村に現れた人攫い
村の様子がおかしい。
もしかしたら、俺たちが外に出ていたのがバレたのか。村中で捜索でも始まっているかもしれない。
だが実際にはそうではなかった。村の中心となる村長の家付近で、誰かがみんなに囲まれている。
「あれ? みんな、どうしたのかな」
「さあな。とりあえず、行ってみようか」
近づいてみると、村人数十人がクワや棒を持って、中心で跪く三人を睨みつけていた。
三人は全身を黒い装束に身を包んでおり、縄で縛られている。すぐ近くには、村で唯一の傭兵であるゴルゾーが奴らを睨みつけていた。
「このゴルゾーが守るファーガソンで、人攫いを企てようとは笑止千万。貴様らのような外道は、すぐにでも王都エルディオンの監獄へと閉じ込めねばなるまい。そうでしょう村長」
「うむ。ゴルゾー殿の言うとおりじゃ。まずはみんなに改めて、この賊について説明せねばなるまいて。しばし待たれよ」
いきりたつ傭兵とは対照的に、村長はどこか穏やかな表情をしている。
村長の説明によるとこういう話だった。
まず、数日または一週間以上前より、村に度々隠れて侵入してくる輩の存在が報告されていたとのこと。
調べてみると、それらは黒い服を身に纏った男達で、村中のあらゆる場所を嗅ぎ回っているようだった。
そして今日、白昼堂々と黒い服を纏った者達が、村の若い女を捕まえて攫おうとした。
その現場を傭兵であるゴルゾーが見つけ、他の村人の協力もあって捕まえ、制圧することに成功したのだとか。
ただ、この話には事実と異なる部分がある気がした。この黒い服を着た男達のことは、違う形で噂をされていた気がする。
もっと前に、幽霊が出るという話をパメラがしていたけど、もしかしたらその正体がコイツらだったんじゃないか。
推測に過ぎないけど、ずっと前からこの村を狙っていた可能性はある。
俺は色々と思案に暮れていた。そんな折、ふと陽が傾いていることに気づいた。
捕まった連中の周りにいくつもの焚き火が起こされている。一体このあとどうするつもりなのだろうか。
村人たちもどんどん集まってきて、いつになく騒がしい。
村長の伝えたいことは終わったらしく、説明の最後はゴルゾーが引き取った。
「粗方、山賊の手下が何かであろう。このような下賤な輩は、早々に裁判にかけて裁きを与える他なし。今日はもう遅い故、明日数名の男達とエルディオンに向かうこととしよう。なぁに心配はいらぬ。我々の証言が何よりの証拠じゃ」
この発言に違和感を覚えたのか、一人の青年がゴルゾーへ質問を投げかけた。
「あのう、ゴルゾー様……」
「なんじゃ?」
「ファーガソンには非常時の為に用意した檻があります。こいつらはそこに閉じ込めて、兵士様を呼ぶほうが良いのでは?」
俺もこの人の意見に賛成だった。ファーガソンからエルディオンはあまりに遠い。
拘束した連中を監視しながら、そんなに遠方まで旅をするのは大変過ぎるし、いつ脱走なり反撃を受けるか分かったものではない。
エルディオンの兵達なら、その点人数も設備も潤沢に用意できるだろうし、わざわざ村の人達が負担を負う必要はない。
しかしゴルゾーはこの質問に首を横に振った。まるで分かっていない、と言わんばかりにうんざりした顔で。
「エルディオンの兵は、この村までくるに一ヶ月はかかろうぞ。それまでこやつらの餌を誰が世話する? お前達だ。下賤の連中にそのような真似をしなくてはならぬなぞ、我慢なるまいて。我らはその点、大いに道慣らしておるからの。彼奴等の半分の日数もあれば解決するわ」
ゴルゾーはいつの間にか、村長の次に発言力を持つまでになっていた。
だからこそ、間違っていると感じたとしても、誰も公に反発できない。
そして恐らくは、村の人々は勘づいていたはずだ。彼が本当に望んでいることは、罪人を裁くことではない。
「よし! 明日、村で一番の馬車と駿馬を二頭用意せよ。我の他に四名は連れて行ってやるぞ。誰かおらんか」
すると、うちの保護者ポールが興奮した顔で前に出た。
「俺に行かせてくれ! 絶対にアンタの役に立ってみせる」
「ふむ、良かろう」
するとその後も、何名かの男達がこぞって手を挙げた。
ゴルゾーは満足げに、誰にしようか立派な顎鬚をさすりながら考えている。
彼らの本当の狙いは、誰もが薄々気づいている。
実のところは、王都で賊を鎮圧した村の英雄として、表彰されることを狙っていたはずだ。
エルディオンでは人助けや魔物退治など、誰もが認める活躍をしたものには、身分や住処に関わらず表彰される。
表彰を受けた者は、場合によっては貴族に気に入られ、何不自由のない暮らしを提供されることもあるという。
または国お抱えの騎士として抜擢されたり、剣道場を任されたり。あらゆるチャンスが巡ってくるともっぱらの噂だった。
しかし、俺は半信半疑である。
なぜなら以前、この噂についてもイリスに聞いたことがあったから。どこで得ている知識か謎だが、AIはこんな回答を俺によこした。
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エルディオンにおける、人助けや大きな活躍をした際の表彰が、どれほどの恩恵があるかを知りたいのですね!
