っていたよりも簡単に、かつすぐに放つことができていた。この事実に俺は感動せずにはいられない。
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素晴らしい。本当に一瞬で準備が整った。
これなら護衛をつける必要もない。
ちなみにどんな魔法でも、こうして詠唱と魔法陣を短縮できるのか?
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お褒めいただきありがとうございます!
この世界においては、類似の方法で詠唱なしで魔法を発動できる魔術師が存在しており、護衛がいないという人も少数存在します。
ですが魔術師にとって、接近戦が危険であることは変わりません。
可能な限り守っていただける人を連れた上で、魔法をご利用されることをお勧めします。
圧縮詠唱設定は、どのような魔法であってもご利用が可能です。
他にも圧縮をご希望の魔法がありましたら、いつでもお申し付けください!
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なるほど。言われてみれば確かに、結局魔法を放つ時には、どうしても隙は生まれる。
でも今の俺には護衛になってくれそうな人はいない。可能な限り自分で守りながら、やってみる以外にはない。
魔力切れが近く、意識がぼんやりとしていた。
俺はこの日は切り上げ、明日もう一度色々と試してみることにした。
そして近いうちに必ず実戦を行い、レベルを上げてみせる。そう意気込んでいた。
しかし不思議だ。魔力は数値みたいだし、レベルもあるわけで。つまり他にも数値が色々と内部に人間の内部にあることになる。
これはまさにゲーム世界のようだが、違うのだろうか。
イリスは女神の命令により、それについては答えない。
この謎は長い間、俺にとって実に興味深い謎であり、日が経つほどに神秘は増していくばかり。
俺があまりに魔法に傾倒するようになったのも、こうした謎に満ち溢れたものだったからもしれない。




