新たな魔法
「おい! 今日も仕事やっとけよ。俺は忙しいからよ、帰ってきて何もしてなかったらただじゃおかねえぞ。分かったな!」
朝からポールは俺に仕事を押し付けると、どこかへ消えていった。
後で知ったことだが、最近仲良くなってきた女とデートに行っていたらしい。
まったく良い身分だと思いつつ、やたらと金遣いの荒い点をどうにかしない限り、遠からず破滅するだろうと予想していた。
しかしこのままでいけば、俺もその破滅人生に取り込まれてしまう。
もっと急ぐべきなのかも。そう思いつつ、今日はなぜか近場の建築屋の手伝いをさせられていた。
何でも屋といえば聞こえはいいが、要するに一番大変な仕事を押し付けられているのである。
それも夕方には終わったが、重い資材をひたすら運ばされて体はヘトヘトだ。
でも家に帰って休んでいる場合ではない。早速秘密基地に向かうと、AIイリスを起動させる。
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今から魔法を二発使用してみる。
その後の体調を確認してみて、新たに使える魔法があったら提示してほしい
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魔法を連続使用されるとのこと、承知いたしました。
それでは、計測のために私を接続してください。
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左腕に端末を当て、腕輪に変形し装着されたところで、俺は右手に持った杖を前に向けた。
対象はいつも実験台にしている岩だ。よく狙いを済ますようにして、ファイアボールを一発放つ。
火球は勢いよく、ほぼ狙いどおりに命中していた。やはり杖を向けるほうが精度が高い。
この一発はほぼ想定内。問題は次だ。
まだ意識が遠のく感じはない。どうやら本当にレベルが上がり、魔力量が増えている気がする。
一発目とほぼ変わらない感覚で、二発目を繰り出した。それは完全に一発目の再現と言ってよく、何も変わらずに岩に命中している。
遠くからではあったが、焦げ臭い匂いが増していた。
「よし……これで……」
少しして、満足感とは裏腹に芳しくない傾向が現れる。若干だが目眩いがした。
でもイリスは、この結果に肯定的な見解を示した。
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リザン様の二度の魔法使用を確認いたしました!
やはり魔力が増加しています。
身体的な変化を計測したところ、若干の浮動性目眩が確認されたことから、魔力が微量に残っていると思われます。
現在はレベル2に到達し、魔力の限界値が上昇したと考えて良いでしょう。
また、ファイアボール2発と、ワンドによる微量の魔力追加も念頭に入れると、恐らく魔力量は合計12の使用となり、リザン様の魔力はほぼレベル1から2倍に増加したものと考えられます。
リザン様の魔力適正はSSのため、レベルアップ毎の魔力限界値も伸びやすくなっています。
それでは、現在使用可能になったと思われる魔法についても紹介させていただきます。
◾️魔力量12までで使用できる魔法
エアカッター:魔力消費量8
風の刃を飛ばす
オールダウン:魔力消費量6
対象の全能力値を下げる
オールアップ:魔力消費量6
対象の全能力値を上げる
アースウォール:魔力消費量6
壁を作り出す
ショートスリープ:魔力消費量11
対象を少しだけ眠らせる
ゴーレムクラフト:魔力消費量10
ゴーレムを作り出す魔法
以上が今回使用可能になった推測される魔法となります。
ご利用になりたい場合は、詠唱文字などひととおり説明いたします。
また、もう少し魔力の限界値が上がれば、飛行魔法も習得可能になりますよ!
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…………なんだって?
寄せては返す睡魔の波が吹き飛び、俺はチャット内容に釘付けになる。
どうやら俺は風魔法やバフ、デバフ、そして敵を眠らせる魔法を使えるようになったらしい。
それと壁を作り出す魔法も覚えたようだが、どういう感じなのかあまり想像がついていない。ゴーレムクラフトも気になるところ。
だいぶ幅が広がってきたが、一番気になったのはそこではなかった。
飛行魔法が使えるようになるだって?
これは何とも心躍る情報だった。人が単身で空を飛べるという、夢のようなことが現実に可能になるということだ。
チャットに書かれていた魔法を、是非とも全て使いこなせるようになりたい。そして、もっと新しい魔法を覚えたい。
閉鎖的な世界にあって、俺はようやく本格的に光が見えてきたような気がして、その日はなかなか寝付くことができなかった。
◇
それから二週間が経過した。
俺は日中はポールにこき使われつつ、深夜にはこっそりと外に出て魔物を退治する、という日々を繰り返した。
たまにパメラと遊ぶことがあり、覚えたての魔法を披露すると、彼女は目を輝かせて喜んでいた。
ある日、二人でファーガソンの小山に遊びに行った時のこと。
エアカッターでリンゴを落としてあげたら、パメラは飛び上がらんばかりに興奮していた。
「すっごいじゃん! 便利すぎー! っていうか、どのくらい魔法が使えるようになったの?」
「うーん。多分だけど、ファイアボールなら五回くらいは使えるようになったと思う。でも、なかなか新しい魔法が覚えられないんだよな」
「どうやって覚えてるの?」
「まあ、いろいろ鍛えてて」
ここで魔物退治をしていることを濁したのは、パメラが「あたしも行く」とか言いかねないからだった。
あれからゴブリンとか、お化けモグラとか、大カラスとかに遭遇したけど、どれもが危険を伴う戦いだったし、死んでもおかしくない。
普通に魔法を外すこともあって、そういう時はすぐに逃げ出した。
俺は逃げ足が早いので何とかなっているが、いつも命懸けだった。女の子を巻き込むなんて論外である。
「ふーん、どこで鍛えてるの?」
「この近くに秘密基地があるんだ」
「え? 何それー! 行ってみたい」
「う……うん。いいけど、秘密だぞ」
「うん! あたし達、秘密がいっぱいだね」
屈託のない笑顔を見せられると、どうしても期待に応えたくなってしまう。
「迷子にならないように、ちゃんとついて来いよ」
「ならないよー! 大人みたいなこと言わないでよね!」
「ああ、ごめんごめん」
道すがら、悪い癖が出てしまった。この後ちょっとだけ言い合いをしてしまう。
パメラとは同い年だけど、前世がある分俺はずっと年上の気分だった。だから小さな子供の相手みたいに接してしまう時があり、たまに嫌がられる。
時折ケンカすることもあるけど、彼女は村で敬遠されている俺と遊んでくれる、唯一の友達だった。
それから秘密基地に招いてやると、パメラは魔法練習のために作った的や、いろんな道具をみて大喜びしていた。
で、その日は一日中アスレチック感覚で遊びまわることになったのである。
俺は魔法を見せてやったり、イリスのことを教えたり、なぜか追いかけ回されたりで大変だったが、それなりに充実していた。
そういえば、この日は一つ気がかりなことが増えたのだ。
夕暮れになり、とても楽しい一日だったなぁと思っていたら、パメラはふと何かを思い出したかのように怖がった顔になる。
「そうだ! もう帰ろ。最近ね、村の近くに幽霊が出るんだって。もしかしたら村の中に入ってくるかもって、みんな噂してるよ」
「幽霊?」
「うん。しかも、二人だったら三人だったりするらしいよ。黒い幽霊だって噂だよ。走って帰ろ!」
幽霊の噂なんて初耳だった。
もしかしたら、夜な夜な村の外でレベル上げをしている俺を、誰かが見たのだろうか。
でも、二人や三人に見えるということはないはず。
一抹の不安を感じつつ、夜の闇がやってくる前に俺たちはそれぞれの家に帰っていった。