ファーガソンやサラン、コリアンダーといった地方には、エルディオンで表彰を受けることはある種の夢です。
表彰をされた者は、地位や富、名声を得られるという声も少なくありません。
しかしながら統計をとってみると、恵まれた待遇を受ける者はとても少ないことが分かります。
エルディオンでは建国以来、武功を挙げた者、災害から人々を救った者、悪党を懲らしめた者など、総じて千件以上の表彰事例があります。
その中で実際に国王から爵位を授かったり、国の重役に招かれたり、多額の賞与をもらえたり、あらゆる高待遇を受けた人は、五十に満たないとも言われています。
多くの場合、表彰をされただけで終わることがほとんどです。
それでもエルディオンの民や、他の地域に住む人々にとっては、大きな可能性があるという捉え方をされています。
実際には、地道に働いて成果を上げていくほうが、はるかに周囲や国から認められやすいという人も少なくありません。
結論として、可能性としては低いけれども、もしかしたら良いことがあるかもしれない、という心構えでいたほうが良いと言えます。
他にもエルディオンの文化で知りたいことがありましたら、お気軽にご質問ください!
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この回答を思い出したから、とてもじゃないが頑張ろうという気にはなれなかった。
その後、ゴルゾーは挙手した村人達を値踏みするように見つめながら、村長に一つの相談をした。
「村長……今回の任は可及的速やかに行わねばならぬ。村の倉庫に一つ、良き魔道具が眠っておったな」
「魔道具? まさか、倍速の頭絡のことか」
「ああ。あれを四つ準備してほしい。馬の速度が二倍になるというに、今回の任務に最適じゃろう」
村長はゴルゾーの要望にぎょっとしている。
「いやしかし……あれは。もう村に五つしかないのだ」
「五つもあるではないか。罪人を連れて三ヶ月も片道を行くなど、危険極まりないぞ。せめて一月半でどうにかしたい。なあに、王都では村長のことも、よろしく伝えておくから心配するな」
「う、うーむ」
倍速の頭絡、というのは馬用に作られた、地方では珍しい魔道具だ。
装着した馬は、普段の二倍は足が速くなり、しかも持久力も増すのだという。
だが、この魔道具は使い切りとなり、持って一月の効果だという。だからゴルゾーは二等分、往復で四つの魔道具を要求している。
村長は断れないだろう。彼はゴルゾーに不審者の対応を押し付けたがっている。
そんな様子など気にもせず、うちの保護者はいつになくやる気になっていた。
ポールは家に帰ってからも興奮しっぱなしで、「俺もいよいよ王都で華を咲かすからよ」などと息巻くほどだ。
いつになく上機嫌で、もしかしたら自分が貴族にでもなれるかもしれない、などと夢を見ていたのかもしれない。
恐らくゴルゾーを含め、王都へ罪人を運ぶことになった連中は、話に尾ビレや背ビレをつけるのだろうと予想していた。
俺はしばらくポールに顔を合わせてなくて済むと思うと、どこかホッとした気持ちになった反面、警戒してもいた。
前世でいえば歌舞伎の黒子みたいな、奇妙な連中が三人いたわけだが、他にはいないのだろうか。
奴らは偵察部隊のようなもので、本隊が別にいるかもしれない。
ゴルゾーはそうした可能性を特に考えていないようだった。単なるはぐれの山賊風情だと笑っている。
でも、あんな偽装をした山賊がいるだろうか。この話はまだ終わっていない、そんな気がしてならない。
多分だが、他の村人はどこか不安げで、心細い気持ちになっている者も少なくなかったはずだ。
そして数日もしないうちに、村人の不安は大きく膨らむことになる。
この事件が、ファーガソンという村の運命に大きな影響を与えたことは、後世から見ても間違いない。




