魔術師っぽい格好
前世はとにかく朝が苦手だった。
仕事の疲れが取りきれず、起き上がることさえ苦労していた。
そんな状態であるにも関わらず、早朝から満員電車に揺られて会社に向かう。
あの毎日はしんどかったけれど、転生して子供になると全く違った。深夜に魔法を使用し、ふらついていたのが嘘みたいに元気だ。
ちなみにその日もまた、ポールに馬車馬のようにこき使われたが、どうにか夕方には解放された。
一着しかない服がだいぶ傷んでいる。しかし、全裸に近いくらい崩壊しない限り、あの男は服を買ってはくれない気がした。
貧乏で栄養も足りていない、見窄らしい姿。前世でも格好は気にしない俺だったけど、さすがにこれ以上酷くなるのは勘弁である。
秘密基地に行く前、なんとなく村のお店どおりに立ち寄ってみる。すると良さげだけど、俺には買えない子供用の衣服が沢山あった。
タダ働きの子供には、どうしたって買えないものばかり。なんだか悲しくなってしまう。
ただじいっと見つめているしかなかった。
「わっ!」
「うお!?」
そんな中、ふといきなり後ろから脅かしてくる誰かがいた。振り向いてみるとパメラだった。
「リザン、どうしたのー? 服が欲しいの?」
「あ、ああ……でも俺、お金ないからさ」
「ふーん。あ、待って。あたしの家にもう使わない服があるけど、いる?」
「え? でも女物だろ?」
いくらまだ小さいからといっても、女子の服を着るのは嫌だ。でもパメラは、ニコニコ笑いながら否定する。
「男が着ても大丈夫だよ! っていうか、服じゃなかった」
「服じゃなかった?」
「うん! ねーねー、一回だけ着てみてよ」
「え? いや、それは」
「大丈夫大丈夫! カッコイイよ!」
こういう流れで、なぜかパメラにお願いされる形になり、違和感を覚えながらも家にお邪魔することになった。
パメラの家は、前世の地球でいうどこにでもありそうな一軒家という感じ。
ポールの家よりは遥かに立派だが、村の中でとりわけ裕福というわけでもない。つまりはごく普通だった。
俺はわざわざお菓子まで貰いつつ、家の物置に案内された。
中には使われていない道具がぎっしり格納されていて、生活用品ならここでひととおり揃いそうなほど。
「なあ、そろそろあった?」
「まだ? あれー? ここだったんだけど」
俺はパメラを肩車しており、そのカッコイイ何かが見つかるまで重みに耐えている。
この体勢はけっこうしんどい。というか、普通は小さい方が上になると思うんだけど。
なんとか耐えること二分くらい。とうとうパメラは目的の物を見つけた。
「あったー! これこれ、リザンなら、絶対似合うよ」
埃と共に彼女をおろし、その似合うらしいものを目にする。
「マント?」
「そう! しかもフード付き。カッコ良くない?」
パメラはそう言いつつ、俺の前で黒いマントを広げてみせる。
この体にはちょっと大きいかもしれないけど、確かに上等だし悪くない。
「いいね。これ、確かに便利だ」
俺はマントを着て、意外にしっくりきていることに気づいた。
それに魔法使いっていうのは、こういう格好をしているイメージがある。形から入っているみたいだけど悪くない。
上機嫌になったこちらを見て、パメラは嬉しそうに笑っていた。
「やっぱカッコいいじゃん!」
「ああ。でも、俺お金とかないし、」
「いいよいいよ! 上げる。出世払いね!」
「悪いな。まあ、いつか出世したら払うよ」
「うん! じゃあ来週ね」
「早くね!?」
「あはは! ねえねえ、もうちょっと探してみる?」
パメラはこういう冗談が好きだ。俺もなんとなくツッコミが早くなってきたような気がする。
「あ、それとこれも上げる! あたしが作ったんだ」
「ん? これって、ポーション?」
「そう! 最近アイテム作りを教わってて、ハマってるの。ファーガソンにはいろんな植物や草があるから、けっこう簡単に作れるよ」
「凄いな……じゃあ貰っておく」
「うん! 今もっと珍しいの作ってるの。できたらあげるね」
