渾身の一撃
大地の魔法アースウォール。
これは術者の前に壁を作り出し、あらゆる攻撃から守ってくれる魔法だ。
だが、この魔法をもう少し改良して使えないか。そうイリスに相談したことがあった。
結果として一つの改良版を作ることに成功している。それが今発動しているものだ。
俺は杖を向けたまま、さらに魔力を込めていく。メタルビーストのブレスはまだ消えていない。
恐らくだが、ブレスをしているうちは動けないのではないか。推測をもとにして一つの行動を起こした。
作り上げた壁が、真っ直ぐに突進してゆく。杖が青く輝き、アースウォールで作り出した壁も周囲が青々とした魔力を纏っている。
「お、おいおい!?」
「壁が動いた?」
エッジとモニカが同時に声を上げる。こうした魔法を使ったやつは、彼らの仲間にはいなかったと思われる。
メタルビーストにとっては恐怖だったに違いない。なぜなら重厚な壁が、猛烈な速度で自分に突っ込んできたのだから。
直後、洞窟内に野太い悲鳴が響き渡った。
獣は魔法の壁に押し込められながら、ダンジョンの壁に激突した。銀の体が押し潰されんばかりとなり、もしかしたら勝負があった勘繰ってしまったほどだ。
しかしこの希少な経験値を持つ魔物は、並大抵の耐久力ではなかった。
魔法の壁は粉々に崩壊したが、奴はよろけつつもまだ健在だったのである。
「今だ! 一気に叩こう」
俺は叫びつつ、エアカッターを魔物めがけて放つ。メタルの体には致命傷を与えられないが、胴体のヒビを深くすることには成功した。
「おっしゃあ! 行くぜー!」
エッジが予備の剣を手に走り出し、モニカが続く。少し遅れて俺も向かっていた。
メタルビーストは怒りを露わにしながら、もう一度ブレスを吐こうとする。しかしそこでエッジが顔面を下から切りつけ、立て髪に守られた顔が天井を向いた。
「好機!」
モニカが叫び、胴体に出来上がったヒビ目掛けて剣を叩きつける。
実のところ、俺たちもかなり消耗していた。何度も魔法を使い、俺自身も最後のマジックポーションを飲みたいところだが、そんな暇もない。
もうこうなったら、俺も素手でぶん殴るしかないか。
でも、そもそも子供のパンチなんて効かないかも……爪が甘いなあと感じつつ、もう一度魔法で援護するか考えていたら、唐突にメタルビーストが体をそり返させた。
まさか、もう一発火のブレスを放つ気か。しかし、先ほどよりタメが足りない。恐らく放てないはず。
そう考えていた俺の予想は外れた。銀色の怪物は、もっと厄介な奥の手を隠し持っていたのだ。
ライオンの大口から解き放たれたのは、白く大きな光弾だった。
狙いは俺たちからずっと逸れていて、最初は焦って外したのかと考えたのだが、奴は狙いどおりに当てていた。
「きゃあー!?」
パメラの悲鳴がして、慌てて振り返る。すると、ゴーレムの足に光弾が直撃し、巨体がよろけながら倒れようとしていた。
「パメラ!」
慌てた俺が叫ぶ。ゴーレムはパメラを守ることを優先していたので、倒れ際でも彼女を両手で守るように包んでいる。
どうやら敵は、逃げ道を確保する狙いだったらしい。先ほどまでは塞がっていた通路への道が空いたことを確認するや、すぐに駆け出していた。
「させるか」
動き自体はかなり鈍っている。俺は奴へと走り、必死に飛びつく。かろうじて後ろ足を両手で掴んだ。
転びつつも足止めはできているかもしれない。だが、そんな考えは甘いとばかりに引きずられる一方となった。
「この野郎!」
逃げを選択した魔物の背中に、エッジが剣を振り下ろしたようだ。モニカも何かしらで攻撃を加えていたようだが、実のところここで何が起きたかは、はっきり説明することができない。
敵の後ろ足を必死で掴んでいたし、やたらと振り回されたりで視界がぐるぐる回っていたからだ。
ただ、この戦いは意外な形で終息したことは覚えている。
「うおおおお! ……お?」
急にメタルビーストの後ろ足から、力がなくなったのが分かった。さらに掴んでいた後ろ足を見ると、胴体から離れている。
「おおお! やったぞおおお! すげえな嬢ちゃん!」
「お手柄ね!」
起き上がってみると、メタルビーストは胴体からバラバラになり、銀に輝くお宝の山へと変わりつつあった。
「リザン! だいじょーぶー?」
パメラが心配そうにこちらに駆けてきた。何のことかよく分かっていない俺は、呆けた顔をしていたと思う。
「ああ、パメラのほうこそ、大丈夫か」
