せっかくだから
ちょこんとレベル測定器コーナーの椅子に座ったパメラは、緊張した面持ちでオーブに手を伸ばした。
もうお馴染みの白い光が周囲を照らす。ほとんど待つこともなく浮かび上がった数値は、俺の予想を超えたものだった。
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名前:パメラ
性別:女
レベル:15
HP:889
魔力:85
体力:168
素早さ:133
賢さ:115
運:105
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この数値を後ろで見ていた冒険者達はざわついていた。
俺もまた、パメラのレベルが急激に上がったことに驚いている。メタルビーストの経験値量は伊達ではない。
「あれ? 嬢ちゃんはレベル3とかじゃなかったか? めちゃくちゃ上がってるなあおい!」
「えへへ。レベル2でした。なんかすっごく強くなれた気がして、嬉しいです」
「こりゃセンスあるぜ。っていうか、全体的にちゃんと伸びてる。もしかしたら少年と同じで、嬢ちゃんも天才かもしれねえ」
俺についてはイリスのおかげなので買い被られてるが、パメラは確かにステータスがよく伸びている。
なぜか運があまり上がっていないが、それ以外はひととおりちゃんと数値が上がっていて、同じレベルになったらエッジやモニカより優秀なステータスになるのではないか。
褒められて謙遜はしているが、パメラはやはり嬉しそうに笑っていた。体も自然と揺れていて、テンションが高くなっているのだろう。
「じゃー次はリザンの番だよ!」
椅子から勢いよく降りた彼女は、すぐさまこちらにレベル測定をするよう押してくる。
「やるやる、やるって」
押されながら椅子に座った俺は、ちょっと後ろの視線が気になっていた。
なぜか他の冒険者達までやってきて、俺のレベル測定を見ながら騒いでいる。やけに面白がっているなぁ。
本当はもうちょっと静かに計測したかったのだけど。まあ今更気にしてもしょうがない。
静かに銀色のオーブに手を伸ばし、瞳を閉じる。ふわふわとした白い光が瞼にやってきて、そして消え去った。
瞼を開けてみると、オーブにはこのようなステータスが浮かんでいた。
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名前:リザン・ローグ
性別:男
レベル:25
HP:1117
魔力:514
体力:180
素早さ:220
賢さ:198
運:235
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オーブに表示された文字をしばらく見つめていた俺は、これが自分のレベルだと最初信じることができなかった。
まさかあの魔物一匹で、レベル25まで上がってしまうなんて。
これには冒険者達もどよめいていた。どうやら俺くらいの年齢で、ここまでのレベルに到達している人を見たことはなかったらしい。
一緒にメタル狩りをしたエッジとモニカも、唖然としていたことを覚えている。
「ま、まあ……メタルビーストの立髪をやっつけたんだから、このくらい上がっちまうことはあるか。無詠唱での魔法といい、あの新しい魔法といい、お前一体何もんだ?」
俺は曖昧に笑って誤魔化そうとした。でも、この時ばかりは大人二人は引かなかったようで。
「気になるわ。どこで鍛えてもらったの? 師匠は誰?」
「ししょーは、イリスさん!」
俺の代わりに、得意げに返答するパメラ。やめてくれよ。
「イリスって、さっき話してた魔道具かよ。でも……魔道具が師匠なんて、本当にあるのか?」
「まあ、実際そうなんです。そろそろ戻らないといけないので、俺たちはこれで」
パメラの手を引いて、騒ぎが大きくなってきたギルドを抜けることにする。
エッジとパメラのステータスも気になっていたが、他の冒険者にも捕まっていろいろと絡まれそうだった。
これ以上厄介なことになる前に逃げるべし。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、またね!」
俺に手を引かれながらも、パメラは振り向いて二人に挨拶をした。俺も小さく会釈すると、二人は笑いながら応える。
