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田舎の厄介者、王都で転生特典の【魔法生成AI】を使い聖女を救ったら人生が激変してしまう  作者: コータ


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レベルアップ?

 だいたい二十分くらいで、俺はファーガソンの南門に着いていた。


 門は夜になって閉められたようだ。鍵もかかっている。


 さてどうするか。ぐるりと囲まれた壁を乗り越えて行こうとすると目立つだろうし、もしかしたら見ている人がいるかも知れない。


 少し遠くから様子を見ていた俺は、ふと気がついた。木材で作られた壁は思っていたよりも痛んでいて、所々に穴が空いている。


 中でも一つ、なかなかに大きな穴があった。それは南門より二十メートルくらい離れた場所にある。


 十歳の小さな体であれば、通り抜けられたりしないだろうか。


 こっそりと近づいていき、しゃがんで穴を観察する。つっかえるかも知れないが、いけそうだ。


 そう考えてすぐさま行動に移した。なるべく静かに腹這いになり、穴の中に入っていく。


 そして少しのあいだ苦しい思いはしたけれど、予想どおり穴から外に出ることができた。


 衣服についた草を払いのけながら立ち上がり、外の世界を一望すると、少しばかり緊張してくる。


 夜の闇に包まれた川と草原。この先に異形の生物……つまり魔物が待ち受けていると思うと、背中のあたりが寒くなってきた。


 思えば前世の頃はおとなしい人生だったし、殺し合いはもちろん喧嘩の一つもしたことがない。


 不良みたいなのに絡まれたら、どうにかして逃げていたものだった。


 そんな草食系の見本のような男が、バケモノと戦うことを望んでいる。


 だんだんと怖くなってきて、今日は帰ろうかとも思った。でも、結局のところ俺の足は前に踏み出していた。


 このままじゃ俺は、村でこき使われた末に何を得ることもなく人生を終えてしまう。


 せっかく与えられた新たな人生だ。そんなつまらないことで終わりたくない。だから俺は、緊張しつつも夜の草原へと足を踏み出していった。


 AIイリスはズボンのポケットの中だ。左手にお鍋の蓋を手にして、右手にはワンド。懐には果物ナイフ。


 これが精一杯の装備である。けれど悲観する必要はない。


 俺には魔法がある。たった一発のそれで仕留められずとも、致命傷を与えるくらいできれば上出来だ。後はナイフか素手……または近くの石でも使うか。


 真っ直ぐに川沿いを進む。もし複数の魔物が現れたら、すぐに走って逃げようと思っていた。


 AIイリスに聞いたところ、最低クラスの魔物はいずれも足が遅い。それが本当なら逃げ出すことができるはず。


 しばらく川沿いを歩いていると、何かが蠢く姿を目にする。一気に緊張が高まり、俺はまだまだ距離があるというに、杖と盾を構えながらそいつに近づいていった。


 でも、すぐそこまで迫ったはずが、川には特に魔物の姿は見つからない。


 どうしたことだろう。もしかしたら恐怖と緊張で、目の錯覚でもあったのかな。


「まったく。どうかしてる」


 そういい、ため息を漏らそうとした俺は、ふと視界を何かが横切ったことに気づく。


 そいつは川の中から、まるで飛翔するように飛びかかってきた。慌てて右方向に目をやると、何かブヨブヨとした塊がこちらに迫っていた。


 この時、すぐに魔法を放つべきだったが、突然の緊張に頭の中が真っ白になってしまう。チャンスを一つ逃した。


 すぐそこまで迫ってきたそれは、RPGでよく見るゼリー上の魔物、スライムだった。


 早く魔法を。そう思った矢先に、奴は飛びかかって体当たりをかましてきたのである。


 小さな男子の体では、スライムの突撃を跳ね返せるはずもなく。ただ無様に川辺を転がるしかなかった。


「う! く、こいつ」


 石が身体中に当たって痛い。俺は転がされながらも起きあがろうとする。だがスライムは容赦なく二度、三度と猛烈な体当たりを続ける。


 このゼリーの怪物は、こちらが体勢を立て直すことを許さず、一気呵成に攻め落として命を奪う気だ。


 今までの人生で感じたことのない、本物の殺意。極めて鋭利な刃を思わせる感情が、俺の心に恐怖を植え付けようとする。


