↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎の厄介者、王都で転生特典の【魔法生成AI】を使い聖女を救ったら人生が激変してしまう  作者: コータ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/26

聖女となる者

 ローディア大陸の中心地、王都エルディオンで祭りが開かれていた。


 年に一度の建国祭であり、華にあふれた都市がより一層美しく活気づいている。


 大通りは人々で溢れかえり、活気と笑顔に包まれていた。


 しかし誰もが幸福に浸っていたわけではない。今日という日を悲しみと共に迎えた者もいる。


 聖エルディオン教会の裏手、多くの偉人が眠る広大な墓場の中に、小さな集いがあった。


 誰もが黒く質素な衣装に身を包んでいる。ほとんどの人は瞳に涙を浮かべて、悲しみを露わにしていた。


 二人の男女だったそれは、すでに骨だけとなり小箱に納められている。


 エルディオン聖教では、火葬した骨を墓に入れて祈りを捧げることで、死者が安らかに天国へと向かうと教えられている。


 二つの墓に小箱が入れられ、そっと閉じられていった。


 それらの一部始終をずっと見守っていた少女がいる。


 空のように澄みきった青い髪と、黄金の瞳。それらは少女が他の誰とも違う、天から与えられし特別な存在である証拠だった。


 彼女はまだ幼い身でありながら、すでに両親と死別した。深い悲しみと共に葬式は進行していく。


「ルーシア、ご両親にお別れをなさい」


 年長のシスターが少女に優しく声をかけた。


 ルーシアと呼ばれた少女は、ただ茫然としているばかりだったが、シスターに促されて前に出ると、大好きだった両親に祈りを捧げた。


 それは九歳の少女にしては洗練された姿である。跪くその姿には偶然にも陽光が注がれ輝きに満ちていた。


 だがその小さな肩は、必死に震えを抑えている。じっとしているだけでまぶたから涙がこぼれ落ちる。


 それでもルーシアは決められたとおりに、求められた手順を守り、葬式を無事に終わらせた。


 これまで、親しい人の死を経験したことのないルーシアにとって、ここ数日の経験は忘れ得ぬ辛いもの。


 しかしルーシアに、悲しみに暮れている暇はない。


 式が終わり関係者達が大教会へと戻ったところで、教皇が直々にルーシアにこう告げた。


「ルーシアよ。君が今、辛く悲しい胸中にいることは、私達の誰もが分かっている。心から同情しているよ。


 でもね、君には明日からすぐに、エルディオン聖教会の聖女候補として、国を周り、世界を周ってもらわねばならぬ。


 そしてエルディオンに帰った暁には、聖女となる最後の試練を受けてもらわねばならない。これは今、この時代において君の才能と力が必要だからなのだ。そして、急がねばならない事情がある」


 聖女とは、あらゆる魔法に存在する属性の一つ、聖属性魔法を極める素質を持ち、かつ神の教えを従順に従う淑女にのみ与えられる呼び名である。


 まだ幼いルーシアには、聖女としての素質が認められていた。そして、彼女の素質を国が求めてやまない現状があった。


 教皇は静かに振り向き、テラスを見上げた。


「王都を新たな災いが覆っておる。それは日増しに強く、経験したこともないほどの地獄を人々に与えるやも知れぬ。我らエルディオンの司教達は、この危機が十年……いや、七年以内には訪れると予知している」


 エルディオンの聖者達……立場だけではなく強い魔力と信仰心を持つごく一部の存在は、古くから予言の力を有していた。


 それらは多くの場合的中する。しかしながら、予言は日が迫らない限り薄ぼんやりとした情報しかもたらさず、備えを得ることが難しい。


 そうした予言に対し、批判の声が上がることもある。時代によっては国王自らが軽視した姿勢を見せたこともあった。


 だが時代が流れるにつれ、事例と予言の一致が実証されるようになると、人々の多くは彼らを信頼するようになる。


「恐らく、この危機を乗り越えるためには、幾つもの力と協力がいるであろう。だが、最も必要なのはルーシア……君だ。司教達のそれぞれの予言において、君が鍵となることが一致している。まだ目覚めていない聖女としての未知なる力。急がねばならぬ、分かってくれるね」