ポーションは透明の瓶に収められていた。青色の液体はちょっと不味そうだけど、良薬っていうのはまずいもの。
彼女にアイテム作りの才能があったことを知ったのは、この頃だった。後になってイリスに聞いてみたら、ポーションはそう易々と作れる簡単なものではないのだとか。
こんな感じで予想外のプレゼントをもらい、俺はテンションが上がっていく。何のことはない倉庫が、遊園地みたいに思えてくる。
その後は、二人で物置の中を調べて遊んでいた。一時間くらいはそこにいた筈だ。
しばらくして、ふと少し遠くから鐘の音がした。これはファーガソンの夜への鐘と呼ばれており、鐘が鳴った後は酒場以外は閉店となる。
そういうご当地ルールがあるわけだが、これに焦ったのはパメラだった。
「やっば! もうお母さん達帰ってきちゃう」
「あ、じゃあ……俺もう帰るわ」
「うん! またね」
「うん……あれ? これって」
「え、どしたの?」
ふと、物置の角に置いてあった小さな枝みたいな物が目についた。
埃をかぶっているそれは、どうやら杖のようだ。
「あ! それ、ワンドっていうの。ステッキよりも短い杖なんだって」
「へえー。なあ、これも貰っていい?」
「いいよ! もう捨てるっぽいし」
奇遇なことに、こうして俺はマントと杖を手に入れることができた。
なんとなく、小さな魔術師っていう感じの見た目になった。形だけは出来てきている。
家に帰ると早速ポールに詰められたが、パメラから貰ったというとそれ以上は追及されなかった。
そしてその後、深夜になって俺は家を抜け出し、秘密基地へと向かう。
黒いマントは夜の闇に寄り添い、遠くからでは姿が分からない。
まさに初心者魔術師という風貌になった俺は、隠れ家に着くなりイリスを取り出した。
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ファーガソン周辺で、レベル上げができる場所を探している
レベル上げをする人間は俺一人。体は子供で、武器は魔法が一回使えるのみ
使える魔法はファイアボール、サンダー、フリーズだけ
一応懐に果物ナイフはあるが、あまり武器にはならない
この条件でレベル上げのため、魔物と戦える場所はあるか
最初なので、できる限り安全なところにしたい
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今日こそはレベル上げを始めたい。使える魔法を増やすには、今の微量すぎる魔力では話にならない。
AIイリスは十秒ほどしてから、こういう回答をくれた。
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ファーガソン周辺でレベル上げをしたいのですね!
子供でも戦える魔物と最適な場所をお伝えします。
ファーガソンの南門を抜け、川沿いに進んだ草原が適しています。
たまに水場を求めて魔物が現れますが、世界中で見ても最弱クラスの魔物ばかりとなり、かつ単身で現れる場合がほとんどです。
魔物の出るゾーンから南門までは、子供の足でも五分から十分程度で到着できるため、いざとなったら走って逃げることも可能です。
その他の地区としては、ファーガソン北の森を抜けた所などがありますが、大人でも殺される可能性がある危険区域となります。
西と東はしばらく魔物がおらず、出会うには数日を要する地域となります。
ファーガソン南と比較すると、かなり強い魔物ばかりが出現するため、大人でも単身では出歩けないほどです。
もしファーガソン以外でも魔物退治をご希望の場合、いくつかおすすめの場所をご紹介できますため、お気軽にご質問ください!
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ファーガソンの南門。俺の家からはけっこう遠いが、夜中にあそこから出入りしても、そこまで目立たない気がする。
とりあえず様子を見るため、俺は隠れ家を出て南へと向かった。