「じゃあな二人とも。またいつでもギルドに来いよ。歓迎するぜ、リザンとパメラ!」
エッジに名前を呼ばれたのは、これが初めてだったかも。モニカは控えめに手を振っていた。
少しして、俺たち二人は静かな並木道までやってきて、ようやく落ち着いてきた。
「エッジさんとパメラさんって、とってもカッコよくて優しかったね」
「ああ。そうだな」
「あたし、あんな大人になりたい!」
「大女優じゃなくて?」
「大女優にもなるっ!」
子供の夢と憧れは、今回のことで大きく膨らんだようだ。
でもその後に聞いてきた質問は、まったく予想していないものだった。
「ねーねー! あの二人って、付き合ってるのかな?」
「……へ?」
「すっごい仲良しでしょ。二人でいつも一緒なんでしょ。じゃあきっと、付き合ってるよね? 恋人同士なんだよ」
「そう、かな……」
俺は歯切れの悪い返事しかできない。
前世からだが、そういうものには疎い。付き合ってるよなあの二人……と思ったら違っていたり、全く予想もしていない二人が社内恋愛の末に結婚してたり。
そういう勘というか、観察力というか、センスというか。俺にはこれっぽっちもないのである。
「絶対そう! きっとこの後デートするんだよ。あたし分かってる」
「そうかもな」
やっぱ女子は男子よりも、こういう恋愛的なものに敏感かもしれない。
「いいなー! あたしも恋愛したい!」
「いつかできるんじゃない?」
「……んー」
今度はパメラがよく分からない反応をする。子供とはいえ、女子の考えは分かり難い。
俺にとって女心とは、きっと一生の神秘なのだろう。なんてことを考えていたら、ふとお昼前に通りかかった劇場が目に映った。
今懐には銀貨が七枚もある。子供にしては途方もないお金だし、正直手に余るほどだった。ちょっとくらい使ったところで問題はないはず。
「なあ、ちょっとだけ観に行ってみるか」
「え……え!? いいの!?」
「せっかくだから。まだ帰るには早いだろ。やめとく?」
「観る観る観るっ!」
やっぱ子供だわ。俺は苦笑しつつも、実はちょっと緊張していた。
劇場に足を踏み入れるなんて始めてだったから。そういえば前世でも、劇を観に行ったことがない。
受付に行ってみると、もぎりのお兄さんに「おやおや、小さなお客さんだ」と笑って歓迎してもらえた。
サランの町の人々は、ファーガソンよりも暖かいような気がする。
劇場の観客席に入ってみると、前世でいう映画館を豪華にしたような椅子が沢山並んでいた。
エルディオンの劇場は予約席が主流らしいのだが、サランは特に席を決めているわけではなく、良い場所は早いもの勝ちだ。
ちょっと開演まで早かったのか、席はまばらだったので、俺たちはわりと良い位置を確保することができた。
「ワクワクするねー! すっごい楽しみ」
パメラは劇が始まる前から、それはもう元気いっぱいだった。俺はというと、ちょっと疲れていた。
でも、まさか劇場で居眠りなどするわけにはいくまい。そう思い頑張って起きようとするが、なかなかにキツイ。
でも実際に演者が沢山入ってきて、劇が始まると徐々に眠気が吹っ飛んでいった。
「みてみてー! 剣が本物みたい」
「うお……ホントだ」
歴史上の大戦を描いているシーンで、剣と剣がぶつかりあうシーンや、魔法を放つシーンなど、なかなかに興味深いものが続く。
最後のほうは騎士と姫の叶わぬ恋で終わる、よくある物語だったが、なかなかどうして見応えがあった。
「面白かったな」
「う、う……えぐ」
「パメラ、終わったぞ。大丈夫?」
「う、う……だい、だい、大丈夫」
大丈夫じゃないなこれ。パメラは感動しすぎてしまい、涙が止まらないようだ。
俺は苦笑しつつも、感受性が豊かなのはやっぱり、才能があるのかもしれないと思っていた。
もしかしたらパメラは、本当に演劇の世界で活躍するのかもしれない。
そんなことをこの時は思っていたものだ。
帰り道、もう一度ピクニックシートで空を飛びながら、俺たちは今日のことを振り返り、笑い合っていた。
夕日が沈もうとしている頃、ようやくファーガソンの村に帰ることができた。
長かった一日も終わり……そう思っていたのだけれど。
あのとき村で騒ぎが起きていようとは、俺もパメラも知る由もなかった。