 どんなゲームでも、こいつはただの雑魚でしかなかったのだ。それが現実に出会ってみたらどうだ。まったく印象が違う。


 しかし俺もまた必死だった。四回目の体当たりがきた瞬間、左手に持っていた鍋の蓋を突き出したところ、スライムは真っ向からぶつかって弾け飛んだ。


 ゼリーとは思えない硬い感触があり、肩の筋肉にまで衝撃が伝わってくる。


 ぶちゅっという嫌な音までして、若干の吐き気を覚えつつも、俺はどうにか立ち上がった。


「ここだ!」


 スライムが大地の上で、まるで悶絶するように震えていた。


 直感的に、奴がすぐには立ち直れない衝撃を受けていると判断した俺は、杖を向けてたった一つの詠唱文字を思い浮かべる。


 すぐさま目前に現れた、オレンジ色の輝き。ファイアボールが敵を襲う。


 今度は振りかぶるのではなく、杖を対象に向けるだけ。それは閃光の如くスライムへと突き進む。


 敵が火球を浴びて轟々と燃える。悶絶しながらも川の中へと飛び込もうとしたのか、いくらか動いたものの、すぐに沈黙して黒い炭に変わっていく。


「か、勝てた……」


 思わず呟いていた。勝利の喜びよりも疲労感が勝っている。


 そういえば杖を向けて打ち出す時は、追加で微量の魔力を消費するという話だった。


 つまり俺は、いつもより多くの魔力を消費してファイアボールを使ったことになる。


 いつもだってギリギリなのに、今回はさらに消費しているから、体はパニック状態で頭は気絶寸前という、とても無茶苦茶な状態になっていた。


 でもホッとしていた。生き残ったという安心感が、どくどくと跳ねる心臓を包み込んでゆく。


 やはり圧縮詠唱設定というものを使ったのは正解だった。もしこのとき長々と詠唱していたら、きっと違う結果になっていたと思う。


 お鍋の蓋を見ると、思いきり陥没していた。あんな小さな生き物に、どうしてこんな力があるのだろうか。


 しかしこれ以上は考察する余裕がなかった。不意に、草原の奥でいくつもの音がしたからだ。敵がいる。


 ファイアボールの衝撃と匂いを感じたのか、遠くから他の魔物達が近づいてくることが分かったので、すぐにその場から逃げ出した。


 実際には短い距離だが、走っても走っても魔物が迫っていくるような、生きた心地のしない時間を過ごした後、必死に壁の穴に滑り込んでゆく。


 村の中に入っても安心できない気がして、速足で家を目指して進む。じっとりとした汗が額に浮かび、やがて身体中に寒気が走った。


 やっとのことで家に戻ると、暴君のイビキがいつも以上に響き渡っていて、不快ながらも安堵している自分がいた。


 今回のことで、俺は幾らかの経験が得られたはずだ。ベッドに潜り込み、ショーツの中でイリスに質問を投げかける。


========

 イリス、こんばんは。

 ついに実戦を経験した。スライム一匹に勝利したけど、俺もボロボロだ。

 これでレベルが上がったのだろうか。どうも実感が湧かないんだけど、レベルが上がるとどんな感じになるのだろうか。

========

 リザン様、こんばんは!

 初の勝利おめでとうございます!


 スライムの経験値は魔物の中で最も低いという通説がありますが、リザン様がレベル1である場合、レベル2になったと考えられます。


 レベルアップに必要な経験値は個人で変わりますが、レベル1からレベル2は一度の戦いに勝利することで達成できるケースがほとんどです!

========


 どうやらレベルが上がっている可能性が高いらしい。でも、実際にこの目で数値を見れない以上、確認のしようがない。


========

 そうだったらいいな。

 魔力がどのくらい上昇しているかが、一番気になるところなんだけど。

========

 はい! 恐らくですがレベルが上がり、魔力の限界値も上昇していると見込まれます。

 リザン様のお住まいの地域では、レベル測定器を所持している施設はないようですが、サランやコリアンダーへ向かえば計測できます。

========


 遠いんだよなぁ。どっちも一千キロも離れてるし。


 とにかく今回のような経験を得ていくことで、魔力量も使える魔法も増えていくはずだ。


 やがて猛烈な睡魔が襲ってきた。俺はイリスに触れたまま、いつしか眠りについていた。

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