やり返した日
さらに一週間が過ぎた。
俺は南門でのレベル上げを続けていたが、だんだん効果がなくなってきた気がして、AIイリスにレベル上げの相談をしてみた。
時間は夕方。親戚はまたも留守のため、のんびりと家でチャットを打っている。
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魔法の使用回数に変化が見られない……つまりレベルが上がっていないとお考えなのですな。
まさにそのとおりですぞ!
リザン様は推定ではレベル12〜14に到達しているものと考えられ、初歩の魔物がうろつくファーガソン南門付近では、なかなかレベルが上がりづらいことでしょう。
今後さらにお強くなりたい、そうお考えならば今よりも強い存在との戦いが必要でございます。
これまでのように魔物との戦いでレベルを上げたい場合には、北の町サランがおすすめですな。
サラン周辺には、ファーガソンよりも一枚も二枚も上手の魔物が徘徊しております。
サランには冒険者ギルドも存在しており、魔術師として生計を立てていくことも不可能ではございません。
ご希望であれば、この爺めが他にも新しい経験値上げの方法をいくつかご紹介いたします。
このわたくしめに何なりとお申し付けを。
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「え? なんだこの口調……ああ、そうだった」
そういえば昨日、パメラが他の話し方でチャットができるか? という疑問を持ったことにより、口調を変えてもらえるか質問したところ、色々と変化することが分かった。
さらにパメラの要望により、昨日からイリスはおじいちゃん執事口調でチャットを返していた。
恐ろしいことに、彼女はもう日本語を覚えてきている。まあ、俺が軽く教えていただけなんだけど。
子供の好奇心と記憶力って凄まじいなと感嘆したほどだ。
話は戻すが、ファーガソンより北にある町、サランがイリスとしては一番おすすめらしい。
でもファーガソンからサランまでは、なんと一千キロもあるのだ。
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教えてくれてありがとう。
口調は元に戻していいよ。
それから、サランは子供の俺の足じゃ遠いんだ。
絶対無理な話だけど、馬車を借りたとしても一ヶ月くらいかかるんじゃないか?
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どういたしまして!
では元の口調で失礼しますね。
はい! 確かにファーガソンからサランまでは、徒歩や馬車では相当厳しい距離になります。
しかしながら、飛行魔法を使用することで、大幅に時間を短縮することが可能です。
飛行魔法とバフ魔法、および一部の風魔法を併用することにより、約三時間でサランに到着することが可能になります。
魔法の併用とは、Aという魔法を発動させつつ、Bという魔法も同様に発動させることで、魔法の効果を高めることができるものとなります。
詠唱圧縮設定をしているもの同士を併用することがおすすめです。
魔法の組み合わせについてさらに知りたい場合は、知りたい魔法の種類などを教えていただければご説明します!
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三時間……一千キロ離れた町に到着するのに、たった三時間?
そんなことあり得るのか。俺はあまりにとんでも理論なAIチャットに、疑問を抱かずにはいられなかった。
というかそもそも、まだ飛行魔法を覚えてすらいないのだが。この時の俺は正直論外だった。
AIが致命的な勘違いをしている気がしたけれど、本当なら夢みたいな話。信じたくなってしまう自分もいる。
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そうなのか。
ところでイリス。飛行魔法の使用に必要な魔力は50だったよな。
俺はもう少しレベルを上げないと、多分できないと思うんだけど。
サランに行くってハードル高くない?
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はい。飛行魔法フライパスを使用するためには、魔力消費50が必要です。
また、魔法の併用が必要なため、上記で挙げた速度でサランに到達するためには、魔力消費80近くが条件となります
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必要な魔力が80か……なんだかどんどんサランが遠くなってきた気がする。どうしたものか。
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それってまだまだ遠くないか。
レベルを上げるの大変になってきたし、上げたところでそこまで魔力が上がるわけじゃないし
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確かに遠く感じることも理解できます!
ですがレベルは上がるにつれ、ステータスの上昇量も比例するように上がっていきます。
そのため、リザン様はあと2、3レベル上昇すれば、魔力限界値100を軽く超えていくと推測されます。
レベルについてもっと知りたい場合は、具体的なステータス名を教えていただければ、詳しく説明します!
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レベルは上がっていくにつれて、ステータス上昇量も上がるらしい。
しかし、そんなに上手くいくのだろうか。
俺は疑問を感じつつも、やはりもう少しこの辺りでレベル上げをするしかないという考えを固めていた。
だがこの一連の計画を、早々に頓挫させかねない事態が起こる。
痛んで割れた木製の玄関ドアが、勢いよく開いて大きな音がした。ポールが酔っ払って、ドアを蹴り開けてきたのだ。
「ああったくウゼェ! なんで俺がこんな貧乏生活してんだよクソが!」
帰るなり、酒瓶を振り回しながら怒鳴っている。
ああ、これは殴ってくるなと思いつつ、どうすることもできないのでイリスを隠し、本を読んでいるふりをする。
すると、普段より五割り増しほど凶暴になった男は、「何すました顔してんだガキ!」と叫んできた。
この時期のポールは、どういうわけか荒れる一方だった。
俺はどうにか宥めようとしたり、説得してみたり、できる限りの対応は試した。でも効果がない。
村の偉い人に話に行ったこともある。しかし村長を筆頭に、事勿れ主義である彼らは遠回しに、俺が我慢をする方向で話を終わらせてしまう。
「リザン! お前は預かってもらっている癖に、何の役にも立たねえ! いつになったら一人前の仕事ができるんだ、このタダ飯食いが!」
この発言は正気とは思えなかった。むしろ俺のほうが働いているというのに。
ポールは人の話を聞かず、何かあると暴れる癇癪持ちだ。それがここ数日、抑えきれないほどに悪化してきた。
「いい加減にしてくれ。俺はずっと、言われたとおりにやってきたよ」
「あ?」
ポールは体だけは大きい。身長百八十を超える体が震え、目が殺意に満ちていた。
「今なんつったオラ」
そう呟きつつ、奴はボロいベッドに座っていた俺に近づいてくる。
「いい加減にしてくれと言った」
言葉を返すと、ポールは瞼を震えさせながら、いやらしい笑みを浮かべて眼前にやってきた。
奴は……一瞬だが、部屋が黄色に染まったことに気づいただろうか。
「あーあ。まったく、こりゃあいつもより痛ぶってやらねえと、分からねえようだなぁ!」
思いきり胸ぐらを掴み、なんと酒瓶を振り下ろそうとする。以前はおどしでやる真似をしてきたが、今度は本気なのが勢いで分かった。
目の前に迫ってくる凶器。奴にしてみれば信じられなかったはずだ。
瓶が当たるか当たらないかというギリギリで受け止められ、むしろ奪い返されるなんて。
俺は立ち上がり、瓶を奪ったあと逆に奴をぐいぐいと押し返していく。
「う、うお!? な、なんだ! 何だぁ!」
ポールは完全に力負けして、信じられないという顔でこちらを凝視していた。
気にかけることもせず、思いっきり投げてやる。そうしたら奴は飛んだ。ぬいぐるみを投げたみたいに軽々と。
壁に激突した男は、背中を強かに打ったらしく、しばらく呻いて何もできずにいた。
俺はバフ魔法オールアップをかけて、如何ともし難いはずの体格差をひっくり返していたのだ。
魔法とは、こんなにも劇的な効果があるのか。
自分よりずっと大きな相手を投げ飛ばしたことに、俺は驚きで胸がいっぱいになっていた。
そしてこれまでよりも、魔法というものに魅せられていくことになる。




