冒険者を目指した頃
秘密基地を見つけてから五日後のこと。
俺はポールにこき使われ、農作業をやらされつつも、空いた時間でAIを使って勉強をしていた。
たまにパメラが遊びに来ると、得た知識について教えてやる。エルディオンの話をすると特に喜んでいた。
まず物事に大事なのは、情報を集めること。この世界についての情報を仕入れつつ、魔法についても学んでゆく。
同時に、ローディア大陸で使われている文字も学んでいた。とにかく生き急いでいる。
なぜこれだけ急ぐのかというと、俺はどうにかして、この辛い生活から抜け出したかったからだ。
頑張っても頑張っても、恐らくは楽にならないどころか、もしかしたら突然外に放り出される可能性もあった。
ポールは他の親戚から、俺を保護するというお願いを聞くにあたり、月々幾らかの援助をもらっている。
このことは先日知った。時折手紙と一緒に、この世界の通貨が入っていたからだ。
もしかしたら、金を貰っているからポールは俺を預かっているんじゃないか。
二日前、手紙の内容を読もうとしていたが、まだ不慣れな文字ばかりだったので、イリスにどうにかできないか聞いてみたところ、
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私の機能の一つ、カメラをご利用いただき、できた画像をチャットに載せていただければ翻訳が可能です!
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という驚きの回答があったので、早速試してみた。
イリスのチャット画面の右上には三点リーダーのようなものがあるが、そこになんとカメラマークがあったのだ。
押すだけで可能なようなので、パシャリと撮ってみるとイリスの中にある画像フォルダに保存された。
そして翻訳をお願いしたところ、下記のような内容が書かれていた。
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ポール・ゴランへ
今月もリザンを預かっているお前に、僅かばかりの送金をさせてもらう。
以前も話したが、この送金はリザンが十一の誕生日を迎えるまで。
それまでは世間の目があるのでこうして援助をするが、以降はお前の善意に任せることにする。
十一歳にもなれば、一人で生きていくこともできるだろうから、その後あいつをどうするかはお前に任せよう。
一族の端くれとして、せめてこのくらいはしっかりやるように。
それから、小さな田舎村といえど、この手紙の内容は一切他言することを許さぬ。
ロドリゲス・ゴラン
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読んでいるだけで眩暈がする内容だった。
ロドリゲス・ゴランというのは、一つ前の保護者だった男である。裏表の激しい行商人で、相手によってはかなり強く出る男である。
ロドリゲスなら、こういう手紙を書くのも納得だった。自分の将来を考えるだけで陰鬱な気分になる。
十一歳という年齢で、こんな厳しい世界で生きていけるだろうか。普通に考えて無理だと思う。
しかしポールは金が貰えなくなったら、より一層俺に辛辣に当たってくるようになるか、あっさりと保護を放棄するかどちらかになると予想していた。
どちらであっても、もし一年後にこのままの俺だったら、生きていけない状況に追い込まれる可能性が高い。
村で俺を保護してくれる人はいそうにない。もしかしたら、村からも追い出されて魔物の餌になる……そんな悲惨な結末だって考えられる。
絶対にごめんだ。せっかく転生できたのに、ここで死んでたまるか。
逆に考えれば、あと一年はポールは俺を生かすつもりだろう。金が貰えるあいだは、死なれては困るからだ。
だからその一年の間に、一人であっても生きていけるようになれば良い。
その為に最近は色々と考え、AIイリスに頼んで情報を集めている。
結論からいうと、魔術師としての腕を磨いて、冒険者ギルドでお金を稼ぐ生活を目指すことにした。
ファーガソンで何かしら仕事を探そうとしても、もうほとんどの仕事は埋まっている。それに俺の評判では、雇ってくれること自体が難しい。
ではどうにかして外で生きていく、という話になるがこれも困難である。
一番近いよその町といえば、サランとコリアンダーだが、どちらも距離にして一千キロ離れている。単純に物理的に遠い。
辿り着いたとしても、ファーガソン以外は住民としての登録条件が厳しく、ちゃんとした家に落ち着くというのは難しい。
住民として登録できなければ、大抵の仕事にありつくことも困難という現実があった。
だが、全く方法がないわけではなかった。
ろくに住所がなかろうが、腕さえあれば食っていける職業もこの世界にはある。それは冒険者だった。
冒険者ギルドに寄せられた依頼を達成したり、魔物を倒して素材を売ったり、そういうことをして日銭を稼ぐ。
こうした生き方は将来の保証はないけれど、腕っぷしさえあれば生きていくための金を得ることはできる。
しかも有名な冒険者ともなると、富や名声を得ることも可能らしく、地区によっては冒険者がこぞってやってくる町もあるのだとか。
この時、俺が考えられる選択肢としてはそれくらいだった。
それと魔法について大きな好奇心があったし、イリスによれば魔法の適性も高いとのこと。
向いているということなら、目指してみてもいい。
こういった事情から、とにかくAIイリスを触る時間が増えてきた。大抵は秘密基地で使っていたが、夜中にベッドの中で使うこともある。
夜になってもベッドのショーツに隠れながら、ひたすらイリスへの問いかけを続けていた。
自分ではろくに働かない男のイビキに我慢しつつ、魔法に関わることについて質問をする。
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ファイアボール、フリーズ、サンダーの三つが使えるようになったので、そろそろ実戦に移ってみたい。
魔力の限界値を上げていくためには、レベルを上げるしかないんだっけ?
今日はレベルの上げ方について教えてくれ。
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なるほどです!
魔法において、基本となる三魔法を習得されたリザン様なら、もう実戦を経験しても良い頃でしょう。
魔力を高めるためには、この世界に内部的に存在するレベルというものを上げていく必要があります。
レベルの上げ方についてですが、敵を倒していくうちに経験値が貯まり、一定値まで来ると上がる仕組みです。
レベルが上がると魔力だけではなく、あらゆる数値が総合的に上昇していきます。
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レベルは人間だけに存在する?
今のレベルを確認する方法は?
というか、レベルなんてものがあるということは、ここはやはりゲームの世界か何かなのか?
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レベルは人間のみならず、ありとあらゆる種族に内部的に存在します。
レベルを確認するためには、レベル測定器と呼ばれる魔道具が必要となります。
一般人には作成が困難であり、世界の市場に流れている測定器のほぼ八割はレグナス魔導研究所製のものとなります。
また、精密な魔道具のため性能の維持にもコストがかかり、ごく一部のギルドや城にしか置かれていないのが現状です。
最後に、この世界がゲーム世界であるか、という質問については、女神様からの禁則に抵触するのでお答えができません。
ゲーム世界ではなくても、魔法や魔力、レベルが存在する世界というものはいくらでもありますよ!
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なるほど。
レベルという概念から大きな疑問が湧いたが、この世界については教えてはもらえなかった。
何が女神の禁則にあたるのか、この辺りが気になってしょうがないが、今は他のことから考えるべきだろう。
レベルの測定は可能なようだが、いざ計測するにはそれなりに大変みたいだ。
レグナス魔導研究所の名前は以前にもチャットで登場しているが、先日イリスに聞いてみたところ、どうやらこの世界における魔法学の最先端であるらしい。
研究所の本営はエルディオンにある。どうやら王都はあらゆる点でこの大陸だけではなく、世界中においても重要な都のようだ。
イリスの回答を聞き終えた俺は、こっそりとベッドから抜け出し、夜の闇へと消えていく。
この日はまだ魔法の練習をしていなかった。だから魔力が万全で、だからこそ練習したい気持ちに駆られていたんだ。