「はい、司教さま」


 ルーシアは精一杯の返事をした。


 心の中にある悲しみを、どうにかして抑えようと必死になっている。


 彼女はこの後、教皇が命じたとおりに旅をすることになる。多くのエルディオンの騎士、シスターや関係者に連れられて。


 長い長い勉学と鍛錬、そして信仰心を磨くために。


 ルーシアは教会から出た後、やはり耐えられずに泣いた。親を失った衝撃を乗り越える間もなく、旅は始まってしまう。


 ◇


 エルディオンの建国祭は、国民にとってはただ楽しむ日である。


 だが行商人にとってはひたすらに儲けを追求する勝負の日であり、貴族達にとっては、新たな人脈を得るための重要な機会であった。


 祭りが進むとパレードが行われ、王族の馬車が通りを闊歩していく。


 人々が声援を上げる中、たった一人だけ不機嫌な顔でパレードを眺めている男がいた。


 褐色の肌と長身に程よくついた筋肉。髪は短く、まだ若いが少しだけ髭を蓄えている。


 王族の行進が過ぎ去った後、男はため息を漏らしながら裏通りへと消えていった。


 慣れた足で裏通りをいくつも抜けていき、幾つもの地区を超えてゆく。


 パレードから五日ほど経って、やがて冒険者達がこぞって探索を試みる【天竜の遺跡】へと辿り着いた。


 かつて世界には、天竜という巨大な神をも殺す竜が存在したという。しかし、誰もが本当に目にしたわけではない。ローディアに伝わる神話である。


 千年もの昔、神々と竜とのあいだで戦争が巻き起こり、神々は瀕死になりつつもどうにか天竜と呼ばれる存在を封印した。


 そして空高く浮かぶ大きな島に、竜を封印せしめたという。


 だが、百年のうちに封印は解かれ、竜は島の中で暴れ回り、やがて島は空から地上へと落とされてしまった。


 竜は大地に叩きつけられ息絶えたが、島は崩壊し住んでいた人々や神もまた亡くなったという。


 王都の南地区に存在する巨大な遺跡は、かくも壮大な逸話で彩られていた。


「大袈裟すぎるぜ。お前はよ」


 だが、褐色の肌をした短髪の男は、これらの神話など嘘っぱちだと決めてかかっている。


 特に嘘だと思っているのは、神話に書かれた下記のくだりである。


 遺跡の奥には魔物が無限に湧き、同様に無限の宝が眠るという。それは天の竜が闇に落ちたことで、聖と邪を撒き散らすことにより産まれ続けている。


「たまたま、この奥に魔物の巣があったってだけさ。それもうんざりするほど長い間、必死に蓄えていたんだろう」


 男はたった一人そう呟くと、もう興味を失ったとばかりにまた歩き出した。


 冒険者達が元気な声をあげて、遺跡に潜っていく姿を横目にしながら。


 彼はまたも、休み休み歩き続けた。さらに三日して、ある場所にたどり着く。


 とある街中の裏通りに入り、路地裏の隠し階段から地下へと降りた。


 薄暗い部屋の中で、小さく笑う影に話しかける。


「遅くなって悪ぃ。次の仕事はなんだ?」

「……アルバレスさん。まずは遅れた理由を伝えていただけますか」


 暗い室内に若い男の声が響く。


 アルバレスと呼ばれた長身褐色の男は、面倒そうに吐き捨てた。


「半刻の遅れくらい大目にみろ。相応の仕事は済ませたろ。息抜きに祭りを楽しんだだけだ」

「えらく余裕があるのですね」

「まだやらせたい仕事があるんだろ。とっとと言え」


 暗がりの中で、男は小さく笑う。それがガーランドを苛立たせる。


「では次の仕事のご相談ですが、日程はしばらく後です。もしかしたら、随分と先になるかもしれません。他の連中がしくじりさえしなければ、貴方の出番は当分ありません」

「どういうことだ?」

「すぐ分かりますよ。それよりこれ、なかなかだと思いません?」


 男の説明はアルバレスにとって足りなかったが、それ以上の追求はしない。


「いつ見ても、気味が悪い魔道具だ。反吐が出るぜ」


 暗がりに目が慣れてきたところで、地下室の異様な光景が徐々に明らかになってくる。


 幾つもの卵形のカプセルが縦横に規則正しく並べられていた。そこには液体がいっぱいに入っており、中に何かが閉じ込められている。


「でも、この研究は必要なものです。最近大陸に現れつつある、魔王の使いに対抗するには、時には倫理に縛られぬ行動が必要なんですよ」


 近年、時として異常に大きな魔物の個体が目撃されることが続いていた。


 彼らは本来の魔物よりもずっと強力かつ凶悪になり、たった一匹に千を超える人々が殺される場合もある。


 それらの大型の魔物は、いつしか魔王の使いと呼ばれ恐れられるようになった。


 名前は元々別大陸で流行っていた名称が、ローディア大陸に流れてきたものである。今や世界中で可及的速やかな対応を求められている。


「それに……貴方が一番この研究をご理解されているはずでは?」

「うるせえ。用があったら呼べよ」


 男はまた小さく笑った。


 アルバレスはその笑いに苛立ちつつも、過度に怒る真似はしなかった。


 男は仕事の詳細は後々ちゃんと伝えてきた。今回も同じはずだ。彼には仕事が必要であった。


 アルバレスは陰気臭い地下室から出て、その時を待つことにした。自らが殺す対象が決まる、その時を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。