サンドイッチ
懐にしまっていた魔道具を取り出すと、AIイリスは昨日と同じように、すぐに画面上に現れた。
昨日までと同じように、魔法について聞こうと考えていたが、ふと思いつく。
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おはよう。
そういえばイリスは主に魔法に特化しているって話だったが、今回は魔法以外について聞いてみたい。
例えばこの大陸についてとか、近くにある村や町とか。
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なぜこんな質問したかというと、この世界をもっと知りたかったから。図書館すらもない田舎は、外部の情報がまるで入ってこない。
何か少しでも分かるなら知りたかった。
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おはようございます!
もちろんです。文献として残されている情報でしたら、収集してお伝えすることが可能です。
現在リザン様がいらっしゃる大陸は、ローディア大陸と呼ばれています。世界で最も広大な大陸であり、ここファーガソン以外にもさまざまな村や町があります。
なんといっても有名なのは、大陸の中心に存在する王都エルディオンです。
一億を超える人々が暮らす大都市であり、国王アラン四世が住まうエルディオン城を筆頭に、かつての古代遺跡や世界有数の商店街やカジノ、大陸一の学園数を誇るなど、多くの見どころに溢れています。
ファーガソン周辺で言えば、北にサランの町があり、南にコリアンダーの港町がありますが、いずれも距離にして千キロ近く離れています。
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へえ。ここはローディア大陸って呼ばれているのか。
王都エルディオンっていうのは相当に栄えているようだ。人口一億の都市ってデカすぎじゃないかと、この説明には感心しきりだった。
どうやらイリスは、魔法以外の情報も備えているらしい。これはかなり助かる。
まあ、AIは間違っていることもあるだろうし、鵜呑みにはできないが。
もう少し聞いてみることにしよう。
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教えてくれてありがとう。
ところで、ファーガソンから王都エルディオンは近いのかな?
ちなみに地図とか表示できたりする?
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このチャットを送って待つこと数秒、コメントと共に世界地図の画像が送られてきた。
試しに聞いてみたが、画像表示もできるのは素晴らしい。
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どういたしまして!
ファーガソンの村から、王都エルディオンまでは近いとは言えません。
距離にして三千キロは離れています。
詳細は下記の地図をご覧ください。
この他にも、知りたい都市のことがあったらお気軽にご質問ください!
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送られてきた地図は全体的に茶色になっていて、RPGで手に入るマップみたいだ。
地図ってどんな国も、自分たちがいる場所を中心にしているけれど、この画像も同じくファーガソンが中心になっている。
確かに大陸としてもかなり広大だ。他にも大きな大陸はいくつもあるが、多分一番大きいのはローディア大陸のようだ。
ファーガソンからの距離も随分とある。サフランとコリアンダーも遠いし、ここから出ていくとなると子供じゃ厳し過ぎる。
まあ、すぐにというわけじゃないけど。大人になってからも村を出るのは大変そうだ。
たまに村人が数人で馬車で旅行に行ったりしてるけど、戻るまで何ヶ月もかかってる理由がよく分かった。
しかも道中では、魔物がウヨウヨいるだろうし。いろいろと不安要素が浮かび上がってくる。
でも移動手段を確保しつつ、俺自身が今後充分に魔法を使えるようになれば、外に出ていくことも不可能ではない気がした。
退屈と苦痛で干上がりそうな日々に、わずかながら光が差した気がする。
よし、この調子で世界のことも、魔法のことも調べていくことにしよう。そう考え、イリスに新たな質問をしようとした時だった。
「あ! リザン! ここにいたんだね」
ふと見知った声が背後からしたので振り返ってみると、パメラがバスケットを持って立っていた。
俺はいけないものを見られた気がして、咄嗟にイリスを隠してしまう。
「あれ? どうしたのー。なんか隠した!」
「いや……これは、別に」
「なになに? 見せてよ」
「え、あ、ああー」
正直、彼女にこの魔道具を見せるのは気が引ける。
これは前世の日本語で書かれているし、液晶のようなものに字が書かれていること自体、不気味に思われてもおかしくない。
でもパメラは面白そうなものを見つけた時は、なかなか食い下がらないのだ。気持ちは分かる。
退屈な毎日を過ごしている俺たちは、楽しい予感に貪欲だった。無遠慮にゴソゴソとポケットをいじられ、結局魔道具は見つかってしまった。
「え! 何、何これ!?」
「一昨日、気がついたらポッケに入ってた。もしかしたら、あの光が関係あるかもしれない」
「ええー! すっごいじゃん! ねえねえ、なんか書いてあるね。外国の文字? リザンって外国の文字が読めるの?」
予想どおり、パメラはAIイリスに釘付けになっている。日本語が当然ながら読めない彼女は、書いてある内容を知りたがった。
ここで一つの迷いが生じる。俺の前世で覚えた文字だと言おうか。でも、頭がおかしくなったと思われはしないだろうか。
今村で気さくに接してくれているのは、パメラだけだった。だから、嫌われるのではと恐れていたのだ。
でも、隠し事もしたくないし……複雑な気持ちだったことを覚えている。
「外国の文字だよ。小さい時に習ったんだ」
嘘は言ってない。
「すごーい! これ石板?」
「いや、石板っていうか、なんだろね。魔道具ってやつかな」
「え、え! 待って! それ地図?」
「あーそうそう」
パメラはこれが石板だと思ったらしい。
まあ、こういうツール自体この世界にはないのだろう。触って地図を拡大すると、彼女は前のめりになって目を輝かせた。
「何これ! この大陸の地図かなぁ」
「ファーガソンはここだと思う。ここがサランで、ここがコリアンダー。それからここが、エルディオンだろうな」
「わああ……! エルディオンって、やっぱりこんなに大きいんだ。素敵!」
それからしばらく、パメラはイリスに魅入っていた。
で、やはりというか猛烈な質問の嵐が来たので、どうにか答えていく。
転生のことは言わなかったが、仕組みとかは説明してみた。それでもなかなか理解が及ばないらしく、たまに触らせてみるとおっかなびっくりしている。
「あ! 返事きたよ。ねえ、イリスさんっていう人がお返事してるの?」
「なんだろう。人じゃないんだよ。AIっていう……文明の利器というか、なんというか」
「えーあい? 人じゃないって、妖精とか?」
「妖精じゃないけど、なんて言ったらいいんだろう」
「えー気になるー! あ、そうだ。リザンご飯あんまり食べれてないんでしょ? サンドイッチ持ってきたよ」
「すげえ助かるけど、いいのか」
「うん。一緒に食べよ」
バスケットには、結構多めにサンドイッチが入っていて、サラダとかイチゴとか、美味しそうな具がしっかり入っている。
すでに腹ペコでどうしようもなかった俺には、堪らないご馳走だ。気がつけば腹の中にサンドイッチが入っていく。
こうして食べている間も、パメラはイリスのことを知りたがった。
村の人たちに知られると厄介なので、秘密だと前置きしつつ、俺は昨日までに知ったことを教えてあげた。