「あたしはへーき!」
「流石だな。ところで、メタルは?」
「えへへ! やっつけたよ。これ!」
ニコニコしながら、半壊した棍棒を見せてきた。
どうやら瀕死のメタルビーストに、パメラがトドメの一撃を与えたらしい。これにはビックリである。
「凄いじゃないか」
「あはは! チャンス! って思って背中をバン! ってやったの」
俺が感心していると、パメラの笑顔はさらに満開になった。
「でも全部、リザンのおかげだよね。ありがと!」
「みんながいたからだよ」
正直、俺は戦いというものを舐めていた。今後はもっとよく学び、慎重に効率良く戦えるようにならないと。
それと、お礼を言ってくれたのはパメラだけじゃない。エッジとモニカもこちらにやってきて、俺たちの頭を撫でてくれた。
「信じられないが、お前らはマジで天才みたいだな」
「そうね、私も驚いたわ。坊や、どこであんな魔法を覚えたの?」
年上のお姉さんに撫でられて、なんとなく恥ずかしくなった俺は、照れ隠しをするように真顔になっていた。
「いや……適当にやってみただけっていうか。魔道具に教わったんだ」
「イリスさんって凄いよね! なんでも知ってる!」
パメラが俺の左腕に装着されたイリスに、羨望の眼差しを注いでいる。
もしイリスがAIじゃなくて意思があったなら、喜んでいるかもなぁ……などという変な想像をしてしまう。
その後、俺たちは沢山の銀を回収して、サランへと帰ることにした。
埃まみれで怪我もして、ヘトヘトではあったけれど、これまでの人生にはない大きな達成感に包まれていた。
洞窟の中はすっかり静かになっている。
どうやら巣くっていた魔物達を一掃したようだ。でも少しすれば、また他の魔物がやってくるだろう。
帰り道、俺たち四人は興奮が冷めることがなく、メタルビーストとの戦いを語り合っていた。
◇
大金星となった戦いについて喋っているうちに、あっという間にサランの門に辿り着いた。
ギルドにやってきて報酬を受け取ることになったのだが。
「……これ、立て髪? え、え……メタルビーストのライオンじゃないですか!」
ギルドの受付嬢が、飛び上がらんばかりに驚いている。
「はっはっは! まあそういうことさ」
エッジが得意げに笑っている。この堂々とした態度が真実味を後押ししてくれた。
ギルド内の酒場でもどよめきが起こっている。これは相当珍しいことが起こっているらしい。
俺としてはとにかく経験値が欲しかったので、ほぼ目的は達成していた。報酬は多少懐が潤えばと思っていたんだけど。
パメラが驚いて、受付嬢から貰った袋を落としそうになっている。
「わあ! こんなに貰っていいの!?」
受付嬢から貰った報酬は銀貨二十枚というもので、なんとも破格な見返りとなった。
「勿論ですよ。立髪のメタルビーストは本当に珍しいんです。当初の報酬より、ずっと上乗せしなくてはいけないくらいなんです」
受付嬢からの説明によると、それだけ価値のある素材だったらしい。
次にしたのは、報酬の分前をどうするかの相談だった。とはいえ、大人たちがすぐに決めてくれたのだが。
モニカは穏やかな微笑と共に、パメラに三枚、それからなぜか俺には七枚手渡してきた。
「あれ? 俺七枚も貰っていいの?」
「ええ。だってメタルビーストの情報を教えてくれたのも、あの場所を見つけてくれたのも、それから討伐に一番貢献したのも坊やだからね」
エッジがほくほく顔で、俺の頭を撫でてきた。
「少年のおかげで、俺たちはかなり美味しい思いができたってわけさ。今日はこれで朝まで飲み明かすぜ!」
「もう、ダメでしょう。ちゃんと貯金しなくちゃ。それと剣だってボロボロよ。次の準備を整えて、貯金もして……遊ぶのはそのあとよ」
「ちぇー! つまんねえなぁ」
そう言いつつも、彼は悪い気はしていないようだ。この様子だと、いつもモニカに嗜められているのかも。
「ね! ね! あたし達はこの後どうする?」
パメラはどこか興奮している。俺はいくつかしてみたいことがあったので、それを提案することにした。
「そうだな。まずはレベルを確認したい。今回のことで、けっこう上がったと思うし」
「あ、そっか! あたしもしてみたい!」
これには、エッジとモニカも興味を示したらしく、すぐに手配してくれた。
どのくらいレベルが上がっているか。それによって、今後の冒険も変わってくるというもの。
まずはパメラがレベル測定器を使うことになった。




